【68-2話:凱旋帰城の宴の前に!】
暫くしてメイラーさんがお嬢様のお着替えが終わったとのことで扉を開けて俺達を部屋の中に通してくれた。
まあ、その前に部屋の前の擦った揉んだでマギの鉄拳で一度床に沈められていたのだが……その後はマギが焦って回復魔術を大量に俺に掛けたのでそれもあって身体中に活力みなぎりすぎてオーバーフローのエネルギーを急いで消費する必要があった――廊下で俺は腕立て伏せをひとり黙々とこなしていたんだ。そんな所をメイラーさんが扉を開けた瞬間に俺はしていたものだから……。
「ラリー様……いったい何をなさっておいでですか?」
「あっ! いや何ね時間があるのでちょっとトレーニングをね――そうだよねぇマギっ!」
「そうそう、ラリーったら身体がなまるって言うのよね~ぇ」
そう言うマギは俺の背中に乗って腕立て伏せの負荷を上げる手伝いをしてくれていたのだが傍から見れば――どう見えていたのだろう? これもそれもマギっ! お前のせいだからな~ぁ、ほんと小技でドジるのは中々度にいってきましたよ、マギさん。
なんだかな~ぁ俺達っ!
「そうなんですか、さすがですね皆さん」
と、メイラーさんは関心至極で俺達の事を見ているが――それって純粋すぎるだろうって。
「あっ、ラリー様もマギ様も御待たせ致しました、どうぞお入り下さい」
メイラーさんに促されて俺達は部屋へと入っていった。
部屋の中には晩餐会用に綺麗にドレスアップしていたリアーナお嬢様が凜とした姿で俺達を迎えてくれた。
「お二人とも御待たせ致しました。さあ、お城に戻りましょうか」
そう言って俺達を促しながら先だって歩き出したお嬢様に俺は声を掛けた。
「リアーナお嬢様、サギ達が退治した大厄災魔獣とは一体どのような災いをこのヴィエンヌの街にもたらしていたのですか?」
お嬢様はその問いには答えずに背を向けたまま歩みを進めていた。
「お嬢様っ?」
その後ろ姿には何故だか悲壮感が漂っていて俺はおもわず声を掛け直した、と今度は歩みを止めて振り向いてくれた。するとその眼には既に涙が溢れるばかりになっていたんだ。
「ラリー様――リッチモンド家の祖先は皆あの大厄災魔獣討伐で戦死したのです、曾おじいさまもおじいさまも……お父様はその為討伐を諦めていて強固な城壁を立てて街を守ることを選択したのです。我が家の祖先ばかりでは無く討伐隊加わった全ての住人が皆、二度とこの街に帰ってくることは無かったのですよ、特にメイラーの家族はメイラーが幼い時にみんな……それで……引き取って」
お嬢様の言葉はそれ以上は続かなかった。大粒の涙が頬を伝って落ちていった。
その傍らでメイラーさんも項垂れながら泣いていた。
「えっ!」
俺はリアーナお嬢様達の涙の重さをその物語で初めて知った。しかし、お嬢様は涙を拭うと笑顔を見せながら気丈にも話しを続けたんだ。
「そんな大厄災魔獣討伐を果たして頂いたのですから――サギ様とウギ様はそして多分ラリー様もあの時に彼女等の支援に行かれていたのですよね、これでリッチモンド家……いや、ヴィエンヌの街の憑きものが落ちたのですよ、ありがとうございました」
そう言ってニッコリと笑うお嬢様の笑顔には全ての厄が降りた様な安堵感を湛えていた。
俺もそんな微笑みに笑いかけながら頷いた。
俺達はリアーナお嬢様の後に従ってお城に向かう馬車に乗っていた。お嬢様達も先程までの涙はもうとっくに止まっていて皆が笑顔の和気藹々とした雰囲気の中だった。その中でメイラーさんは特に明るかった。
「ラリー様、本当にわたしは今日という日が嬉しく思えて――こんな日が来るとは思っていませんでした、父も母も天国できっと喜んでいてくれてると思います」
そう言うと俺に深々と頭を下げてお礼してくるメイラーさんを俺は恐縮至極で押し戻していた。
「メイラーさん俺にお礼をされても――それはサギ達に――って、まあそれ以上にメイラーさんにはいろいろとお世話になっていましたから、ほんの少しですがお返しが出来て此方としても嬉しいと思いますよ」
「いや、ラリー様あってのチームラリーですよね、そう思いませんお嬢様」
そんな話し方をメイラーさんがお嬢様にしているのを初めて見た。よほど気持ちが高揚しているのだろう。
「あらあら、メイラーったら――そうね、そう思うわよ、わたしも」
リアーナお嬢様までそんな風に気軽に応対をしている。そんな雰囲気の中、馬車はお城へと着いたのだった。
馬車がお城のエントランスホールに着くと既にお城の中ではリッチモンド伯爵家の衛兵やら使用人達でごった返していてそこに御令嬢の馬車が乗り付けたものだから混乱に拍車を掛けた様にざわめきが巻き起こった。
「皆さん焦る必要は無いですよ。それぞれの持ち場で各々自分の為べきことを冷静になって考えて下さい。大厄災魔獣は討ち果たされたのです、もう慌てることは無いのですよ。さあ皆さん喜びを高らかにリッチモンド伯爵家の一員として誇るべき行動を――お願いします」
そんな中にリアーナお嬢様は馬車から即座に降りると凜とした声で全ての人々に聞こえる様に叫んだ。そして、後から降りてきた俺達を指さして次の言葉を繋いだんだ。
「此処におられるラリー様とマギ様そして先にお帰り頂いたサギ様とウギ様が私達の英雄なのです。さあ、祝いましょう。今宵はすべて無礼講ですよ」
『お――っ』
エントランスホールに居たすべての人々が高らかに歓声を上げて俺達を迎入れてくれる。俺に取ってもマギにとっても初めての経験でどこか落ち着かなかった。でも、さっきのリアーナお嬢様の演説には感動を覚えたよ、さすがは御令嬢と関心至極だった。
リアーナお嬢様を先頭に俺達はお城の中へと通された。
「ラリー様では、後ほど晩餐会で」
そう言うとリアーナお嬢様はお城の奥へと姿を消していった。
残った俺とマギにメイラーさんが応対をしてくれる。
「ラリー様はお部屋の方に本日の晩餐会の時に着て頂きたい服を用意させておりますので――お部屋でおくつろぎ下さい、後でお迎えに参りますから。それとマギ様は私どもがお清めとお着替えを手伝いますのでご一緒して頂けますか」
そう言ってメイラーさんはマギを連れて別部屋の方に向かっていった。
「それじゃと、俺は部屋でひと休みでもと――っ」
兎に角、今夜は寝れそうも無いからな。そう呟くとひとり部屋へと戻ることにした。
次回【69-1話:俺の部屋での出来事!】を掲載いたします。