スノードロップ大捜索!~探そう編~
アメリアに跨って、ふわりと飛翔。
どんどんと、王都の街並みが遠くなっていく。
上空は、やっぱりヒヤリとする!
前方より吹き付ける風は、針のように鋭く思えた。
そして、地上の全体図を見て気付く。
「――うわっ!」
真っ白だった。王都周辺は一面、雪の絨毯が敷かれていた。
雪のことを、すっかりと失念していたのだ。
スノードロップは茎も、葉も、花も、実も白い。一面銀世界のこの中では、見つけることは困難だろう。
アルブムの頑張りに期待するしかない。
スノードロップは王都の森や平原にあると言っていた。一応、魔物を警戒して、見通しが悪い森は避けたほうがいいだろう。
王都をぐるりと取り囲む森を抜けると、平原が広がっていた。
「アメリア、ここら辺で降りましょう」
『クエ!』
ゆっくりと、下降していく。
背の高い木が並ぶ、雪の景色を眺め、絶望してしまった。
雪は足首辺りまで積もっている。
もしかしなくても、スノードロップは埋もれているだろう。
「ここからスノードロップ探し出すとか、無理ですよね……」
『クエ~~』
もう、いっそのこと侯爵様の家の子どもになるか。
いや、でも、リーゼロッテが結婚したあと、私だけずっと独身とか気まずくならない?
侯爵様に「お前はいつ嫁ぐのだ」とか眉間に皺を寄せつつ責められたら、怖くて号泣するだろう。
ダメだ。恐ろしくて侯爵家の子どもにはなれない。
真面目にスノードロップを探そう。
まず、アルブムを革袋から取り出した。
「アルブム、大丈夫ですか?」
『ウ~ン、ビミョウ』
「パンケーキのために、頑張ってくださいね」
『ア、ソウダッタ! アルブムチャン、ガンバル!』
そう言って、革袋からぴょこんと飛びだし、地上へ着地した――が、雪が深く、全身埋もれてしまう。
『アア、アアアア、雪デ、溺レル!』
ジタバタと暴れるアルブムを摘まんで持ち上げ、肩掛け鞄の中に入れてやった。
『パ、パンケーキノ娘……意外ト、優シイナ』
「意外とは余計です」
魔物避けの聖水を振りかけようとしたけれど、蓋を開けただけでアルブムが呼吸できなくなるというので、使用は止めにした。もしも、魔物と遭遇した時は、アメリアに跨って逃げるしかない。
「じゃあ、スノードロップ探しを始めますよ」
『クエ!』
『リョーカイ!』
とは言っても、基本的にアルブムの鼻頼りである。
私は魔棒グラをしっかり握りしめ、周囲を警戒しながら一歩踏み出す。
『ア、アッチニ、甘イ香リガ!』
アルブムの指差すほうへと向かった。
『マッスグ~、マッスグ~』
その先にあったのは――森林檎。
しかし、ただの森林檎ではない。
「えっ、これは、黄金の森林檎じゃないですか!!」
通常、森林檎は真っ赤な果実だけど、冬に実らせる種類の中に、黄色の実を生らす物があるのだ。しかし、それは野生にしかなく、幻と呼ばれていた。
魔棒グラで枝を叩き、実を落とす。
落下する実は、アルブムが受け止めてくれた。
『ア~、スゴイ、イイ香リ~』
「ですね! ちょっと味見を」
皮を服で擦り、齧った。
「うわっ、甘い!!」
それは、品のある濃い甘さで、雪の中にあったのでシャリシャリしている。
「凄い……、極上のシャーベットのような、贅沢な気分になります」
『アルブムチャンモ、食ベル!』
「あ、すみません」
ナイフで切り分け、アルブムとアメリアにわけてあげた。
『クエクエ~』
『オイシ~』
「さすが、幻の果物ですね」
パイにしたらさぞかし美味しいだろう。そうだ、ザラさんへのお見舞いに持って行ったらどうだろうか。
「砂糖煮込みにするのもいいですね」
『刻ンデ、パンに練リコムノハ?』
「いいですね。おいしそうです」
魔棒グラで森林檎を落とし、アルブムがキャッチする。
アメリアの鞍に付けた革袋に入れて、また落とす。
五つほど採っただろうか。
「あとは、高いところなので採れないですね……」
腕を組んで考える――が、ここで、アメリアよりツッコミが入った。スノードロップを探さなくてもいいのかと。
「ハッ!」
『アッ!』
そうだった。
「アルブム、次、行きましょう」
『……ハイ』
なるべく、森のほうへは行きたくない。魔物と遭遇する確率が上がるからだ。
「スノードロップって、だいたいどこに生えているのですか?」
『色ンナ、所』
ここ、という場所はないようだ。
再度、甘い香りを探ってもらう。
『ウ~ン、ウ~ン……ハッ!!』
甘い香りを感知した模様。
雪が積もり、足元の悪い中、進んで行く。
しばらく歩くと、平原の何もない場所へとたどり着いた。
『ココ!』
「もしかして、雪の中に?」
『ソウ!』
おお、これは期待できる!
