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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
118/187

【75話:ウギの新しい剣造り その参!】

 お店の奥座敷でライラ―さんのお手製のお菓子を頂きながら取り留めも無い話しに花を咲かせていると部屋の扉を叩く音がした。

「来たようですね」

 ライラ―さんがそう言いながら立ち上がると、扉の方におもむいて来訪者を出迎えた。

 扉を開けるとお店の従業員らしい人が紫色の布で包まれた細長いものを持ってきていた、それをライラーさんは受け取るとウギの前にその布で覆われた物を置いてから話し出した。

「ウギ様、ご要望の二振の剣の内の小剣になります。まだ影打ちなので違和感があれば真打ちと交換を後日致します」

 そう言ってライラーさんは被せてあった布を剥いだ。其処には確かに今までのウギの剣と比べると二回りほど短めの剣が置かれていた。

「さっき渡した大厄災魔獸の骨からもう削りだしたんですか? あまりに速い仕事なので――驚きました」

 確かに骨の一部であることはその剣を見れば一目で解った。しかしながらとても人間業とは思えない早さだ。

「うちの職人には人外もおりますので、その点は企業秘密と言うことでご勘弁下さい」

 そう言ってライラーさんは剣をウギに渡す、その剣は普通よく見る剣とは大きくおもむきが違っていた。まず裸剣ではなく剣専用の入れ物に収まっているたしかに剣を入れる筒の様な物を持っている剣もあるにはあるが汎用性の高い入れ物が主流で此程までに剣と一体感のある入れ物の側の筒を見たことがなかった、そしてその剣の最大の特徴は片刃であった事だ。

 俺達が目にする剣というものはみなやや太めの根元からスーッと剣先まで細くなりつつ真っ直ぐに伸びていっているのが普通だった、そうして尖った剣先の両側に刃がついている。是は剣術が相手を突いて突き刺す事を主流にしていたから剣も突き刺しやすい様に出来ていた。

 つまり剣の構造は持ち手のところ以外は全て刃面に繋がっている面を持っていてそれを両腕で振り回す事にあわせていたが、此の剣はそうでは無かった。

「是は――また不思議な形をしているのぅ。剣の巾は剣先以外は根元から同じ巾であるし、しかも片刃で全体に緩やかだが曲がっている――っているでのぉ」

 ウギも頂いたばかりの剣を目の前に高々と持ち上げ手首を返してくるくると片刃を右左に回してみながらまぶしげに見つめていた、そして時々左手だけで握ってその剣の振り加減を味わっていた。

 俺は剣の収まっていた入れ物を手に取ってみていた、ちょうど剣が中にすっぽり入る様に筒の様な形をしているが剣のりにあわせて此方も湾曲していた、此の入れ物自身も骨から出来ていた。

「ライラ―さん此の剣は初めて目にする形ですね、凄く特徴的で――うつくしい!」

 俺は素直に感想を述べた。

わらわもそう思うぞ――むちゃくちゃ気に入ったぞ」

 ウギも満足そうな笑顔でまだジーッと掲げた剣を見つめていた。

 と、此の剣を持ってきてくれた彼がライラ―さんの傍らに進み出て話しをし始めた。

「此の剣は私たちの工房で新しく出来たデザインを具現化してみたものなのです、デザイン名は『かたな』と呼んでおります。ウギ様お気に召しましたでしょうか?」

「うん、ました~ました――すっごくいいぞ、手にしっくりくるのぉ」

「そうですかそれはよろしゅうございました、……あっ、ラリー様その刀の入れ物の方は『さや』と呼んでおります」

 俺がさやなるものを先程からずっと眺めているので彼は俺の疑問に先回りして答えてくれた。

 しかし、この鞘自身も魔力を発するつえの代わりにもなることが出来そうだったのには驚いた。

「ラリー様、やはりお気付きでしたかかたなだけではなくさやの方も大厄災魔獸の骨から創りましたので魔術の放術杖としての役目を果たせます」

 やはりそうであったか、彼の言葉を聞きながら俺は大きく頷いていた。

 ウギは俺から鞘を受け取ると刀をその中に納めた。手の握りの部分の上についている円盤状の留め具が鞘との境界線になるデザインだったその留め具の造形も凝っていたし握りの部分については革が糸巻きの様に巻いてありウギの名が浮き出る様なデザインを持っていた。

「その握りの上の円盤状の物は『つば』、握りの部分は『つか』と私たちは呼んでおります」

 俺とウギはその刀や鞘、そして鍔、柄……すべての部品の名称を心に刻む様にまじまじと見つめ直していた。

 ウギは刀を鞘に収める時のカァチンというさめた響きの音がとても気に入った様で何度も出し入れを繰り返しながらその音に聞き惚れていた。

「ウギ様、本日はその小刀――小太刀こたちを納めさせて頂きます、どうぞお持ち帰りになって頂き魔力の『気』をその中に入れ込んでみて下さいとの刀匠とうしょうからの伝言です。其れと大きい方の剣――私らは太刀たちと呼んでおりますが、そちらの方は後日お納めさせて頂きたいと思います」

『気』を刀に入れ込む、彼の言葉はまさに俺達の感慨を呼び起こすが如く心に染みいった。

 その出来映えはまさに一級品、いや特級品であることは誰の目にも確かな事であった、しかもこの様な短時間で――人外の刀職人――刀匠とうしょう、その言葉は俺の中でその後もずっと気になる相手となった。


 ライラ―さんと『刀剣神楽』の彼から刀の教授をその後も受けて俺もウギもすっかり『刀』なる物の魅力に取り憑かれていた、是も呪術のひとつであろうか? そんな事を思いつつ俺達は『刀剣神楽』の店を後にしてヴィエンヌ城へ戻った。

次回【76話:ウギの新しい剣造り その肆!】を掲載いたします。

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