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英雄たちの回廊(Ⅱ)  作者: 松本裕弐
【元勇者と仲間達の回想録】
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【74話:ウギの新しい剣造り その弐!】

 ウギの採寸はライラ―さんとお店の従業員のお姉さんが更衣室で行ってくれた。ウギは寂しいから俺についてきてくれる様に言ってきたがその言葉に目を剥くライラ―さんを制して俺はウギに教育的指導をしておいた。まあ、ウギの其れも半分は俺をからかう冗談のつもりだったとは思うが……。

 後からライラ―さんに聞いた話しだが採寸は三十カ所ほど測ったらしい、其処まで緻密に造る事に俺は驚いていたが――出来上がりが楽しみになってきた。

 そんな事で喜んでいるとライラ―さんがぼそっと俺の耳元でつぶやいた。

「ウギ様って――凄いんですね~ぇ」

 俺はおもわず聞き返した。

「えっ! 何がですか?」

 その問いにライラ―さんはほんのり頬を朱に染めて――『F……いやGカップですね』其れだけ言うとササッと俺の前から姿を消した。

 なっ! ウギ~っ成長したんだぁ――俺はおもわずそうつぶやいていた。


 レッドグリズリーの骨を使った包丁作りの方はライラ―さんの要望が主なので俺達はそばで単なる傍観者として話しを聞いていた。

「だからお父さん、いいこと魔獣の肉でも野獣の肉でも肉は肉なのっ! 其れで魔獣は魔力でその肉に呪術がかれていることが問題なのよ――惹かれ合うなら阻害すればいいの、ねっ」

 一生懸命ライラ―さんがジャン爺さんに説明しているが武具でないことからいまいちピンときていないようだった。

「剣と包丁とどう違うんだ?」

 ジャン爺さんの疑問はごもっともなことで其れを上手うまく説明出来ないと期待の切れ味は望むべくもないだろう。

 俺も一緒になって考えていた。剣は生を死に換える為の道具、では包丁はと……死は既知のものとなっている状態でその後に食されるという昇華の概念がある。其れは供養という名の下で魂の浄化という宗教感をもたらすがそう言う意味で包丁の役割としては浄化の補助をする道具としての役割を与えておきたいと思うが如何いかがだろうか。

 そんな事を天井を見つめながらぼそぼそと独り言をつぶやいているとライラ―さんがいきなり此方の方に向き直って俺に問うてきた。

「ラリー様はどう思いますか?」

 唐突な無茶ぶりに俺は目が点になっていながらも何とかライラ―さんに応える。

「どうって、う~ん」

 思わずその場でうなってしまった。

 さっきまで頭で考えていた事柄を一気に整理する。つまり包丁に求める心は食べる人達に美味しいと思わせる料理を創るおもてなしの気持ちのはずだ。それから考えると――しなやかさか?

「しなやかな切れ味って言うのはどうですか?」

 俺はそんなまとめを話してみた。

「其れですわ! お父さん、しなやかな切れ味の包丁を是非ぜひ!」

 ライラ―さんは勢い込んでジャン爺さんに迫ると彼の手を両手で掴んだ。

「お父さん、お願いね!」

「――う~ん、わかった」

 その勢いに押されてか……ジャン爺さんは思わずうなずいてしまった様だった

 ライラ―さんは満足げにその場を離れるとウギの方に近づいて楽しげに話しをし始めていた。

 その場に残されたジャン爺さんと俺は思わずふたりで顔を見合わせて眉にしわを寄せながらお互いの胸中を察する様にハモった。

「『つかれた』」


 ひととおり店での用事を済ませた俺達はライラ―さんの好意で奥座敷に通された。

 其処そこは武具屋の一室と言うよりは料亭? といった風情のちょっとしゃれたおもむきの茶室であった。

「ライラ―さん、此処ここは?」

「……んっ、あ、此処ね――私の趣味の部屋とでも言うのか私の手料理を振る舞う所かな、ちょっと座って待っていて下さいね」

 そう言ってライラ―さんはそそくさとその場を後にして更に奥の方にひとり向かっていった。

 しばらくするとお盆に茶杯ちゃはいを三つと少し大きめのふた付きのうつわを載せて此方こちらに戻ってきた。

「ラリー様、ウギ様――どうぞ召し上がって下さい」

 そう言ってライラ―さんは俺達の前にお茶と器を置いた。

 俺は器のふたを取って中身を見た。其処そこには甘い薫りを漂わせる黒くて艶やかなぷるんっとしたものが入っていた、それをさじですくって口に運ぶ。

 ひとくち頬張ると舌の全体に甘い刺激が伝わってくる、其れが何とも言えない幸せな気持ちをもたらしてくる。

「おいしい~っ」

 隣でウギがとろけたようなウルウルとした目をしてモグモグと頬張っていた。

 一頻ひとしき咀嚼そしゃくをするとお茶をすすって残味と共に飲み込んだ。

「ふ~う、おいしいです、何ですかこれは?」

 俺はライラ―さんに思わず聞いた。

「名もない自家製のお菓子ですよ、気に入って頂けましたか?」

「それはもう――持って帰りたいぐらいです」

「あらっ、うれしいお言葉ですわ」

 ライラ―さんはそう言ってニコニコと微笑みを返してくれた。

「それじゃあ、帰りにサギ様達へのお土産としてお持ち致しますわね」

「それはとても有り難いです」

 そう俺はライラ―さんにお礼を言って頭を下げた。

「いやですわ、ラリー様そんなに鯱張しゃちほこばっては、此処はお城では無いですから」

 そんな風にライラ―さんは声を掛けてくれたが何から何まで御世話になりっぱなしの俺としては恐縮至極の立場でいた。

 しばしそんな風にライラ―さんと美味しいお菓子を頂きながら歓談をしていた。

次回【75話:ウギの新しい剣造り その参!】を掲載いたします。

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