魔棒グラで慎重にザックザックと掘る。アメリアも手伝ってくれた。
そして、雪の中から出てきたのは――
「おお、これは!!」
真っ赤な冬苺!
しかも、拳大の大きさだ。どうしたら、ここまで育つのか。
「凄い、これ、どうして……?」
『コノ辺ハ、魔力量ガ豊富ダカラ、大キクナルンダヨネ~』
「そうなんですね」
これは、タルトにしたい。きっとほっぺたが落ちるほど美味しいだろう。
いったい、どんな味がするのか。
『クエクエ?』
「あ、はい」
アメリアに「目的忘れていないよね?」と釘を刺される。
すみません、ちょっと忘れていました。
でも、せっかく発見したので、見つけた三つは持ち帰らせてもらう。
『クエクエ』
「すみません、手早く掘り起こすので」
大きな冬苺を三つ手に入れた!
『オッ!』
また、甘い香りを発見したのか。
振り返るのと同時に、ゾッと悪寒が走る。
『クエエエ!』
「うぎゃああ!」
『ギャアア!』
上空から、大きな影が迫っていた。
あれは――大鷲!
こちらに向かって飛んで来ていた。
「待って、待って! ちょっ、無理~~!!」
『クエエエ!!』
アメリアが飛び出して行く。
「待って、待ってください。アメリア、ダメです!!」
箱入り娘なのに! 戦闘訓練なんてしていないし、対抗なんてできるわけ――
見ていられなくなり、ぎゅっと目を閉じる。
アメリア、ごめんなさい。守ることもできないのに、こんなところに連れ出して。
母親失格だろう。
涙がじわりと溢れ、頬を伝う、が。
「――ん?」
アメリアの鳴き声が聞こえない。
まさか、声を上げる暇もなく――?
恐るおそる、顔を上げると、驚きの光景が広がっていた。
大鷲の体は地面から生えた蔓にぐるぐる巻きにされ、地に伏せた状態になっていたのだ。
アメリアは羽ばたかずに、地上でポカンとしている。
よくよく見ると、アメリアの頭上にアルブムが乗っていた。
『ハッハッハ~、見タカ、アルブムチャンノ、実力ヲ!』
「ア、アルブム~~」
私は駆け寄って、アメリアをぎゅっと抱きしめ、アルブムには大切に取っておいた非常食のチョコレートを手渡した。
「アルブム、ありがとう、ありがとうございます!!」
『エ? ア、マ、マア、大シタコトハ、シテイナイケドネッ!』
「ありがとうございます」
お菓子はまだいるかと聞いたけれど、珍しくいらないと首を振る。
『……人間ニ、初メテ、感謝サレタ。悪イ気ハ、シナインダナァ……』
「ん? 何か言いました?」
『ナ、ナンデモナ~イ』
とりあえず、大鷲はそのまま放置で先を進む。時間が経てば、蔓は消えてなくなるらしい。
『アイツ、冬苺ヲ、狙ッテイタンダ』
「そうなのですね」
冬苺は大鷲の好物らしい。
厳つい顔をしているのに、苺が大好きだなんて。
今度は早足で、その場を離れる。
魔物に見つからないうちに、早く探さなければ。
しばらく歩いていると、アルブムが反応を示した。
『――ア、アッタ!!』
アルブムは鞄からぴょこんと飛びだし、雪の中を泳ぐように進んで行く。
ザクザクと雪を掘るアルブム。私とアメリアも手伝った。
見つけたのは――白く可憐な花。スノードロップだった。




