表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/412

巨大魚のお頭スープ

 森に入る前に馬を広場に置き、角蜥蜴探しに出かける。私は足手まといになるので、お馬さんと一緒にお留守番。


 周辺には薄めた聖水を撒いてくれた。これをすれば、魔物が近寄って来ないのである。

 ベルリー副隊長が私に言い聞かせるように注意事項を述べる。


「もしも魔物が来た場合、聖水を頭からかぶって、うずくまっておくように」

「わかりました」


 小瓶の中身の聖水。値段を聞いたら卒倒しそうになる。私の給料一ヶ月分くらいらしい。

 けれど、命には代えられないのだ。


 ガルさんは予備の槍を貸してくれた。とても優しい。


 みんな、良い笑顔で角蜥蜴退治に行く。

 一人になった私は、その場で待機しておくのも暇なので、ガルさんの槍を片手に近場を散策することにした。


 お馬さん達は縄で繋いでいないけれど、いい子なので笛を吹いたら戻って来る。

 放っておいても大丈夫だろう。 


 暇潰しの森散策にでかけたのだった。


 ◇◇◇


 森の中は豊かな自然が溢れていた。

 入ってすぐに胡椒茸を発見する。幸先が良い。そして、少し進んだ先に山栗ルマロンを発見した。

 周囲のイガイガをブーツで踏んで外し、実を取る。

 木にも山栗ルマロンの実がなっていたので、ガルさんの槍でつついて落とせば、頭にイガイガが降ってきて、悲鳴を上げてしまった。欲張ろうとした罰だろう。

 お皿代わりになる葉っぱを採取し、薪用の枝も集める。

 気が付けば、背負っていた鞄がパンパンになっていた。


 お馬さんがいる広場に戻り、夕食の準備をする。

 まず、山栗ルマロンを煮る。茹で上がったら渋皮を剥いた。

 これも捨てないで使う。沸騰したお湯に渋皮と砂糖を入れて煮込めば、渋皮茶の完成。かなり渋いけれど、血液がサラサラになると前にお祖母ちゃんが言っていた。

 私はあまり好きじゃないけれど、隊員のみんなはこれを飲んで健康になってもらおう。

 栗の実は蜂蜜ミエレと絡め煮にした。単独で食べてもいいけれど、パンに載せても美味しいのだ。


 次に、胡椒茸と薬草ニンニク、唐辛子ピマンをオリヴィエ油で煮込む料理を作る。

 これも、パンに浸したら美味しい。


 メインは、昼間に釣った巨大魚の頭部!!

 これで、スープを作るのだ。


 まず、巨大魚の頭部に香辛料を揉みこんでおく。臭み消しだ。

 次に胡椒茸に薬草ニンニク、花薄荷オレガノなどを細かく切って炒め、鍋から取り出す。

 それから沸かした湯の中に巨大魚の頭部を入れて、ひと煮立ち。余分な灰汁は匙で掬っていく。

 湯が白濁色になれば、魚を取りだす。匙で頭部にある身をほじってスープに投下!

