【82-6話:聖都テポルトリへの帰還!】
朝のドタバタが嘘のように俺達は食堂に行儀良く並んで座って朝食を食べていた。
「ねえ~ぇ、ラリー? 数日後に聖都からお迎えが来るんだって?」
「ああ、そう言ってたよメイラーさんが、サギはリアーナお嬢様から聞かなかったのか?」
「ううん、そんな事を言ってたような、言ってなかったような? だってお嬢様も呂律が回らない程酔っていたし、訳わかんない状態でそんな事覚えていないのね、私たち!」
サギが開き直った態度でそう言い切ってくる。
「あのさ~ぁ、なんだかんだって結局はただの女子会の飲み会になっていただけなのか」
愚痴のような台詞でサギの開き直りにチクリと釘を刺しておいた。
「妾とちゃんと寝ておったぞ――どうじゃ!」
ウギっ! 其れってもっともらしく言う事じゃ無いだろう。そう言う気持ちでウギの事を半眼で睨み付けてみる。
「く~ぅん」
おい、ウギっ! お主は子犬か? 睨み付けられてウギは悄げるようにそんな声を発した。
そんな風に、一頻り昨日の事を、お互いの会話の中で少し垣間見ながらそれぞれ淡々と朝食を続けいてたと、マギがその中に波紋を広げるような質問をしてきた。
「ところでラリー、エンマの事だがお主の記憶の中に彼女の面影を垣間見たのだが知り合いなのか?」
「はぁ~?」
マギよいつの間に俺の夢に入り込んでいたんだ? やはり君は恐ろしいぞ。
「いやー、なんだなぁ――あっ、そうそう私は夢魔だからね~ぇ」
そう言いつつ俺の追求を躱そうとするマギの思惑がありありと感じられてきた。
「其れはそうかも知れないが、俺の夢に勝手に入ってこられても――なあ、サギそう思うだろう」
俺はサギを味方に付けんとしてそう話しを振ってみた。
「ん~、そうねマギの夢魔の行いはいけないことと思うけど――でもエンマって魔女王のエンマ・イラディエルのことよね。それってラリーどういうこと?」
拙いな~ぁ、サギはマギ側かよ。
「エンマ・イラディエル魔女王っていきなりそんな話しは知らないわよ、ラリーっ?」
サギはたたみ掛けるように言葉を被せてきた。しかも……。
「あっ、その話しなら妾も聞きたいぞ」
ウギも話しに食いついてきたよ、是では多勢に無勢だぞ。そんな話しをしはじめようとしていると横からいきなり凄艶な声色が降ってきた。
「あら、いきなり私の噂をしてくれているの? 初めましてって言っていいかしら!」
そう言う言葉が何故か俺達の並びから聞こえてきて皆がその言葉を発した主の方にビクリとして顔を向けた。
其処には俺達ヴァルを除いた四人の列の最後尾に五人目の女性が俺達と同じように食事をしていたんだった。その女性に其処にいた者達、皆が目を見張った。
その女性は俺達と同じように座って食事をしていたが彼女の眩いばかりの金髪は真っ直ぐでその先端は腰まで隠すように美しく流れ落ちていた、そうしてそのキラキラと艶のある光を放つその髪を片手で掻き上げながら俺達の方を見ていたんだ。黒を基調とした清楚なドレスを身に纏っているがその中にも凜とした佇まいを魅せるその様相は女王の貫禄を醸し出していた、がそれでもどことなく幼げな少女の様な雰囲気をも匂わせていて誰もが見惚れてしまう美しさと匂い狂う様な色香の両面を持つ不思議な女性だった。
「なっ、なんで? 此処にいる?」
俺はおもわず彼女を指さしながら椅子から立ち上がった。
「あらっラリーっ、久しぶりって言うのにつれない返事だこと、幼い頃の約束とは言え私は覚えていてよ、そうだ私の事を皆さんに紹介してくれないかしら? ねぇダーリンっ!」
そう言って彼女はその特徴的な瞳を軽くウインクしながら俺の方に近寄ってきた。そう、彼女の瞳に誰もが吸い込まれるように魅入られていた。その金眼色の瞳に!
