【80-4話:ウギの太刀?振る舞い修行!】
森を抜けて目の前に荒涼とした景色が拡がってきた。暗がりの中、月に照らされて辛うじて見える範囲に閑散とした建物がひとつ見える、その周りに拡がるおびただしい数の十字架がそこらかしこに立てられていた。確かに墓地の跡地のようだった。
「ここよ、さてとルールを話すわね。先行は私達よマギと私であの建物の中にウギのその小太刀を隠してくるわ、それを後攻のウギ達が規定時間内に見つけ出せたらウギ達の勝ち、見つけられなかったら私たちの勝ち、単純でしょう」
「其れで良いのかのぅ? 妾が小太刀を見つけるだけで良いのか?」
「そうよ、でもね結界を張るからそう簡単じゃ無いと思うわよ、いい?」
「結界を破る魔力があれば良いのじゃろう――ふむ、ならば妾の方が有利であろうぞ」
「あら、私たちの魔力も舐められたものね――そう簡単にいくのかしらウギ? 此処は墓地よ大丈夫かしら?」
「だ、だいじょうぶだぞ……こここ怖くないぞ、ラリーもおるしのぅうう――うおぉぉ~」
ウギの声が裏返っていて逆に其れが余計な響きを闇の中に木魂させていた。その声にウギ自身がびびっている状態だった――そんなんで大丈夫なわけ無いだろうに。
「俺は何をしていけないのか?」
サギが取り仕切りなので先に聞いておく必要があった、そこでそんな問いを投げておく。
「勿論、ウギの訓練だからラリーはただの付き添いよ、魔力は使わないでね――非常時以外は」
「わかった」
短くひと言だけ答えておく。
「其れとラリーはウギの後ろを歩くこと、あっ松明は持ってていいから。ヴァルは此処で待っててねちょうどスタート地点となる場所だから目印になるの」
「ウォン」
ヴァルもひと声吠えて答える。
「制限時間は特にないわ、私たちが戻ってきたらウギ達がスタートしてね、いい? わかった?」
俺とウギは其れに首を縦に振って応える。
「じゃあ、私たちが先に行くわね――ウギ、小太刀を貸して貰えるかしら」
ウギがその言葉に応じて小太刀を鞘しまってからサギに手渡した。サギは其れを受け取るとマギに預けて自分は松明を持って歩き出した――と、俺の方をチラッと見ながらウギにわからないように軽くウインクつきで投げキッスをしてきた、その瞬間何となく此のゲームのシナリオがわかってきた。
「そうするのか?」
俺は嘆息しながら、少し顔色が青ざめながらも気丈に振る舞っているウギの横顔を眺めていた。
サギ達がこの場から離れて幾時が流れた、歩く速度に合わせて揺れながら進んでいった松明は既に先の建物の中に吸い込まれるように這入っていき元あった二本の松明の明かりは既に俺の持っている分のみしか視界には無い。
俺の傍にピッタリと寄り添って左手で上着の裾をしっかりと握ったままウギはずっとサギの松明の行く先を見ていた、そうして明かりが建物の中に這入っていった後は目を閉じたまま俯いていた。俺はウギにひと声かけようとして思いとどまった。何故ならウギの左の手の震えがす~っと消えていくのがわかったからだった。
彼女はずっと小太刀の魔気を追いかけていたようだ、そうしているとウギが仰向いて俺を見つめながら呟いた。
「サギ達が結界をかけて『小徹』の気を隠しおったのじゃ、わからんぞ」
「でも、あの建物の中なんだろう、近づけば解るんじゃ無いか? んっ!」
そう言ったところでサギの魔気が揺れたのに二人とも気が付いた。
「『きゃ――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』」
建物の中からサギとマギの二人の悲鳴鳴り響いた。
「えっ! サギっ!」
俺は瞬時に飛び出していく体勢になったがウギが掴んだ上着の裾に引き戻される形でその場から動けなかった。
「おい、ウギっ!」
俺の呼びかけに応えようとしていたが、彼女の中では震えが再び来たのかウギの動きは緩慢だった。
「ごこ――こわく――わないんじゃぞ――いくぞ、ううぅぅっ」
そう言う言葉とはかけ離れてウギの腰は引けていてどうにも動けようもなさそうだった。
俺はウギに松明を預けながら語りかけていた。
「ウギっ! 俺はサギ達を見に行く、お前は此処で待っていろ、なぁ!」
「妾をひとり置いていくのかのぅ? 嫌じゃぞ! ぐすっ」
涙目になりながら俺の服の裾を握って離さないウギにそっと話しかける。
「なあウギ、此処にはヴァルもいるサギ達の悲鳴だって魔獣達の可能性だってある、お化けなんぞいるものか――剣の達人がこの程度で泣くなよ。な~ぁ、太刀を抜いて注意して待ってろ」
「うううっ、わがっだのじゃ――まづでるぞ、妾は――ごごでっ」
そう言うとウギは松明を掲げたままヴァルにしがみ付くように寄り添い移った。
「ヴァル頼んだ――じゃぁ行ってくる」
俺はそう言い残すと目先の暗さに足元を取られながらも何とか歩みを進めて建物を目指して行った。
次回【80-5話:ウギの太刀?振る舞い修行!】を掲載いたします。