【67話:サギとウギ達の凱旋帰城!】
俺はリアーナお嬢様の膝枕の中で気持ちよさそうに眠っていたらしい。しかし、毎回倒れるたびに誰か彼かの膝枕の中で夢見心地から目覚めるなんぞついぞ数ヶ月前の俺からしたら想像だに出来ない。人生のモテ期を使い切った感がある。そのうち刺されるぞっ~と言う巷の声が聞こえてくるよ。
「あっ、ラリー様お目覚めになられましたか?」
その第一声はリアーナお嬢様か?
俺は膝枕の感触を覚えながら俺を覗く顔を真上に感じていた。ゆっくりと目を開けると確かにリアーナお嬢様のお顔がそこにあった。
「お嬢様、俺は?」
「あら、ラリー様は突然マギ様の腕の中で意識をなくされて倒れられたのですよ、しかも黄金色の輝きを発しながらっ! あれは何だったのですか?」
なるほどマギはリアーナお嬢様には何も教えてなかった様だ、それならそれで誤魔化しきった方が良いだろう。俺はお嬢様の膝枕からゆっくりと起き上がりながらその場を取り繕う言い訳を考えていた。
「へ~ぇ、お嬢様そんな事があったんですか? 多分其れはマギの回復魔術か何かですよ、お陰でほらこの通りもうピンピンしてますから」
差し障りの無い言い訳を考えたつもりだったけれどマギには不評だったようだ。隣であからさまに嫌な顔をしている。
“ラリーさ~ん……誤魔化すにも私に無茶振りするのは余りに酷くないですか!”
その場でしっかり魔力念波でマギからお叱りを受けました。
「ラリー様、そうでしたかマギ様の魔術が……なるほど――っ、マギ様流石でございますわ」
そう言ってリアーナお嬢様はマギの手を取って大いに喜んでいたが、当のマギは困惑した表情で俺の顔を睨んでいた。
「ところでラリー、どうなった?」
マギが心配ごとの核心の質問を投げてきた。それはそうだマギが受け取ったヴァルのSOSから始まった事だったからマギはその後のヴァルの魔力念波で概略安心材料を貰っているとは思うが、俺がマギの思念波を奪い取った時の詳しい事を聞きたいらしい。
俺はリアーナお嬢様の膝枕からゆっくりと起き上がってマギに相対した。
「ああ、何とか最悪の瞬間には間に合ったよ、二人とも無事だ」
そうマギには言い渡しておくと俺はリアーナお嬢様の方を向いて倒れた俺を介抱して貰ったお礼をした。
「リアーナお嬢様、俺如きに膝枕までお貸し頂き感激至極です。ありがとうございました」
「そんな、ラリー様、私の膝枕など宜しければいつでも言って下さいませ」
なんか嬉しそうに頬を朱に染めたリアーナお嬢様のお顔はいつにもまして可愛らしさが漂っていて思わずぼ~っと惚けた顔で見つめていると横っ腹に唐突に肘鉄を食らった。
「痛っ!」
気が付くとマギが睨み付ける様にして俺の真横に寄り添っていたんだ。何か背筋に冷たいものを感じて早々に話題を変えることにした。マジでマギが怒っていた様だった、理由は解らないけど?
「ところでマギっ! 俺達はお嬢様が早めに馬車に戻れるように警邏隊と直ぐに合流しよう」
「ん! 何故ですか?」
その言葉に先に反応したのは当のお嬢様の方だった。
それは多分すぐに解ると思いますよ。そう言いつつ俺は俺達の行く先のそのまた向こうに見える通りの方に目をやる。それに合わせるかの様にリアーナお嬢様とマギが俺の視線の先に方に目をやった。
遙か先に見える通りの向こう側は丁度人がごった返している状況だった。そんな中を大声を張り上げながら此方の方に駆けてくる人が見えた。
「大変だ~ぁ! 大厄災魔獣のレッドグリズリーが退治されたぞ~ぉ! それもお城の客人のお嬢様達に~ぃ! 念願の大厄災退治が終わったんだ~ぁ! みんな聞いてくれ~ぇ!」
そう大声で周りの住民達に叫びながら大通りを駆け抜けていった。
「サギ達の持ち帰った成果が大事を呼び起こしたみたいだよ」
俺はマギとお嬢様にそう言うと先に立って歩き出した。
人集りの中に警邏隊の一団も見えた。警邏隊のメンバーはこの混乱の収拾の為に忙しそうに動き回っていた。丁度、その向こうにお嬢様が乗っていた馬車も見えていた。
「マギっ! 今ならリアーナお嬢様を馬車の中に戻すのに都合が良いだろう」
「そうね、この混乱紛れて入り込むのね、わかったわ」
そう言うとマギはリアーナお嬢様の手を取って人混みの中に紛れ込んでいった。
人集りの渦は少しづつ大きくなりながら人々の高揚感をさらに盛り上げていった。
「今日はサギ達は大変なことに巻き込まれそうだな、まあそれも一興か」
そんな風に俺は呟きながら人混みをかき分ける様に流れに逆らって前に進んでいった。
暫くしてマギがひとりで戻ってきた。
「リアーナお嬢様は無事に戻りましたわ、丁度良かったみたいですメイラーさんがね……」
「んっ!」
「メイラーさんがお嬢様の影武者役だったんですけど――さすがに此の状況では何があるか解らないのでハラハラしていたみたい。お嬢様のお顔を見て安堵したのか腰を抜かしていましたわ……あとそれと、ラリーにありがとうって、助かりましたってね」
「そうか、よかった」
俺はマギの話を聞いて思惑通りに事が運んだことを喜んでいた。
「さてと、次はサギの方だな――何処にいるのやら?」
街の中は今回の騒動でごった返していて、人混みの中でサギ達を目視で探すことはほぼ無理な状態だった。
「サギの魔力気を追う?」
マギが俺の顔を覗き込みながらそう聞いてきた。
まあ、それが一番早そうだがそんなに急ぐ必要も無かろうと俺は首を横に振った。
「いや、自然の流れに任せておこう。そのうち会えるだろうよ」
「それもそうね」
マギも納得したかの様に胸の前で腕を組んで頷いていた。
しかし、ヴィエンヌ城下町の人々がこれ程喜んでいる状況を目の辺りにして是からマギ達の身に起こる騒動を予想すると少し可哀想な気がしてきた。
そんな事をサギ達は元々望んでいた訳では無いのだから――ねっ。
きっと今頃は担ぎ上げられた御輿の上で目を白黒させながら周りの下界の騒ぎを見ている状況だろうと俺は苦笑いをかみ殺しながら人々の喧噪を眺めていた。そんな俺を見てマギが話しかけてくる。
「なに、ラリーそんないやらしい笑いなんかして」
「いやなにね~ぇ、サギ達――きっとあたふたしていると思う……その状況を想像するとね~ぇ」
「んっ、まあそう~ね」
マギまで“うふふふっ”と含み笑いをしてきた。
そして、見つめ合うとふたりとも忍び笑いから大笑いへと変わっていった。
次回【68-1話:凱旋帰城の宴の前に!】を掲載いたします。




