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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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スノードロップ大捜索!~味見編~

 雪の重みにも負けず、スノードロップはしっかりと形を保った状態であった。

 話にあったとおり、茎も、葉も、花も白い。

 花は四枚の花弁からなるつり鐘状。

 そして花柱より、白く雫状の実が下がっている。


「これが、スノードロップの実、ですか?」

『ソウダヨ』


 周辺を掘ると、四つほど出てくる実の付いたスノードロップ。

 アルブムの話によると、周囲の魔力と花の蜜が結晶化した物らしい。

 宝石みたいな輝きを放ち、思わず見惚れてしまう。大きさは親指と人差し指を丸めたくらいで、熟れた果物のような甘い香りを放っていた。


 試しに一つ、もいでみる。


「――え!?」


 手に取った瞬間、物凄い速さで溶けていく。


「うわっ、もったいな、ええ~~」


 急いで近くにいたアメリアの口に持って行った。


『ク、クエ~~!!』


 なんと、凄く美味しいらしい。いったいどんな味わいなのか。


『パンケーキノ娘モ、食ベテミタラ?』


 アルブムが囁く。数もたくさんあるし、一個くらいいいだろうと。


「……いや、ダメです! 任務、最優先!」


 まず、スノードロップを溶かさないように持ち帰る方法を考えなければ。


「あ、アルブムはいくつかどうぞ。スノードロップの実が発見できたのは、すべてあなたのお手柄ですから」

『パ、パンケーキノ娘……!』


 なんだ、そのウルウルした眼差しは。

 私がスノードロップを独り占めする悪い奴だと思っていたのか?


「そんなこと、するわけないじゃないですか」

『ア、ウン、ソウダネ』


 周囲を掘った結果、八つのスノードロップの実を発見できた。

 花が咲いているだけの物を入れたら二十くらいあったけれど。


「アルブム、いくつ欲しいですか?」

『エ!?』

「あなたがいなかったら、見つけられませんでした。どうぞ、お好きなだけ持って行ってください」


 最低でも一個あれば十分だろう。エヴァハルト夫人はいくつ持って来いとか、条件を言わなかった。


『エ~ット、エ~ット、ジャア、三ツ』

「どうぞ」


 もっとたくさん食べたいと言うかと思いきや、案外少ない個数でよかったらしい。

 アルブムは両手でスノードロップの実を掴むと、一気に引き千切った。


「早く食べないと、溶けますよ」

『溶ケル?』


 アルブムはスノードロップの実を手にしたまま、小首を傾げている。

 あら、もしかして、妖精の手の中だと、溶けないとか?


『ウン、溶ケナイヨ』

「なんと!」


 アルブムは一口でスノードロップの実を食べる。


『フワ~~、コレ、イイ匂イデ、甘クテ、オイシ~イ』


 その感想を聞くと、余計に食べたくなる。

 一個くらい……。いいや、だめだめ。エヴァハルト夫人に一個でも多く持って帰らなければ。


 アルブムは二個目のスノードロップの実を千切っていた。

 その様子を見守っていたが、想定外の行動に出る。


『ハイ』

「え?」

『オイシイカラ、パンケーキノ娘モ、食ベタラ?』

「アルブム……!」


 いったいどうしたのか。あんなにも、食い意地が張っていたのに、私にわけてくれるなんて。


『ア~ン』

「え、ですが……」

『イイカラ』


 アルブムはスノードロップの実を持った手を、せいいっぱい伸ばしている。

 私は身を屈め、スノードロップの実を食べた。


「んん!?」


 なんだろう、これは!

