【82-1話:聖都テポルトリへの帰還!】
ニコラス師団長の依頼から始まったリッチモンド伯爵家へのチームラリーの護衛任務はそろそろ聖都テポルトリへの帰還の時期を迎えようとしていた。もともと護衛師団メンバー怪我人の療養にしばしこの地に留まる事になってその護衛任務を兼ねてリッチモンド伯爵家への護衛任務もつかさどっていたことから怪我人が完治すれば任務は終わりとなる。ヴィエンヌ城の温泉の効果もあり護衛師団メンバーの怪我は異例の早さでほぼ完治に向かっていた。
そんな折、サギが俺の部屋を訪れてきた。
「ねえラリー、聖都テポルトリへの帰還は何時にするつもりなの?」
「ああ、そのことか。それなら既に聖都テポルトリから帰還指示書が出てきているよ」
「えっ、じゃあ帰る日は決まっているのね」
「其れがまだなんだ」
「は~ぁ、其れはどうしてなの?」
サギが首を傾げながら俺の顔を覗き込むようにして質問してくる。まあ帰還の指示が出ている状況でその動きを取っていないことは誰もが疑問に思っても仕方の無いことだ。
「リッチモンド伯爵家から『待った』が掛かっているんだ――護衛騎士団への返答は伯爵家から直に行われている状況なんだ」
「それってリアーナお嬢様が絡んでいるのかしら。そうだとしても何時までも此処にこうしていられるわけでは無いでしょうに」
サギの言う通りだ。リアーナお嬢様は何らかの理由を付けて俺達の帰還を先延ばしにしているようだがその理由もそろそろ限界だろう。
「ラリー様、少しお時間を頂けませんか?」
そう言って俺のところへリアーナお嬢様が訪れてきたのはサギとの会話の数日後のことだった。
リアーナお嬢様はメイラーさんを伴って俺の部屋を訊ねてきたのだった。
「いいですが何か問題でも――必要ならサギを同行させて後で伺いますが?」
「そうですね、その方が宜しいかと――では、昼食後に私の部屋にお越し頂けますか?」
「わかりました、昼食後にお嬢様のお部屋ですね」
「ええ、其れでは後ほど」
リアーナお嬢様はニッコリと微笑んで俺の部屋を後にした、その後に従うメイラーさんが俺の方を振り返り帰って一礼お辞儀をして帰る、その表情には何故だか悲しそうな微笑みを湛えていたような気がした。おもわず俺はメイラーさんに声を掛けていた。
「メイラーさん? ちょっと待って頂けませんか?」
「えっ、私ですか?」
「ええ、メイラーさんにです」
「わかりましたが、お嬢様の了解を得ないと――少し御待ち頂けますか、伺って参ります」
そう言ってメイラーさんは踵を返すと足早に駆けていった。
暫くして俺の部屋の扉をノックしてメイラーさんが戻ってきた。
「お嬢様の許可が下りましたので――ところで何でしょうか?」
「ありがとう御座います――先程のリアーナお嬢様のご様子も何だかおかしな気がしましたが、其れよりもメイラーさんの方が気になりまして……何か心配ごとでも?」
「あっ、ばれてましたか私もまだまだですね――は~っ」
そう言うとメイラーさんは俯き加減で溜息をひとつ吐いた。
「ラリー様達に聖都から帰還指示が既に出ているのはご存じですよね」
「その件でしたら確かにその通りです――其れが何か?」
「ラリー様ったら相変わらずイケズです! 私たちがどれほどラリー様をお慕いしているか……その為にお嬢様は伯爵様の反対を押し切って聖都に直談判をしておられるのですよ」
「あっ――そう言うことですか」
「そうです」
メイラーさんは拳を突き出すように堅く握った手を振り下ろしながら力強く叫んでいた。そんな気迫に押されて俺はしどろもどろになっていく。
「メイラーさん……少し落ち着いて――お茶でも出しますから」
そう言いながら給茶機の方に足を運んでその場から少し離れた。
