【70-1話:凱旋帰城の宴の中で!】
俺は両腕に大輪の花と咲き誇ったサギとウギとをエスコートしながらで晩餐会の会場へと向かった。ヴィエンヌ城の廊下ですれ違う人たちは皆、サギとウギの艶麗な容姿に心を奪われたかの様に立ち止まって見惚れていた。まあその際、俺自身に突き刺さるような敵愾心は余計な産物であったがこの二人を両脇につれて歩いていては其れも仕方の無い事と諦めていた。
そうこうしていると晩餐会場の大広間に辿り着く。
大広間を大勢の人たちが既に埋め尽くしていた。その場に足を踏み入れた途端、人々の視線が一気に此方に集まってくるのを感じた。
「『うわっ!』」視線の重圧感に三人とも一瞬、竦み上がった。
「ラリー様、サギ様、ウギ様――どうぞ此方に」
緊張感で立ち尽くしていた俺達にメイラーさんが静かに近寄り先立って席へと案内をしてくれた。
「間もなくリッチモンド伯爵様が参られますので……お席でご歓談を」
そう言ってメイラーさんはその場を後にする。その場に残された俺達は席に座って一先ず周りを見渡した。
俺達の席は長いテーブルの上座に設けられていて、そこからず~と遠くまでテーブルを挟んで両側に人が並んでいた。下座の人の姿などハッキリ言ってよく見えなかった。
「『うわっ……!』」
再び、三人の驚きの声が重なる。
「ラリー、ねぇ――なんか緊張するわよね」
「そう、妾なんか足の震えが止まらないぞのぅ」
そう言って俺の両脇に座る二人の顔はちょっと青ざめていた。その二人の隣の席がひとつずつ空いていた。と言うかウギの隣は椅子では無く台座になっていた事から其処がヴァルの席と思われた、さすればサギの隣の席はマギの席か?
そう考えているとヴァルと一人の女性がメイラーさんに案内されてやって来た。
「おおっヴァルっ! 毛並みが艶々してる~のぅ」
そう言いながら隣に来たヴァルに抱きついてその美しく輝く銀白色の毛並みの中に顔を埋めるウギ。その仕草に見入っていた俺達に声を掛けて来るもう一人の女性にその後目を奪われる事になった。
「あら、ラリー早いわね」
そう言ってサギの隣に立つ目眩がするほど艶めかしくも美しく着飾ったその女性に俺達は三人とも唯々見とれていた。
「『……』」
「あれっ、みんなどうしたの?」
艶めいた笑みを浮かべつつその女性は俺達に話しかけてきた。
「あの~っ、済みません、そこは私達の連れのマギの席だと思うのですが……」
とサギが会話の口火を切った。
「サギっ? で、だから私の席で良いでしょ?」
「……えっ? あなたマギ――っなの?」
「『え――ぇっ! マギっ!』」俺達の驚きの声がハモった。
「みんな、ちょっと失礼じゃ無いっ! その台詞っ」
マギらしいその人が少し拗ねた様に俺達を睨んできた。
いやいや、マギか? ほんとに? 言われてみれば体躯はマギと一緒に思えるが……それにしてもこうまで変わりますか。いつもの官能路線から一転、清楚な姫君が其処に居た。清楚で有りながらもその内に秘めた凄艶な色香が滲み出ていた。
「ねぇ~っ、ラリー……如何かしら私っ?」
そう俺にマギが聞いてくる。どうってねぇ――サギも眼が点になったまま固まっているし。なんて応えたら良いのか思案してしまった。
「……似合わないかしら――ねぇ」
マギが悄気るような仕草で俯いた。
「ごめん、違うよビックリしただけだ――凄く似合っているよマギ」
俺は慌ててそう返す。
「そ~ぅ、だったら嬉しいなっ!」
と満面の笑顔でマギが笑いかけてくる、その瞬間まるで一面、華が咲いた様に艶やかな雰囲気に包まれた。