彼女の瞳を見て俺は一気に記憶が蘇ってきた。そう確かに俺は幼い頃に彼女に会っていた、会っていたと言うよりも短いながらも一緒に暮らしていたと言った方が良いかもしれない。
「エンマなのか? と言うか君はあの泣き虫エマか?」
「あっ! その言い方は無いと思うわよ! 弱虫ラーちゃん!」
そう言って彼女はいきなり『あっかんべー』をしてきてその舌の奥に小さな黒い星状の斑点を俺に見せてきた。
「あっ! その斑点っ! エマちゃんっ!」
「もう~っ! やっとわかってくれたっ! って~おそっ!」
プクッと膨れているその顔は確かに昔の面影が少し残っていた――でも、成熟したその肢体は俺にはもうエマちゃんとは呼べない大人の女性そのものだったよ。
「あらっ、気になるのかしら、どう? 私の躰つきは大人になったでしょ……ちなみにスリーサイズはB88、W58、H88でちなみに胸はFカップよ! 触っても良いわよ、どうぞ!」
「「『絶対っ! 触ってはダメです(よ)(じゃぞ)!』」」
其れまで会話に入ってこられずにただ見守っていた女性陣がここぞとばかりに口を揃えてそう叫んできた。
「えっ、何っこの娘達は? 人の恋路の邪魔はしないで頂戴っ! んっ? 人じゃないわね――魔族ね。おやっ? 其処にいるのはヴァルっ? ヴァルよねっ!」
そう言うが早いかエンマはヴァルの方に駆けていってその首元にしがみつくように抱きついた。抱きつかれたヴァルも嬉しそうにエンマの顔を舐め回している。
「んんんっ、わかったわかった――そうなのね、ラリーと一緒にいたの――うん、うん」
エンマとヴァルは魔力念波で会話をしているようだった。その様子を見ながらサギが俺の方にす~っと寄ってきてそっと囁く様に耳打ちをしてきた。
「ラリー、彼女があのエンマ・イラディエル魔女王っ? その彼女をエマちゃんってあなた達? 知り合いなの?」
まあ、面食らってそう言う質問は普通だよ~ねぇ。俺も初めて今、知ったよ。あの幼なじみのエマがエンマだったなんて。
サギの問いには取り敢えず首肯しておいたがまだ俺自身、半信半疑であることは確かだった。俺はヴァルと戯れているエンマの方に近づいて彼女の傍らにしゃがんだ。そうしてエンマに声を掛けた。
「なあ、お前が此処に来た理由は何なんだ? まさか俺に会いに来たって言うわけでは無いだろう」
「あら、つれない台詞だこと。ラリーに会いに来たかったからって言っても信じてくれないのかしら」
ヴァルの首回りにしがみついたまま顔だけを俺の方に向けてそう言ってくる。
「エンマ・イラディエル魔女王ともあろう魔界のトップがそうそう暇を持て余すとは思えないがな」
頭の後ろに手を回して身体を少し反らせながらエンマを横目で見てそう切り替えした。
「まあね、私も暇と言うほどでは無いけど魔女王なんてそんな始終仕事に追われているわけでは無いわよ――こうやってプライベートとして来訪してもいいじゃないの。それともラリーは私に会いたくない理由があるのかしら?」
まあ、面と向かってそう言われると俺としても幼馴染みに会うことは嬉しいことでもあるわけだが……そうは言ってもこういう所でいきなり、こんにちはは無いだろうと思っていた。
「そうね、綺麗どころのハーレム状態でラリーも立場的に私にいきなり会うのは微妙と言うことかしら? でも、覚えていて? 幼い頃の私との約束を……ん、ラリーっ?」
ちょっと待て――いきなりそんな事を言われても思い出せないぞ! 俺はエンマいや、エマちゃんと何を約束してたっけ?
次回【82-7話:聖都テポルトリへの帰還!】を掲載いたします。