お茶を器に汲んでメイラーさんに差し出した。其れをひと息でメイラーさんは飲み干すと再び一気に捲し立ててくる。
「いいですかラリー様。私達は既にあなた様やサギ様、ウギ様そうしてマギ様から大変貴重な結果を出して頂きました。例えば大厄災魔獣の件などが良い例です。そんな英雄様となった皆様を聖都からの命令とは言へ、紙一枚で「はいそうですか」なんて言えません。だからこそあの手この手で理由を付けては帰還指示に猶予を貰っていたのですが――さすがに今回は相手が悪すぎました。君主『大公』様からの直々の命令書に格上げされて帰還命令が出てきたのです。是にはさすがにお嬢様と言えども異議を立てることは憚られますから」
「は~ぁ、君主『大公』様からの直々の命令書って?」
「そうです――ラリー様はご存じなかったのですね?」
「勿論です。俺だって大公様との面識は無いですから――何でまた、そのような事に?」
その言葉に驚きを隠すことも出来ずに俺は首を捻るばかりだった。
その後はお互いに知っている情報も特に違いが無いので、約束通りお昼過ぎにサギと一緒にリアーナお嬢様のお部屋に向かうことを確認してメイラーさんは俺の部屋を後にした。
ともかく俺としても帰還命令書の大公様発信の理由が直ぐにでも知りたかった。聖都テポルトリにて何かが起こったのだろうか? ともかくこの事をサギ達の耳に入れておく必要を感じてその足でサギの部屋に出向いた。
サギの部屋にウギ、マギそうしてヴァルを呼んで兎に角先程のメイラーさんから聞き出した情報を話した。
「そうなのまあ、前半の事は想定範囲でしたからいいとして問題は君主『大公』様からの直々の帰還命令書ってことね」
サギがやはり同じような疑問を呈した。
「私たち如きに一体何で君主からの指示が出るのかしら?」
「妾は特に関係無いであろう――もともと最初は居なかった立場だしのぅ」
「其れを言ったら私だってそれ以下よ」
ウギとマギはそんな事を言ってくる。まあ、彼女等からすればそう思うのも当たり前のことだと思う。
「兎に角、お昼過ぎに俺はサギと二人でリアーナお嬢様のところに行くよ――話しはそれからだ」
「そうね、此処で頭を捻っていても特にそれ以上の情報が無いことには先の予測も出来ないわよね」
「そう言うことだ――サギは良いよね一緒にお嬢様のところに出向いて欲しい」
「其れは問題無いわよ――逆に是が非でも連れて行って貰いたい所ですから、ラリーは気を遣いすぎですわよ」
サギの笑いながらそう言って俺の気を紛らわしてくれた。
そんな風に今のところはこれ以上の話しは出来ないことを皆感じてそれぞれの部屋に戻っていった。と、マギとヴァルが俺の傍に来て魔力念波を使って話しかけてきた。
“ラリーいい? なんとなく気になる情報があるのよ”
そうヴァルが声なき声を伝えてくる。
“ヴァルなんだ?”
“巷の噂程度なんだけど――エンマ・イラディエル魔女王が聖都に現れたっていうことらしいわよ“
“それっ、私も聞いたことがあるわよ――魔女王がなんで聖都テポルトリにって思ったわ”
マギもヴァルの話しを裏付けるかのように話しを繋いでくる。
“エンマはずっと魔王族の血筋を繋ぐ魔王族のみが持つ黄金目の『覇王気』の世族継承者を探しているらしいわよ――近親婚狙いの腹違い? って言うか竿違い? って言う兄か弟を……”
俺はマギの『竿違い?』って言葉に『は~ぁ』ってツッコミたくなったが、その後の話しの間にゴクッと唾を飲み込んでその後の二人の言葉を一瞬待った。
“『それって――ラリーの事かも知れないわよね?』”
二人の魔力念波が重なり合って俺の頭の中に和音の如く響き渡った。
次回【82-2話:聖都テポルトリへの帰還!】を掲載いたします。