予想以上のマギの変わり様に俺達も驚きを隠せなかった、サギはずっと目を見開いたまま固まっているしウギでさえ口をポカンと開けたまま動かなくなっていた。
そんな状況を変えたのはマギ自身であった。
「二人ともなにその態度は? 私が清楚な装いだとそんなにおかしくに見えるのかしらサギにウギっ、んっ!」
そう言って両手の甲を腰に当てて軽く首を傾げながら二人のことを睨み付ける様に仁王立ちしていた。そしてひらりと後ろを向きになって顔だけ此方に向ける姿勢で背中を見せつけた。
「うっ――お~っ!」
俺はおもわず口を押さえながらも叫びが漏れ出ていた。
なんとマギのドレスの後ろ、すなわち背中側は――布の部分がほとんど無かったんだ。背中からお尻の半分くらいまでバッカリと空いていた、終いにはお尻の割れ目まで見えている。
「どう~ぉう、是なら私らしいって言ってくれます?」
そう言いながら、俺達にその艶美な後ろ姿の肢体を見せつけてきた。
「マギっ……なんて格好をしてるんですか!」
「あらっ! ラリーの好みでは無かったかしら? それは残念だったわ」
その時やっとサギとウギが口を開いた。
「マギらしくて――綺麗ですわ」
「おうっ! そうじゃ――まさしく艶美であるのぉ、マギにしか出来ない格好じゃぞ」
サギもウギもそこのところはいいらしい。それで良いのか?
俺だけか――文句をつけるのは? 女性のファッションって言うものは奥が深いのか――っ。
「ところでマギっ、そのドレスって下着は着けてるのかしら?」
サギがマギの耳元でそっと呟く様に聞いていた。
「もちろん――付けてませんから……安心して下さい」
とマギが真顔で答えていた。
バカな、それこそ安心出来ないでしょうが――ぁ、と突っ込む所だが……周りの視線が痛くなってきたので止めておいた。
そんな事をやり取りしながらマギもサギの隣の席に腰を降ろした。
晩餐会の準備が整ったようで、開催宣言の前に伯爵様を迎える一声が会場に響き渡る。
「リッチモンド伯爵様がお越しに成られます」
その言葉と共に会場のいる全ての人たちが立って伯爵様一行を迎える準備をした。そうして銅鑼が響き渡ると正面口の扉が開いて伯爵様が奥方様とご令嬢を引き連れて部屋に這入ってきた。
そのまま伯爵様は長テーブルの上座にある玉座に腰を下ろす。続いて這入ってこられた奥方様とリアーナお嬢様は丁度、俺達の真向に腰を下ろした。
「ラリー様、お待たせ致しました。お三方も美しくあられますわね、皆がラリー様を羨ましく思っておいでですよ、きっと」
其処なんですよ、お嬢様。何せサギにウギそしてマギの美しき相貌と装いはこの晩餐会場でも際だっていた、依って彼女等を連れている俺のことをうらやむ視線と言うか殺気を一手に受けているように感じている。
その居心地の悪さと言ったら喩える物が無い。まあ、此も仕方のないことと諦めていたが――と、ウギが袖を引っ張ってきた。
「なんだ、ウギ」
「妾は此処にいて良いのかのぅ」
「何を言っているんだ、二人であの魔獣を退治してきたんじゃ無いか、ウギも功労者なんだよ」
「でものぅ、妾はブルーグリズリーを仕留め切れなんだ」
そう言って少し悄気返って下を向いていた。
「……ウギ」
ウギの気持ちを考えると掛ける言葉が見つからなかった。どんな言葉を掛けたとしてもウギに取っては其れは所詮言い訳に過ぎないと思えた。それなら、ウギの気持ちを晴らす事を考えてやらなければそう思うとひとつ妙案を思いついた。
次回【70-2話:凱旋帰城の宴の中で!】を掲載いたします。