【71話:凱旋帰城の宴が明けて!】
いつ終わるとも知れないその夜の晩餐会を抜け出して俺は自分の部屋に戻ってきていた。
サギ達は主賓の運命で抜け出せない状況にあったことからリアーナお嬢様に彼女達を預けてきた。御令嬢と一緒なら悪い様にはなるまい。
俺が先に帰ってきたのはさすがに疲れていたこともあるが、マギが酔った勢いで余計なお喋りをし始め、何かって言うとお嬢様との巡回警備の時のお忍びの事をあること無いこと尾ひれをつけて言い立て始めた為に俺の立場としてとその場にあまりいたくない状況になったせいでもある。まあそのせいかサギが少し膨れっ面をしていたことが少々気掛かりではあったが……。
なのでマギにはそれ以上、羽目を外しすぎない様にと釘を刺しておくことは忘れなかったが、大丈夫だろうか?
まあそうは言っても今日は無礼講、彼女達には楽しんでいて貰いたかった、色々あった今日一日を思い出しながら俺はベットの中で緩やかな眠りに落ちていった。
次の日の朝の巷はまだ祝賀ムード一色だった。
無論、サギ達はまだそれぞれの部屋のベッドで夢の中の様だった、昨夜は一体何時まではしゃいでいたんだろう? ひとまず俺は先に起きて朝の日課のトレーニングを一通りこなすことにした。部屋を出て中庭に向かうと至る所で酒瓶やら酒樽を抱えて路上に突っ伏している人に出会った。出会ったと言うよりは蹴躓いていたと言うべきだろう。その中に案の定というか期待を裏切らないというか――マギがいたんだ、其れもあられも無い姿で……。
隠す所は辛うじて隠していたが、何せ昨日のドレスは前は清楚なデザインでありながらも後ろ姿があられも無い程素肌を晒す艶美なデザインだったのでそんな様相で路上に突っ伏していたら――まあ酷いものだった。下着が丸見えって言いたいが――下着を着けていないのは本当だったらしい。
「マギっ! こらっ! なんて格好のままなんだよ!」
俺はそんなマギの肩を揺すって起こそうとしたが。
そんなんで起きるくらいならひとりで部屋に戻っているはずだね、そう言う囁が耳元で聞こえてきた、ふっと横を見るとしっかりヴァルが彼女の事を見守る様に傍らでうずくまっていたんだ。
“マギはそんなんじゃ起きないよ――悪いけど部屋まで抱きかかえていってくれない?”
ヴァルから魔力念波でそんな依頼をされたよ。ヴァル! ご苦労様っ!
ヴァルのお願いが無くてもマギをこのまま放置していくわけにはいかないので無論連れて帰るつもりだった。思い余った末、服が捲れない様に気遣いながらマギを両手で抱きかかえる、なんてことは無いお姫様抱っこだが俺の両手が触れるマギの躰は布地で覆われていない背中の部分になる、俺の掌がマギの肌理の細やかな柔肌を直接触れることになるんだ。その柔らか感触にドギマギしながら何とかマギを抱え上げた。マギを抱き上げる事は是で二回目になるなっ! と天を仰いでひとつ大きく溜息をついた。
そんな状態でもマギは目が覚めない様だったが、寝ぼけたままでも俺の首筋にその両手を回してしっかり抱きつきながらその整った相貌を近づけてくる。
「ラリー~っ、うふん」
嬉しそうに微笑んだその顔に見とれながらも寝言で呼ばれた自分の名前にドキッとする。
寝ているんだよな! ちょっとは疑ってみることを忘れない様に心がけた。
“ラリーっ! 何を見とれているんですか! 早くっ! サギ達が起き出してこんなところを見つかってもいいの?”
ヴァルに急き立てられる様にして俺達はその場を後にした。
マギの部屋に彼女を連れて帰りベットにそっと下ろした。
「う~ん」
寝言と共に寝返りを打つがそのたびに服が捲れて彼女のその艶美な肢体が露わになっていく。
思わず目を奪われてその場に釘付けになりそうな気持ちを押し込めて俺はマギの部屋を後にした。
“ヴァル、ありがとうな。マギの事”
“造作も無いわ、私もウギの部屋に戻るからね、ラリー”
“ああ、それじゃヴァル”
俺はヴァルとそこで別れて元々の目的に戻った。
一頻りトレーニングで汗をかいた後、部屋に戻って汗で濡れた身体を拭いていると扉を軽くノックをする音が聞こえた。
「どうぞ――開いてますから」
俺はそう言いながら上半身裸の身体を拭き終えたところで新しい服を着込んだ。
そのタイミングで扉を開けてウギが這入ってきた。
「あっ! 拙かったかのぅ」
ちょうど着替え掛かっていた時の裸の俺を見てしまったことで少し頬を赤くして俯くウギっ!
なんだ~? こんなんで恥ずかしがるのか? いつもの言動と行動からしてウギの純朴さが何故か今頃発揮されている様で少しおかしく思えて吹き出してしまった。
「ぷっっ! お前そんな事で恥ずかしがるのか?」
「なっ! お前言うなっ! 笑うでないぞっ、妾は……お主の裸と妾の……うん? そうかのぅ?」
ウギは自分の言葉を反芻してちょっとは違和感を覚えたらしい。小首を傾げて少し悩んでいる。
「まあよいのじゃ――ところでラリー今日は剣を造りに行くのだろう? 妾も行きたいのじゃが、よいかのぉ」
「ああ、一緒に行くんだろう元々そのつもりだよ」
そう言って俺の顔色を伺う様に覗き込むウギの肩をおもむろに抱き寄せて小柄な彼女の身体を小脇に抱きかかえるように部屋を出て行った。
「あっ、なっ――ラリー」
突然抱き締められたことでいつものウギらしからぬドキマギした様子で顔を真っ赤に染めて俺の事を見つめてきた。
今回は俺が先手を取ったな。
そう思うとウギがとても可愛く思えて思わず彼女の頬にキスをしてしまった。
「えっ! ラリーっ! ――もっとして良いのじゃぞ――うふっ」
ウギも満面の笑みを浮かべて俺にしがみついてきた。
そうよウギはこうでなくっちゃな――俺自身そんな思いでウギの事を見つめていた。
次回【72話:新しい剣を創りに行こう!】を掲載いたします。