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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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冬苺のタルト

 怒涛の二日目を終える。

 アメリアとお風呂へ行こうとすると、背後より遠慮がちな声が掛かる。


「あ、あの、メル、私も、お風呂に入っていいかしら?」

「え? リーゼロッテも一緒に、ですか?」


 頬を染めながら聞いてくるリーゼロッテ。たぶん、アメリアと入りたいのだろう。


「だ、だめ?」

「いや、いいですよ。私も一緒ですが」

「ありがとう」


 リーゼロッテとお風呂は、温泉を入れて三回目。一回目のあの時は、『キツいお姉さん』だと思っていたが、今ではすっかり『幻獣好きの残念なお姉さん』になっている。

 念のためか、リーゼロッテはアメリアにも一緒にお風呂に入ってもいいかと聞いていた。


「アメリアも、いい?」

『クエ~~』


 アメリア的にも問題はない模様。


 皆で仲良くお風呂場に移動していたが――。


『ミンナデ、仲良クオ風呂、イイヨネ~』


 なぜか、アルブムも一緒に入って来る。

 リーゼロッテはそれを見逃さなかった。


「あなたはだめ!!」

『エエ~~!!』

「男の子でしょう?」

『ア、ウン、マア、ソウダケド』

「だったら、だめ!!」


 リーゼロッテは凄まじい形相で言い放ち、アルブムの体を摘まんでぺいっと廊下に投げていた。

 侍女さんがぱたんと扉を閉める。

 すぐに、リーゼロッテに笑顔が戻った。


「うふふ、ごめんなさいね」

「あ、はい」

『クエ~……』


 私とアメリアは思う。リーゼロッテには逆らわないでおこうと。


 そして、もぞもぞと服を脱いでいたわけだが、驚きの光景を目にする。

 なんと、リーゼロッテは侍女さんに服を脱がせてもらっていたのだ。

 これが、お嬢様。

 さも、当然かのように受け入れている。


「さすがですね」

『クエ~~』


 私はさっさと脱いで、アメリアの首のリボンを解いてあげた。


 先に入らせてもらう。

 相変わらず、広い。確実に、第二部隊の休憩所より広いだろう。

 今日はなんと、浴槽に薔薇の花びらが浮かべられてあった。濃厚な香りに包まれている。


「うわっ、すごいですね、これ」

『クエックエ~~』


 アメリアは嬉しそうに尻尾を振っていた。かなりお気に召したらしい。

 タオルを体に巻いたリーゼロッテが入って来た。


「アメリア、今日はわたくしが体を洗ってあげるわ」

『クエ?』

「いいんですか?」

「ええ。侍女も手伝うけれど、いい?」


 リーゼロッテに続いて、タオルを体に巻いた侍女さん達がやって来た。

 アメリアは囲まれて、幻獣用の洗剤で丁寧に洗ってもらっている。


「ふふふ、アメリア、気持ちが良いのね」

『クエエ~~』


 なんだか楽しそうだ。

 私は侯爵家の良い匂いがする石鹸で体を洗い、浴槽に浸かった。


 薔薇の効能は確か――香りには高い鎮静効果があって、お花には殺菌、強壮効果などがあったような。あと、お肌に良いのは有名な話だ。

 良い香りだし、優雅な気分になるし、薔薇のお風呂、最高~!