 果肉は凍っていない。

 噛むとぷちっと薄皮が弾け、甘くてみずみずしい果汁が溢れてくる。

 これが、スノードロップの実。

 食べたあとは、体が軽くなる。疲労回復効果があるのか。


『ドウ?』

「すごく、美味しいです。びっくりしました」


 私は深々と、アルブムに頭を下げる。


「貴重な物をいただき、ありがとうございました」

『エ? ア、マァ~、別ニ、大シタコトハシテイナイケドネッ!』


 食べ物のことだけを考えている奴だと思ったけれど、人に対する優しさなども持ち合わせているらしい。

 いや、私がアルブムの良いところを知ろうとしていなかったのだ。反省をしなければならない。


「帰ったら、美味しいパンケーキを作るので、楽しみにしていてくださいね」

『ア、ウン、アリガトウ』


 と、互いの理解を深めたところで、もう一つお願いをしなければならない。

 それは、スノードロップの実の運搬だ。


「どうやら、私が触ったら溶けてしまうようです。申し訳ないのですが、スノードロップの実の収穫と、運ぶお手伝いをして欲しいのですが」

『イイヨ、アルブムチャンニ、任セナサイ!』

「ありがとうございます」


 お礼に、追加で何か作ることを約束した。


『パンケーキノ他ニ、何ガ得意ナノ?』

「え、得意なもの、ですか? 川鼈スッポン料理とか、いくらでも作れますが」

『スッポン? ナニソレ?』


 山育ち、植物系妖精のアルブムは川鼈スッポンを知らないようだった。


「お肉ですよ。食べられますか?」

『アルブムチャン、雑食ダヨ』

「だったら良かったです」


 後日、川鼈スッポン料理を振る舞うことを約束した。


 スノードロップの実はアルブムが収穫し、革袋に詰めていく。

 不思議な物で、人が触れなければ溶けないらしい。革袋の中でも、形を保っているようだ。


「さて、帰りますか」

『クエ!』

『ハ~イ』


 アメリアに跨り、空を飛んで帰る。


 またしても、アルブムと共に悲鳴を上げたのは言うまでもない。


 ◇◇◇


 ――というわけで、無事に任務達成した。


「メル、良かった! アメリアも!」


 帰宅してすぐ、リーゼロッテから熱烈な出迎えを受ける。

 ぎゅっと抱きしめられる。胸で窒息するかと思った。


『アルブムチャンモ、イルヨ!』

「ええ、ご苦労だったわね」


 リーゼロッテからわりと雑な労いの言葉を掛けられたアルブムだったが、満更でもない様子だった。単純で良かった。


 エヴァハルト夫人に報告し、スノードロップの実を見せる。


「まあ、本当に見つけることが、できたのですね」

「はい」

「ありがとう。大変でしたね。魔物は大丈夫でした?」

「ええ、まあ」


 なんとなく、大鷲について聞いたら、卒倒しそうだったので、黙っておいた。

 早速、ノワールはスノードロップの実を口にする。


『みゃあ~~!』


 口に入れた途端、転げ回って喜んでいた。

 その様子を、羨ましそうに眺めるブランシュ。エヴァハルト夫人のほうを、チラチラと見ていた。


「ブランシュ、わかっていますよ。この子にも、スノードロップの実を与えてくださる?」

「はい」


 エヴァハルト夫人の慈悲に感謝。

 ブランシュにも、わけてくれるらしい。


「アルブム、よろしくお願いいたします」

『エエ~~』


 さっき、アルブムはノワールにスノードロップの実を与える時に、手ごと食べられそうになったのだ。またそうなるのではと、警戒しているのだろう。


「ブランシュは大丈夫だから」

『ホ、本当?』

「本当です」


 たぶんだけど。

 口に出さずに、心の中で思う。


『エ~ット、ジャ~、ブランシュチャ~ン』


 スノードロップの実を手に持ち、差し出しながらブランシュの名前を呼ぶ。


『にゃ~~』


 ブランシュはアルブムのすぐ目の前にやって来て、顔を覗き込む。


『アア~、怖ッ。イイカラ、早ク、食ベテ?』

『にゃ~~』


 ブランシュはお礼とばかりに、アルブムをぺろんと舐めてから、スノードロップの実をパクリと食べた。


『ンギャアア、舐メ、舐メラレ、ウワワ~~ン!!』


 ブランシュに舐められて涙目になるアルブムのもとにアメリアがやって来て、気持ちはわかると、クエクエ鳴いていた。


 ブランシュに舐められた者同士、励まし合っているようだった。


 そんなことはさておいて、エヴァハルト夫人に問う。


「あの、私はここに住んでもいいのでしょうか?」

「ええ、約束は果たしましたから」

「ありがとうございます!!」

「住居登録などの詳しい書類一式などは、幻獣保護局に送っておきます」

「はい、よろしくお願いいたします」


 良かった!

 これで、アメリアとゆっくりのんびりと暮らせる。


 引っ越しは次の休みとなった。これでひと安心である。


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