【82-13話:聖都テポルトリへの帰還!】
眠れないと思っていたがいつの間にやらサギの髪の毛を撫でながらも眠りについていたようだった。それでも夜中に何だか身体中に程よい柔らかさを感じて頭の中が少し覚醒してくる。
月夜に輝く夜のとばりの中でちょうど窓から差し込むその光が美しく部屋の中を照らしていてくれていた、その明かりで何となく周りが見渡せたが……俺の周りにはサギだけでは無く、他の二人も傍に寝入っていたんだ。ちょうど俺を囲むように――周りを。
この間の状態と一緒だったが……。
「まっいっか」
俺も少しは耐性が出来てきたらしい、彼女等の柔らかな香りと感触に包まれながら俺は再び夢の中に引き込まれていった。
朝を迎えて俺はサギの軽い悪戯で目が覚めた。
俺よりを早く起きたサギは俺の寝顔をまじまじと見ながらクスクスと笑っていた。なんだと思いながらもうっすらと開いた横目でサギを見ると枕に頬杖をついて空いた手の指先で俺の頬を突いていたんだ。
「あっ、ごめんね。起こしちゃったぁ」
目が開いた俺を見て口元に手を翳しながら、しまったと言う顔をしている。
「おはよう、サギ」
取り敢えず寝ぼけ眼のまま朝の挨拶をしておく。
「えっ、あっ――おはよう」
さりげない悪戯を見つかった子供のように目を逸らしながら頬を赤らめてサギがそう返してきた。まあ、こんなところも可愛いなと思ってしまう。そんな思考に俺自身、ウギの言うバカップルだなっ――と、ふと思った。
その状態で俺の周りを確かめてみると昨日の夜中に見た夢の中のような景色が現実であったことに気付かされる。やはり其処にはウギとマギの姿もあったんだ。彼女等も俺に寄り添ってスウスウと可愛い寝息を立てながら宛ら天使のように眠っていた。
でも、こんな状態が是から先、続いていくかと思うと嬉しさ半分やるせなさ半分というところであった事は俺の心の中だけに置いておくこととした。
「サギっ! わるい、ウギ達を起こしてくれないかなぁ――さすがに此の状態はドギマギしそうだ」
「あら、こういうのに慣れて貰わないといけないわよ――エンマがラリーを諦めるまではね」
そう言う棘のある言い方は如何かと想ったが、今の俺には取ってはサギの方が正論だ。何も言えない。
サギが先にベットから抜け出して昨日俺に教えてくれた衝立の影へと消えていった。
服を着替えてからウギとマギ達をサギが叩き起こしにかかる。
「ほらっ! ラリーが一緒なのよあんまり不精だと呆れられても知らないわよ、起きた起きた!」
容赦なく毛布を剥ぎ取っていくサギが目を剥いたところで動きが止まった。俺もその視線の先を気にして目をやると、マギの完全裸体が其処に横たわっていた。
「ラリーっ! 目を瞑って!」
その厳命に即座に従った。目を瞑って横を向いて於いた。
「こらっ~ぁ、マギなんて格好でラリーにくっついてたの~っ――さっさと離れなさい!」
マギを強引にベットから引きずり下ろして衝立へと押しやってからサギが俺への命を解いてくれる。
欠伸をしながら引きずるように躰を起こして衝立の方に赴くマギの肢体を男の本能で感じながらきつく結んだ目をサギの方に向けた。
「目を開けてもいいか?」
「あっ! ごめんね、いいわよ。後はウギね」
ウギも俺の傍らですやすやと寝入ったままでいてこれだけ周りが騒がしくなっても一向に起きてくる気配が無かった。此方はまあ夜着の装いではあるが日頃の露出と大差が無いのでサギもスルーらしい。
「ほら、ウギも起きなさいってば! 剥ぎ取るわよ、その夜着ごとっ!」
おい、其れは俺の目の前でやって欲しくないことだと思わないのか? マギと扱いが異なるのは?
「妾か? わかった脱げばいいのか?」
ウギが寝ぼけたままでその場で着替えようとトップスに手を掛けた所で――「ストップっ!」
サギの叫び声が木魂した。
そんなこんなで三人三葉の朝支度を迎えて俺達の一日始まったが……。
「こんなんで、俺はいつまでこんな艶美な環境を耐え凌ぐことができるんだろう?」
素朴な疑問と共に俺は項垂れていった。
三人娘達が朝の仕度をしている間に俺はヴァルを連れて城の外を散歩がてらに軽く走り込んでいた。身体が鈍ってきていたのは確かで先のエンマとの間合いでも虚を突かれたとは言え全く反応出来ていなかった。あの時、マギのフォローが無かったら完全にエンマに一本取られていた所だ。
“なあヴァル、エンマの秘呪術はあの時本気だったと思うか?”
“あら、その答えを私に求めるのは――宜しくないと思うわよ”
ヴァルが俺の問いにそう答えてきた。
“その言い方だとヴァルはエンマの真意が解っていそうな雰囲気なんだが……そうなのか?”
“ラリーっ! 其れも――ノーコメントとして置くわ。乙女心と恋が絡んだ話しなんだから自分なりに悩みなさい”
“恋~ねぇ~っ?”
恋と言われても今ひとつピンとこない俺だったが、ヴァルへの問いかけは此の件に関しては応えてくれないだろうと言う事は理解出来た。
“ところでエンマとの再会でヴァルの使命は事足りたのか?”
その言葉にハッとしたようにヴァルがその歩みを止めて俺を見つめた。
“なっ! 何を言っているの?”
“あの時、俺が『覇王気』を纏うことがあるのを知っていたのはマギと――ヴァル! 君だけだ。そのことをエンマには話さなかったのは何故なんだ? まあ、エンマは何となく気が付いていたようだが確信は無いと思っている、そこでヴァルがひと言進言すれば君の任務は終わりなんだろう”
“―――”
ヴァルの無言の魔力念波が俺との間で息の詰まる時間を作っていた。
次回【82-14話:聖都テポルトリへの帰還!】を掲載いたします。