 その後、美味しい食事をいただき、お茶を楽しんでリーゼロッテの部屋でお休みする。


『ア、アノ~』


 アルブムがリーゼロッテの部屋の前で待ち構えていた。脇に小さな枕を抱えている。


『アルブムチャンモ、一緒ニ、眠ッテモイイ?』


 私は構わない。構わないが、リーゼロッテは……。

 ちらりと、隣に立つリーゼロッテを見る。またしても、腕を組んで、怖い顔つきになっていた。

 どこかで見たこともある顔だと思っていたら、侯爵様にそっくりなのだ。さすが親子。


「あの、リーゼロッテ、いいですか?」

「メルが、いいのならば」

「あ、ありがとうございます」


 リーゼロッテは寛大だった。顔は怖いけれど。

 アルブムは寝返りを打ったら潰してしまいそうなので、小さな籠を用意してもらった。そこに、ふわふわの綿を入れて眠ってもらう。


『ワ~イ、フワフワ』

「あの、アルブムはいつもどこで寝ていたのですか?」

『侯爵様ト』

「え?」

『侯爵様ノ部屋ノ、床デ、寝テイタヨ』

「そ、そうだったのですね」


 夜間は侯爵様の傍から離れられないよう、行動制限の術式がかかっていたらしい。

 私が面倒を見ることになったので、その魔法も解かれたとか。


『侯爵様、タマニ、アルブムチャンガ、大人シク寝テイルカ、確認ニキテ……。覗キコンダ顔ガ、怖クテ……。全力デ、眠ッタ振リ、シテイタ』


 なんというか、お気の毒に。

 しかし、侯爵様は悪意があって覗いていたわけではないのでは? と、思ったりもするが。


 アルブムの寝所となった籠は、寝台近くの円卓に載せられた。

 本日も、アメリアを中心にして寝転がる。

 侍女さんが部屋の灯りを消してくれた。

 今日も一日頑張った。おやすみなさい。


 ◇◇◇


 翌日は朝からお菓子作りをする。


『アルブムチャンモ、手伝ウッ!』

『クエ~~』


 アルブムが手伝いを名乗り出ていたが、お断りする前に、アメリアが嘴で銜えて連れ去ってくれた。

 正直、昨日の行動は邪魔でしかなかったので、助かる。


 本日作るのは、森で採った巨大冬苺フレサを使ったタルト。

 厨房にある材料は自由に使ってもいいとのこと。なんだかワクワクする。

 まず、タルト台から作る。

 バターに砂糖を入れて混ぜる。滑らかになったら卵黄を入れ、馴染んだら小麦粉と粉末ナッツを投下。さらに混ぜ合わせる。生地がボソボソになり、まとまってきたら丸めて一時間ほど放置。

 生地は伸ばして、バターをたっぷり塗ったタルト型に入れて形を整える。それから、フォークで生地に穴を開けた。最後に、生地が膨らまないよう、重石を乗せてかまどで焼く。これでタルト台は完成だ。


 生地を焼いている間、中に詰めるカスタードクリームを作る。

 まず、鍋に牛乳を入れて、ふつふつとなるまで温める。

 別のボウルに小麦粉、卵黄を合わせてかき混ぜ、それに温まった牛乳を入れて漉す。

 その後、湯せんしながら材料を混ぜる。

 最後に入れるのは、バターと――。


「アルブーム、例のアレを持って来てくださ~い」

『ハ~イ』


 完成間際のカスタードクリームの中に追加で入れるのは、スノードロップの実。

 アルブムがボウルに落とした瞬間に、しゅわりと溶けてなくなった。

 カスタードクリームに砂糖を入れなかったのは、スノードロップの実を使うからだった。


『ウワ~、オイシソウダネ~』

「もうちょっと待ってくださいね。すぐにできますので」

『エッ、アルブムチャンノ分モ、アルノ?』

「ありますよ」

『ヤッタ~~!!』


 アルブムは侯爵様に喜びを伝えに行くと言って、厨房から出て行った。

 そういえば、侯爵様は甘党だったような。一切れ、食べるだろうか。

 いやいや、毎日高級なお菓子を食べているので、舌が肥えているはず。私のタルトなんて……。と、思ったけれど、日ごろの感謝として、届けてもらうのもいいかもしれない。気持ちは伝わるだろう。


 生地とカスタードはしばし粗熱を取る。


 二時間後。

 まず、冬苺フレサの実を薄く切り分ける。かなり大きいので、通常の冬苺フレサタルトのように、そのまま載せるわけにはいかない。

 次に、カスタードをタルト台に流し込み、冬苺フレサを綺麗に並べ、粉砂糖をまぶしたら完成。

 題して、『冬苺フレサタルト~スノードロップの実を混入して~』!

 どや顔で発表したのに、リーゼロッテからツッコミが入る。


「メル、混入はどうかと思うわ」

「あまり美味しくなさそうな表現でしたね。でしたら――」


 『冬苺フレサタルト~スノードロップの実をぶちこんで~』。


「もっと悪化したわね」

「名付けの才能が皆無なのかもしれません」


 リーゼロッテが考えてくれた。題して、『冬苺フレサタルト~スノードロップの実を一粒落として~』。


「かなりいいですね」

「気に入ってくれてよかったわ」


 粉砂糖が雪のようで綺麗だと、お褒めの言葉をいただく。


「リーゼロッテも良かったら食べてください」

「いいの?」

「はい。その代り、侯爵様と一緒に食べてもらえますか?」

「ええ、いいけれど」


 リーゼロッテは侯爵様をお茶に誘いに向かった。入れ替わりに、侍女さんがお茶を淹れにやって来た。


 ナイフで六等分に切り分ける。

 二切れはザラさんに。アルブムとリーゼロッテ、侯爵様に一切れずつ。最後の一切れは、私の毒味用。台所の隅にある椅子に座って、いただく。


 タルト生地はサクサクで、バターの風味が香ばしい。冬苺フレサの実は、甘酸っぱくて最高。カスタードクリームは濃厚で滑らか。さすが、スノードロップの実が入っているだけある。美味しい!

 疲労回復効果もすぐに表れた。一仕事きた疲れが綺麗になくなっている。凄い!


 間違いない出来栄えだったので、安心してみんなに食べてもらえる。


 ザラさんの分を包み、他の分は侍女さんに持って行ってもらうよう頼んだ。

 私はアメリアに跨り、ザラさんの家に向かう。


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