【82-12話:聖都テポルトリへの帰還!】
しかし奇しくも一緒の部屋になったわけだが、彼女等も元はひとり部屋で個々の事は特にお互いに干渉することは無かった。
そんな彼女達自身もそれぞれ初めての完全共同生活となるわけで――そんな中、サギがテキパキと指示を出してそれぞれの荷物やら何やらを片付けている。ただただ彼女等の働きぶりを惚けたように見ていたところ、その視線に気付いたのかサギがこっちを見て喋り掛けてきた。
「んっ? ラリー何か用? そうやって、じっと見られていると――やっぱり恥ずかしいわね」
そう言いながらサギの頬が少し朱に染まっていたのに気付いた。やっぱり可愛いと思ってしまう。
「あっ、わるい! 何でも無いよ、ただ何となく見入ってしまっていたんだ。サギがテキパキと皆に指示しているからね、すごいな~ってさ」
「うん、是は……だって聖都テポルトリの宮廷魔術師団では相部屋で暮らしていたから経験かな? 私の同室の娘って面白いのよ――え~っとそう言っちゃ彼女に怒られるわね、今のは無しねラリーっ! そうそう名前はロミルダ・ヴェルトマン、通称ロミ! って、覚えておいてくれると私も嬉しいかな。特に彼女は情報に長けた所があるから味方に付けると心強いわよ」
そう言う風に喋りながらもサギは手を休めることは無かった、本当にこういうところは貴女の女性としての美しい所作が目立っていた。其れを俺は惚けた顔で見ていたわけだが何か幸せ感が心の奥にふわ~っとこみ上がっていたのは俺だけの秘密としておいた。
取り敢えず皆の引っ越し作業は滞りなく終わってテーブルについてお茶を飲んで休んでいた。
「サギの言う通りに全て終わったわよで、次は何っ?」
両手で器を優しく抱えるように口元に運びながら熱いお茶をふうふうと啜って一息付いた後マギが聞いてくる。
「特に無いわよ、ここの部屋に結界は掛けさせて貰ったけど、まあエンマにすれば気休めかしら」
「それならその上に私も二重に結界を掛けておこうかしら――それならもう少しいいかも」
「そうね、お願いするわマギ」
サギとマギの間でそんな会話が行われいることと、其れが自分の為だと言う事に何となくこそばゆさを感じいていた。そんな気持ちが顔に出ていたんだろう、不意にサギが俺の方を見つめながら聞いてきた。
「あら、ラリー~っなぁに? そんな風にほくそ笑んで、私何か可笑しかったかしら?」
「いや、単に二人の遣り取りが何となく自然すぎて――わるい。笑っていたか俺!」
そう言って二人に頭を下げた。
「えっ! 頭を下げるほどのことでは無いのよ」
「いや、其れもそうだがエンマとのことでは迷惑を掛けているからな――色々と有り難う」
「そんな事無いわ――私たちがそうしたいからやっているだけよ、ねっマギっ!」
「んっ! 何か言ったか? サギっ? 聞いていなかったわ」
マギはサギに言われて俯いていた顔を上げながら不思議そうな顔をしながら聞いてきた、彼女は二重結界の呪文に入っていたみたいだった。
「うんん、マギごめんね。邪魔したみたい、そのままやっていてくれて良いわ、何でも無いから」
「そうか、じゃそうする」
と、マギは再び呪術の詠唱に入った。シィ~ンとした空気がその場に流れている。
サギもそうだがウギにしてもエンマとの出会いで何となく人が少し変わったような気がする。単に俺だけが子供扱いになって皆が大人になったって言う様な感じなんだが……其れって少し俺に取っては寂しいっていうかなんて言うか、くすぐったかった。
「うふっ! ラリーなんか照れてるでしょ~ぅ」
サギが早速、俺の顔を覗き込んでそんな風に茶化しに来た。そんな事は以前のサギでは無かった事だ。
其れも何でだか嫌な気持ちでも無くその場の空気に沿うように俺の所作も自然に入っていった。単にお茶を啜る為に器を顔に持っていったわけだが、同時にその器で顔を隠してサギの視線を遮った。
「隠したのね、ふ~ん」
そう言ってサギが俺の脇腹を軽く突いてくる。くすぐったさに呑んでいたお茶に噎せて咳き込んでしまった。
「ぐっふーっ、げほげほっ」
「あっ、ごめんなさいラリーっ」
サギが慌てて俺の背中を擦ってきた。俯きながら思いっ切り咳き込んでいた俺を真剣に介抱しようとして焦っていたサギにウギがとどめの台詞を吐いてきた。
「お主ら――いつからそんなバカップルになったのかのぅ、妾達の前じゃぞ少しは遠慮と言うものも在ろうぞ、なあマギそう思わんかのぅ」
「まあ~ぁ、いいじゃないのぉ正妻だし」
「そうじゃのぅ――正妻じゃしのぉ」
そう言う声にサギが顔を真っ赤にして叫んでいた。
「正妻って言うな~ぁ!」
全くこんなところは皆変わっていないな、ひとりでそんな事を俺は思っていた。
そんなドタバタした一日だったが、その後にエンマの追撃も無く特に変わらない一日を終えようとしていた。
「さて、そろそろ寝る?」
マギがそう言ってきた、確かに夜も更けてまた明日のことを考えると皆で早々に寝ることにした。
「今日はわたしが添い寝で良いわね――みんな?」
そう言ってきたのはサギである。他の二人はコクコクと首を縦に振るだけで応えていた。
「じゃあラリーはこっちね――おいでってば~ぁ」
俺はそんな言葉にドギマギしながらもサギのベットにそそくさと入り込んでいった。
「取り敢えず今夜はよろしくお願いします、お手柔らかに……サギさん」
ベットの上で三つ指をついてサギにお辞儀をしておいた。
「あっ、なにっそれっ? ラリーってばちょっと酷くないこと!」
プンスカした顔をしてサギが俺を睨み付けてくる。
「だってさぁ、普通は逆だろう――俺がサギを守るなら兎も角、なんでだか守られる方なんだからエンマの奴、絶対にあとで会ったらで絞めてやる」
俺も負けじとブ~たれてみた。
「あははっ! 言われてみればそうねぇ、でも何だか私は嬉しいのよ」
そう言ってサギが俺の方に躙り寄ってもたれるように肩に頭を乗せてきた、貴女の甘く爽やかな髪の香りが俺の鼻腔を擽ってくる。
俺は身が持つかな~ぁ、そんな事を思いながらサギを左手で抱きかかえるようにして天井を見つめていた。
「ラリーっ……わたしは好いわよ、いつでも!」
「なっ! 何のことだっ!」
「うふっ! べつに」
そう言って俺の頬に軽く口づけをするとさらに躰をくっつけてくる。貴女の胸元とも太股ともあらゆる場所が俺の肌と重なり合っている感覚でその各所の女性らしい柔らかさの触感に感化されて頭の中が冴え渡ってきて眠るどころでは無くなってきていたが。
「おやすみなさい……ラリーっ」
そう言いながらサギは自然にスウスウと寝息を付き始めていた。
おい、蛇の生殺しだろうが是じゃっ! と、俺は心の中で毒づきながらもただただ貴女の滑らかな髪の毛を手で掬うように撫でている事しか出来ないでいた。
次回【82-13話:聖都テポルトリへの帰還!】を掲載いたします。
※今まで定期的に掲載していましたが、そろそろ不定期掲載に移行する状況に陥ってきました。
出先がネット環境の思わしくないところも有る為ご了承下さい。m(_ _)m




