【82-11話:聖都テポルトリへの帰還!】
扉の傍でなかなか中に這入る決意が出来ず立ち尽くしている俺をウギが引っ張りにやってきた。
「ラリー、妾達が居るからエンマも躊躇するかも知れないのだぞぅ――ほうれ、這入った這入った!」
ウギに促されて俺は部屋の中央におずおずと進んでいった。それにしても女性陣と一緒の部屋って言う事は着替えから何から目の前で彼女達がする事を俺はどうやって見ないように回避すれば良いんだ? そんな悩みを考えていると俺の顔にその不安が出ていたのかサギが答えをくれた。
「私たちの着替えは――ほらっ、そこに衝立があるでしょう、その影に隠れるから大丈夫よ、ラリーっ」
「妾は別に見られてもいいのだぞぅ、ラリーなら。そうそう何なら今から目の保養にどうじゃ」
ウギはそう言うとその場で着替えを始めようとしていた。そんな彼女の肩を俺は掴んでその場は止めに入った。
「ウギ、頼むから着替えはサギの言う通りにしてくれないか、そうでないと俺が困るんだ。わかってくれ」
ウギの肩を掴んだままその体勢で俺は頭を下げて頼んだ。
「わかったのじゃ、ラリーが其処まで固持するなら妾も――でも、何か物足りないのじゃぞ」
ウギはひとまず俺のお願いを聞いてくれそうになったがもうひとりの妖艶魔導師はそんな事お構いなしにチャッチャと下着一枚になって其処いらを徘徊していた。そう思ったらいきなり俺に抱きついてくる。
「ラリー、ちょうど良いからあなたの女体耐性強化プログラムを考えましょうよ」
マギは俺の後ろから抱きつきながら俺の横に顔を寄せてニッコリと微笑みながら恐ろしい誘惑をしてきていた。彼女はその豊満な胸元を俺の背中をムギュッと押しつけながらそんな事を言ってくる。
そんなマギを鬼の形相で睨み付けながらサギが俺から引き剥がしに来る。
「マギっ! そんな事を最初からしていたらラリーが出て行ってしまうでしょう」
「んっ? サギっ? 最初から……? あとなら良いのか?」
「――そんな事を今、此処で言い争いしてみますか? マギっ!」
二人の美女の遣り取りを背中で聞きながら俺は是から事を憂いていた。マギはサギから強引に服を着せられてぶうぶう言っていたが……。
ところであと数日、此処で彼女等と部屋まで一緒になって暮らすことになるとはヴィエンヌに来た時には思いもしない状況に戸惑っていた。普通の男どもならこんな美女に囲まれた羨ましい環境と言われるだろうが、俺に取っては未知の経験の予想も付かない先の状況に不安だけが先立っていたんだ。
そんな心の中を皆が読んだのか、三人とも俺に寄り添うように抱きついてきて甘えるような口調で話し始めた。
「ラリーは此処でゆっくりしていれば良いのよ、今までは私たちを陰日向で守ってきたんだもん――エンマの事は考えても予想も付かないわ、だったら今は考えないこと」
「そうじゃぞぅ、妾達が見守るからのぅ」
「だったら、私のさっきの下着姿で愛でて貰えばいいことだったんじゃない?」
「『それはちがうわ(のじゃ)』」
マギの台詞に速攻でサギとウギが噛みついてくる。そんな遣り取りを傍で聞いていると何だか落ち着いてきた。
「そうだね、サギの言う通り此処で俺は心を休ませて貰うとするか――でも、くれぐれも穏便に頼むよ」
それぞれの立ち位置から俺を覗き込む彼女等の満面の笑顔が俺の心の氷を少しずつ溶かしていってくれるようだった。
部屋の中の各自の割り振りは既に決まっているようだった、サギが俺の荷物を解いてササッと仕舞ってくれていた。
「ラリーは此処の棚を使ってね、私たちはあっちの方の棚を割り振ったから――間違って女性物の下着を手に取ることがないようにしておいたから大丈夫よ。其れとベットはこっちね――後のこと夜の楽しみにってね」
ニコニコと微笑みながらサギがそんな風に仕切ってくれていたが、しれ~っと何か恐ろしいことを言わなかったか? えっ?
そんな事を考えながらも是から数日間の事を考えてしまっていた。まあ、サギの言う通りエンマの事は考えれば考えるほど深みにはまって抜け出せなくなるからそっちは皆に任せることとしよう。
残りは聖都からの使者が持ってくる大公様からの指示のことだが――多分、聖都テポルトリに戻ってこいとのことだろうで、戻ってから俺達はどうなるのだろう。そんな事を考えながら、サギ達の事を傍らで眺めていた。
次回【82-12話:聖都テポルトリへの帰還!】を掲載いたします。
※今まで定期的に掲載していましたが、そろそろ不定期掲載に移行する状況に陥ってきました。
出先がネット環境の思わしくないところも有る為ご了承下さい。m(_ _)m