【82-2話:聖都テポルトリへの帰還!】
『エンマ・イラディエル魔女王が俺を探している?』
マギとヴァルの質問には俺は無言でいた。二人とも其れについては特にそれ以上は話しを掘り下げてはこなかったが其れは其れで俺の無言の肯定と取られてもおかしくは無かったわけで後から思うと失敗した感が満載の反応だったと思う。
そうは言っても俺自身自分が何者であるかをわかっていないのだから、そうですとも違いますとも言えない状況であると自分に言い聞かせるようにして――自らもその場を誤魔化していた。
そんなもやもやとした気持ちの中で自分の部屋のベットの中で天井を眺めながら思いを馳せていた。エンマ・イラディエル魔女王って――俺は幼い時に会ったことがあるかも知れない?
ヴァルと出会った時にヴァルの身の上話に幼き時のエンマ王女の話があった、その時のヴァルの魔力念波に載った当時の記憶のイメージが――ヴァルとエンマ王女のかくれんぼの時の場所の風景が――何となく俺の幼き時に育った場所の風景と妙に酷似していたのを思い出したんだ。そう言えばセット婆さんのところに遊びに来ていた女の子にそんな名前の子が居たような気もする? あれっ、
ニネット爺さんの知り合い関係だっけか?
暫くそうやってベットの上で悶々としていた。そんな所にサギがお昼御飯を誘いに俺の部屋を再び訪れてきたんだ。無論、サギは扉をノックしてきたはずだったが其れに気が付かないほど俺は過去の俺の記憶旅行に邁進していた様だった。
「ラリーっ? 何しているの? 身悶えて?」
と、サギの掛けてきた言葉で俺はサギが今まさに俺の事をじっと見ていていることにやっと気が付いた状況だった。
「へっーぇ……サギっ? えっ!」
俺はおもわずベットから飛び起きて赤らめる顔を見られないように顔を背けた。
「ノックはしましたから、返事が無かったですけど鍵が開いていたので中にいるかと――ごめんなさい」
そう言ってサギが俺に謝ってきた。
「あっ、そう言う意味じゃ無いんだ――まあ、ちょっとね」
「でも……勝手に入ってきたのは事実ですから、謝っておかないとですね」
「いいよそのことは、俺の事が心配だったんだろう。此方こそ、ごめんな。いらない心配を掛けて……」
その言葉にサギが俺の隣に腰を降ろしながら話しを続けてきた。
「ラリーが何か思い詰めているようだったから――大丈夫?」
そう言ってサギは身体を傾げると下から俺を覗き込むようにして見つめてくる。
その瞳には俺の事を真に心配している気持ちがありありと浮かんでいて、しかも上目遣いで見つめられるとドキッとするほど艶めかしかった。そんな貴女の手を取りながら俺は心の奥にしまっていた思いを話し始めた。
「サギっ、俺が魔王候補だったとしても俺の事を嫌いにならないでいてくるれって言ってくれた事があったよね」
「ええっそうですわ、其れは今も変わらないこと――んっ、ちょっと違うかな? 嫌いにならないって話しでは無くて『好きです』って言ったのよ! 間違わないでね!」
サギは少し頬を膨らませながら怒ったように俺に言って聞かせてきた。そんなサギに俺は笑いながら話しを続ける。
「わるい――そうだったね、ありがとうサギ。その言葉にどれだけ俺は心を救われたか」
俯きながら語る俺にサギが俺の顔を両手で挟み込むと貴女の真正面に顔を向けさせてニッコリと微笑みながら俺の額に貴女の額を擦り寄せてきた。俺の目の前のサギの艶やかでふっくらした唇がゆっくりと語り出した。
「ねぇラリー、昔も言ったわよね『ラリーは何があってもラリーだもんって、だから良いの――ラリーが何なのかは私にとっては小さい事なの』って、それは今でも変わらない私の心の思いなの。ラリーが何に悩んで何を迷っているのかは話せる時が来たら教えてくれれば良いわ、無理に話してくれなくてもいいの。だから……ラリーはそのまま気持ちをずっと持っていてね」
「ありがとう――サギっ」
俺はそのまま貴女を俺の胸の中に抱き締めていた。サギもその思いが溢れてくるように俺をきつく抱き返してきてくれた。
暫く二人でそのまま抱き合っていたがフッと心の中で何かが触れ合ったような気がしてどちらからともなく身体を離した。そうして二人で見つめ合ったままクスッりと笑いが出来てきて、二人で同時に笑い出していた。
「そう言えばサギは何か用事があったのでは?」
「あっ、そうそうお昼御飯の時間だから――その後はリアーナお嬢様のところに一緒に行くんでしょう、だから誘いに来たの」
「そう言う時間だったか――そう言えばお腹が空いてきたね」
「うん、じゃあ食べに行く?」
「ああ、そうしよう」
そう言って二人で食堂に向かうべく俺の部屋の扉を開けたところにウギとマギそうしてヴァルの姿があった。
「あらっ、もう終わり? 二人の睦み合いが是から始まると思っていたのよ――サギはもういいの?」
そう言ってマギがからかいがてらサギの肩を抱きながら話しかけてくる。
「なっ! 何を言ってるの? 私はそ、そんなつもりで……」
「……つもりで? って何が? サギさん、私たちを出し抜いていくのに言い訳は無いわよね~ぇ」
サギが真っ赤な顔で反論しようとしているがわなわなと震えるだけで言葉が出てこなかった。
「妾はサギの後でもいいのじゃぞ――本妻の後で、妾の嗜みじゃな」
ウギのぼやきともつかない呟きが駄目押しとなった。
「うううっ……うわ~ん」
サギは真っ赤な顔を更に上気させるようにしてとうとう泣きだした。そうして叫ぶように台詞を吐きながら先に走り出した。
「バカッ~ん」
あ~ぁ、マギっ! 俺はマギを睨み付けながら呟いた。
「おいおい、あまりサギを虐めるなよ」
「まっ! 純情な乙女にはちょっと酷だったかしらね」
舌をペロッと出しながらしたり顔でそう言う風に言ってきた。
「兎に角、サギも食堂の方に走っていったようだし――食事にしましょう」
「おう、そうじゃのぅ。妾も腹が減ったぞぉ、飯じゃ飯じゃ」
そう言って二人とも何事も無かったかのように歩き始める。
「ふ~っ――まあ、いっか」
思いっ切り嘆息を吐いて俺はぼやいた。
次回【82-3話:聖都テポルトリへの帰還!】を掲載いたします。