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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
122/187

【78-1話:ウギの小太刀の威力!】

 ウギが部屋から逃げ出す様に去ってった後、俺は椅子に座りながらも気持ちよさげに寝入っているマギと二人っきりでマギの部屋に残っていた。

 いくら気持ちよさそうにしているからと言っても椅子に座ったままではいつ転げ落ちるとも言えないので彼女を抱き上げてベッドに寝かせておくことにした。

 俺は椅子から立ち上がってマギの傍らに赴き、そして彼女を胸の前にかかえる様に背中と両膝の裏に手を回してゆっくりと持ち上げた。その仕草に呼応する様にマギは俺の胸元に顔を寄せながら両手を首に回してきた。

 マギの吐息が耳元に静かに掛かってきて少しくすぐったかったが其れに気を取られたら彼女を落としてしまいそうになる。気を引き締め直してマギを抱え直した。

 テーブルからベットまで十歩ほどだったがマギの整った相貌と艶やかな栗色の髪の毛に見とれて足が止まっていた。そんな事をしているとマギの唇が耳元に近づいてきた。

「ね~ぇラリーっ……このまま二人で一緒にベットに入る?」

「……っ!」

 起きたのか? マギっ!

 俺はおもわず顔をよじってマギの顔をまじまじと見つめた。其処にはにこやかに微笑んでいるマギの顔があった。

「お姫様抱っこって――される方は雲の上に乗っているみたいなのよ、ふわふわして気持ちいいしラリーの匂いが安心感をもたらしてくれるのね」

 そう言いながらマギはギュッとその腕を引き締めて俺の首筋に更に強くしがみついてきた。

「うふふっ――抱っこして貰った数ではサギやウギに勝っているわよね、わたし!」

 そう言うと更ににこやかに微笑みを返してくる。まさに花が咲き誇った様な美しさに魅了された俺がそこに唯々突っ立っていた。

 そういう時間がどれだけ過ぎただろう――ハッと我に返ってマギに笑いかけながら俺は答えた。

「マギ、悪いなぁ――まだ俺は君に酔いしれるわけにはいかないんでな」

「あ~ぁ、まだわたしの魅力が足りないのかしら――本当にラリーはいけずなお人やわぁ」

 マギが頬をプクッと膨らましながら半眼で俺の事をにらんでくる。しかしマギさんその言葉は何処の人?

 そのままベットまで歩いてマギをそおっと降ろした。が、マギは俺の首に回した手を離そうとはしなかった。ベットの上でマギの顔の真上に俺は覆い被さる様な格好で止まったままの時間が過ぎていく。

「マギさん、そろそろ離してくれませんか――俺も腹筋が痛いんで」

「我慢しなくても良いのよ、そのままわたしにし掛かってくれても」

「おいっ!」

 マギのひたいを指で軽く小突こづいて俺は彼女の腕から逃れた。マギはあ~ぁってな顔をしてペロッと舌を出した。そんな様子もなかなか愛らしく名残惜しかったが。

 ベットに横になった状態でマギはまたうつらうつらし始める、よほど魔力を消費したと見える。

 マギの耳元で彼女におやすみを言ってその場を俺は離れた。


 取り敢えずウギの目的は達した。あとはその小太刀こたちに魔力を入れ込むだけだったがその後ウギはどうしただろう?

 俺はマギの部屋を出てウギの部屋へと急いだ、しかしウギは其処にはいなかったようだ。ウギの部屋の扉をノックしても返事が無かった、部屋の中にもウギの『気』は感じ取れない。そうすると後はサギを頼ったか? それともヴァルと出かけたか? どっちだろう?

 俺はサギの『気』を城内に探してみた、すると中庭にその痕跡を感じた。ひとまず中庭に出向いてみることにした。

 中庭におもむく途中でサギの傍にウギの『気』も同時に感じることが出来た、しかもいつもの魔力とは少し異質に思えた。その『気』の発生量がみるみるうちに増大していく――なんだなんか変だぞ?

 俺は異変を感じて駆けだしていた。でも、ウギの魔力気の膨張は止まる気配を見せなかった。

「ちょっとこれは……」

 うなる様に俺の口から不安が漏れ出る。


 中庭に通じる通路を抜けると其処に大きな扉が二つあった、そのひとつを駆け抜けてきた勢いに任せて俺は押し開けた。と、俺の目に飛び込んできたのは全身びしょ濡れで呆然ぼうぜんとしていたサギとウギの二人の姿であった。サギは目を見開いた状態で唖然あぜんとした顔をして俺の方を振り返ってきた。

「ラリー、すごいのっ」

 脈絡の無いサギの言葉が耳に入ってきたが……何が? と、問うまでも無く直ぐに何が起きたか解った。

 中庭には此処ここの豊富な地下水脈を利用して大きな池と噴水が設置されて並々とした水を湛えながらその美しい景色をいろどっていたはずだが――その池が完全に干上がっていた。しかも、中庭に這入り込んだ瞬間からむわ~っとした湿気がねっとりと身体にまとわり付いてきて、まるでサウナに入ったような感覚におちいっていた。

 サギの目の前でウギが小太刀こたちを抜刀したままの状態で固まっていた。ウギの手の中の小太刀こたちの刃の先はちょうど噴水のある池の方を向いてきた。そしてその小太刀こたちは真紅に染め上がっている、まるで血潮にまみれたやいばの如く。

 俺が這入ってきたことにウギも気付いて俺の方に視線だけを向けながら口を開いた。

「何だかわからないがのぅ――わらわの身体の中から熱いものがたぎってそのまま刀に流れていったのじゃ、このさやに入ったままで、で……サギに小太刀こたちの刃を見せようとしてさやから抜いたら何故なぜかこうなったのじゃ――刃先から真っ赤な魔気が爆発するように出て行ったんじゃがのぅ、池の方にそのまま飛び出していったの――そこでバンーッてなったの」

 ウギの言葉が――だんだん幼児化していった。どんだけビックリしたんだか、まったく! 思わず俺は苦笑していたよ。

「あっ、ひど~ぃんだラリー、いま笑ったでしょう」

 サギがプクッと頬を膨らませて文句を言ってきた。

「わるい、安心して気が抜けた――でもなあ、ウギその『気』がサギの方を向いていたらどうなっていたか――反省はしているよな?」

「うん、わかっておるのじゃ」

 ウギが項垂れながらそう言って首を縦に振っていた。


次回【78-2話:ウギの小太刀の威力!】を掲載いたします。

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