【65話:マギとの二人だけの混浴!】
二人で降りていった地下温泉はいつもの静けさがあった、まあ俺達以外に這入っていたのを見たことが無かったから単に無人の静けさなんだろうと思うが、今の俺達には其れが心地よかった。
マギとはやはり入り口で別れる、いつもなら此処でマギの茶々が入る所だが今日はなんの挑発も無く彼女は静かに『女湯』の暖簾を潜り抜けていった。
「マギ――っ」
呻く様に俺の口から彼女の名前が出てくるが、マギは其れにすら気付かぬ素振りだった。
「あっ……ぅ」
その後、俺の言葉は続かなかった。マギの姿が扉の中に消えていくのを見つめていたが我に返って自分も『男湯』の暖簾を潜る事にした。
脱衣所に這入り衣服を脱いで湯船に向かう。数日前に此処で人間の姿に戻ったマギと初めて出会った場所だったが其れも何故か遠い昔の様にすら覚えてくる。
湯船の中に這入って歩きながら魔石のある場所まで進んでいった。
「此処でマギが俺達の仲間になったんだよな」
そんな感慨に耽っていると後ろの方で湯をかぶる音が聞こえた。振り向くと湯煙の奥に人影が薄らと見えてきた、何とも言えぬ艶めかしい肢体の影が視える。
どきまぎする気持ちを落ち着かせる為、視線を逸らす様に俺は前に向き直った。
マギの近づいてくる水音は途切れること無く浴室に響き渡っていた。その水音が俺の直ぐ後ろまで来た所で途絶えた。ハッとして振り向くと果たしてそこにマギが確かに居た。
肩を覆う程の長さの栗色の髪も全身を覆う薄手の湯浴み着も掛け湯をした後では濡れた躰にピッタリと張り付いて彼女のグラマラスな肢体から漏れ出す扇情的な色香を隠す事は出来ないでいた、と言うかさらに艶めかしい雰囲気を色濃くしている。
「マギっ」
その色香に酔いしれた俺は唯々、彼女の名を叫ぶしか無かった。
その叫びに応じたかの様にマギは俺の方に歩みを進めてくる。ほぼ、顔と顔がくっつく程の距離にまで近づいた所でどちらとも無く腕を絡めてきつく抱擁し始めた。マギは俺の胸に顔を埋める様にして俺はマギの髪の毛の中に顔を埋める様にしてお互いの吐息が肌に触れる様に抱き合った。
「ラリー、彼奴の手の感触を忘れさせて――お願い」
マギは俺の胸に語りかける様に呟いた。
其れに俺は無言で応えて彼女の躰を包み込む様に更にきつく腕を回した。
「はぁ~ぅ」
マギの嬌声が肌を通じて染み渡ってきて俺の魔気を刺激してくる、その刺激が魔王族の血を浮き出させるかの様に『覇王気』を呼び起こしてきた。俺の右目が金眼色の輝きを放ち始めた様だった。
その気配を感じてマギが顔を上げて俺の顔を覗いてきた。
「ラリーの眼が――綺麗っ」
マギも銀眼色の輝きを放つ眼でお互いを見つめると二人の唇が自然と近づき――そしてゆっくりと重なり合った。
唯々、お互いの唇をむさぼる様に求め合った。其れが魔気の輝点となって二人の躰が金と銀に輝きを放つ。魔族の血の繋がりか――輝きが混じり合って黄金色に光り始める――そして、その輝きがすっと霧が晴れる様に霧散するとそこにはにこやかに笑い合っている二人の姿が残った。
「『はぁ――っ』」二人の吐息がハモる様に浴室内に響き渡る。
「うふふっ」「あははっ」
無意識に笑いのつぼの呼吸が合ったあとで俺とマギはお互いを見つめたまま笑い始める……ずぅーっといつまでも。
そのあと並んで湯船に浸かりながら二人で話しをし始めた。
特に何という事も無くとりとめも無い戯言だったが、お互いの心の闇が晴れたことで饒舌になって話しは止まらなかった。
「魔女の私とこんな風に魔気を合わせる事が出来るなんてラリーの『覇王気』って凄いんだ」
「俺だって初めてだよ、こんな風に『覇王気』の影響でマギの魔気と重なり合うことが出来るなんて」
「それってラリーの初めてを私が貰ったって言う事? でいいかしら?」
「マギっ! 其れって恐ろしく誤解を生むから――ぁ、やめ~ぃ!」
「だって、ラリーも初めてで――でっ、私もあんなの初めてよっ、てっ言う事でしょ!」
あのな~ぁマギさん、其れわざとやっているでしょう。まあ、其処に居たのはさっきまでのマギでは無くいつものマギにすっかり戻っていたね。
「なんかスーッとしたわ、さっきまで泣きじゃくっていたのにねっ」
そう言うとマギは照れた様に舌をペロッと出した。
「そうそう、マギが泣いている姿なんか想像したことが無かったからビックリしたって言うか――女の娘だったんだって思ったよ」
「あっ! ラリーそれってあまりに酷くないですか? 私をなんと思っていたの?」
「無類の強者魔導師――魔界最強のマギ姉貴っ!」
「はぁ~っ? 何それラリーって全然女心をわかっていないわよ――まあ、サギが苦労するだけのことはありますわよね、ほんと!」
口を突きだしてふて腐れる様にそう俺に言い返してきた。その仕草も素直で可愛い――いつものマギとは違う雰囲気に少しドギマギしている俺が其処にいた。
そんなたわいも無い会話を締めてそろそろ上がろうかと言う事になったが……。
「じゃぁ、わたし先に上がるわねっ」
マギはそう言って湯船から立ち上がったが――そう、勢い込んで立ち上がった為、湯浴み着の裾が捲れた状態で立つことになってしまった……艶やかで豊かな桃尻が丁度俺の目線の高さで嫌がおうにも視界に飛び込んできた。
「あっ! いや~ぁん」
いや~ンって、マギの台詞か? それっ!
俺もはからずも視界に這入ってきたものだから目を逸らすタイミングが滅茶苦茶遅れたよ。
「……み、見た~ぁ」
「……み、みて~て無いっ!」
嘘が下手であった。
「うそっ!」
「うぅ……うん――ごめん」
「バカっ」
マギはそう言い残すとその場から逃げる様に駆けていった。
あれ~っ、マギにしてはデレてますがキャラ変わった?
その場には、ぼ~っと惚けた顔のままの俺だけが残っていた。
「それにしても綺麗なお尻だったな~ぁ」
それは俺の心の中だけにしまっておく言葉だった。
次回【66話:一週間後のお忍び巡回警備で!】を掲載いたします。