 目も美味しいんだよね。ほじって入れる。あと、頬の身も忘れてはいけない。

 ここが家であれば、乾かして粉末状にし、草花の肥料にする。けれど、ここではそんな加工などできないので、余った骨などはそのまま地面に埋めた。

 スープの中に先ほどの野菜類を入れ、隊長の白ワインもドバドバ投下する。最後に唐辛子ピマンを入れたら、本日のメイン『巨大魚のお頭スープ』の完成だ。


 我ながら、頑張った。

 暗くなれば、お馬さん達も火のあるほうへと戻って来る。良い子達だ。


 陽が沈む前に、騎士隊のみんなも戻って来た。


「もう、くたくたです~~」


 ぐったりするウルガスに、


「一歩も動きたくない」


 疲れた様子を見せているベルリー副隊長。


「……」


 相変わらず、無口なガルさんだけど、尻尾がしょぼんとなっているので、疲れているのだろう。


「腹減った」


 そう呟くのは隊長。私は「待っていましたとも」と返事をする。


 鍋を囲み、夕食にする。

 スープは木の器に注ぐ。最低限の食器を持ち歩くようになったのだ。

 みなさん、食器を使ってお上品に食べましょう。

 私は今、第二遠征部隊の脱・山賊団を目指しております。


 食前のお祈りを捧げ、いただきます。


 まずはスープから。

 巨大魚は出汁も美味しい。あっさり薄味のスープだけど、ピリッとしていて体が温まる。

 みんな、美味しそうに食べてくれて嬉しい。だが、一人だけ違う反応を示していた人が。


「うわ、な、なんで魚の目が入ってんだ!!」


 隊長である。匙で魚の目を掬い、思いっきり顔を顰めていた。

 繊細なところがあるものだ。


「魚の目、プルプルしていて美味しいんですよ。お肌もツルツルになりますし」

「ば、馬鹿か!!」

「ええ~~」

「よく、こんな不気味な物を食べられるな」

「一度試しに食べてみてくださいよ」

「断る!」


 他の人も、魚の目までは食べないと言う。異文化であったのか。


 隊長にいらないと言われる魚の目。美味しいのに。

 巨大魚の物なので、大きいし、確かにちょっと不気味かも。

 ウルガスやベルリー副隊長にも勧めてみたが、答えは否。

 最後に、ガルさんにもどうか聞いてみる。

 断られるかと思っていたけれど、こっくりと頷いてくれた。


 巨大魚の目玉が載った匙をそのまま口元へと持って行けば、ぱくんと食べてくれた。

 もぐもぐと、咀嚼している。

 どうかなと、ガルさんの尻尾に注目。

 未知の味に緊張していたのか尻尾がぴーんとしていたけれど、しだいにゆらゆら揺れてくる。

 目が合えば、コクコクと頷いてくれたので、美味しかったんだとわかった。よかったなと一安心。


 みんなの疑惑の視線が和らぐことはなかったけれど。

 今度から、魚の目玉はガルさんと楽しもうと心に誓った。


 胡椒茸のオリヴィエ油煮はパンに浸して食べる。

 薬草ニンニクの香りが引き立ち、胡椒茸の旨みが濃縮されている。塩気もちょうどいい。

 食後の甘味は山栗ルマロン蜂蜜ミエレ絡め煮。甘くてほくほくで美味しいのだ。


 食事が終われば、渋皮茶を振る舞う。

 皆、眉間に皺を寄せながら飲む。不評だったけれど、健康に良いと言えば我慢してくれた。

 食後。各々自由行動となった。ガルさんは瞑想を始め、ウルガスとベルリー副隊長は武器のお手入れ。隊長は酒を飲みだす。

 ウルガスはお酒が飲めないらしい。ベルリー副隊長は、任務中は飲まないようだ。私もお酒は飲めない。ガルさんは謎。

 酒瓶を持ち上げた隊長はあることに気付く。


「なんか、酒が減っている気が」

「スープに使いました」

「なんだと!?」


 その重たい酒瓶を持ち歩いていたのは私だ。少しくらい使ってもいいだろう。

 ベルリー副隊長も、まあいいじゃないかと言ってくれる。

 けれど、腑に落ちない様子の隊長。


「でしたら今度、蜂蜜酒を作ってお返しするので」

「お前、酒も作れるのか?」

「はい。蜂蜜酒メロメルは特に簡単ですよ」


 蜂蜜酒メロメルは我が家のメイン酒であった。飲んでいたのは父と兄と祖父。

 瓶の中に入れた水の中に蜂蜜を垂らし、天然酵母を入れるだけ。寒い時季は香辛料などを入れる時もある。材料費があまり掛からないので、貧乏人に優しいお酒だ。


「辛いのと甘いの、どっちが好みですか?」

「辛口が好みだ」

「了解です。今度作っておきます」


 お酒の使い込みはなんとか誤魔化せたようだ。ふうと安堵の息を吐きつつ、額の汗を拭う。

 隊長のお酒、途中で高級品だと気付いて静かに焦っていた。スープも美味しいはずだ。


「そういえば、角蜥蜴退治はどうだったんですか?」

「終わった」

「へ?」

「群れに出くわして、一気に殲滅せんめつできた」

「うわあ~~、よかったのか、悪かったのか……」


 みんなが疲れていた理由が明らかになる。


「それは、もう、大変お疲れ様でした」

「おかげさまでな。明日の朝には帰れる」


 そう言って、隊長はごろりと転がった。

 私も、ベルリー副隊長の隣に転がる。

 ふわあと欠伸が出た。今晩はよく眠れそうだ。

 今日も星が綺麗だった。


 ◇◇◇


 朝。のろのろと起き上がる。

 夜明けから朝までの見張り当番だったウルガスが、片手を挙げて欠伸交じりの挨拶をしてくれた。


 朝食はパンと炙った干し肉。

 干し肉は熱すると脂が溶けて少しだけ柔らかくなる。美味しい。


「うわ~~、リスリス衛生兵の干し肉美味しい~~」

「ありがとうございます~~」


 感激で間延びした喋りになっているウルガスの、言葉遣いを真似して返事をする。


「噛めば噛むほど味が滲みでてくるんですね」

「そうです。これが干し肉なんです」


 スープの残りと一緒に食べて、朝食は終了。近くにあった川で鍋と食器を洗う。

 こうして任務を終えた第二遠征部隊は、意気揚々と王都へ帰ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