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雑貨屋に行こう!!

「今回の、騎士隊がいない村でのあの扱いは、わからなくもないのよね」


 ザラさんが生まれ育ったのは雪深く閉鎖的な村。もちろん、騎士隊の駐屯所などなかった。

 国境近くにあり、たまに亡命する者が助けを求めてやって来る。


「村に辿り着ける人は良かったのよ……」


 春先になれば、森で白骨遺体が発見されることは珍しくなかったらしい。

 深く厳しい雪の中、村に到達することもできず、息絶えてしまうのだ。


「そういう人を見つけたら、埋葬してあげなさいと、両親から教わっていたの」


 その際、土に還すのは白骨と衣服のみで、金属などは自然の営みを妨害するので持って帰るよう言われていたらしい。


「金属――ナイフや装飾品は持ち帰って、商人に売っていたわ」


 たまに、森に剣やナイフが落ちていることもあったらしい。これも、亡命者の私物である。


「これも、喜んで持ち帰って、商人に売った」


 そうすれば、食卓に肉が並ぶ。ザラさんの村では、生き抜くためにそういうことも悪びれなく行われていたと話す。


「まあ、こんな風に、騎士がいない村で、拾った物を売ることは普通なのよ。みんな、生きるのに大変だから」


 だから、ザラさんは魔斧ルクスリアが転売されているのを目の当たりにしていても、落ち着いていたのだ。


「とは言っても、村人間では盗みは行わないし、して良いことと悪い事の分別はついているわ」


 店主は知らないで買い取ったのだろう。そう思い、ザラさんは雑貨屋の件については見逃そうと思っていた――が。


「あの店、違法薬物を売っていたの」

「なんだと!?」


 ここで、初めて隊長が反応を示す。


「堂々と売っていたわ。こちらが騎士と名乗ったのに、動揺の欠片も見せなくって――」

「馬鹿じゃないんだろう?」

「ええ。目利きは確かだったわ」

「なるほどな」


 背後に大物が付いている可能性があると、隊長はぼやくように言った。


「まあ、むしゃくしゃしているから、派手に荒らしてやろうぜ」

「はい?」


 なんか、正規の騎士とは思えないとんでもない発言が聞こえた。


 他の人の顔を見る。

 ウルガスは無邪気な笑顔を浮かべていた。

 ガルさんは尻尾をゆらゆらと動かしている。ご機嫌なんですね。

 スラちゃんはガルさんの肩の上にいて、手のように生やした触手でしゅっしゅと拳を突き出すような動作をしていた。戦う準備をしているらしい。

 リーゼロッテは目を細め、殺伐とした雰囲気でいた。不機嫌なようだ。

 ベルリー副隊長は無表情でいる。隊長を止める空気ではない。

 ザラさんはぶんぶんと戦斧を振り回している。殺る気……いや、やる気が漲っているよう。

 アメリアは翼をバザァと広げ、低い声で鳴く。こちらもやる気十分のようだ。


 あれ、やる気がないの、私だけ?

 一回上層部に報告してからガサ入れしたほうが良くない? とか、裏に付いている人物が誰かわからないので、派手なことはしないほうが良いんじゃないとか? 思っているの、私だけ?


「あの……皆さん、どうして、そんな……」


 答えなど、さっき隊長が言っていた「むしゃくしゃしているから」なんだろう。

 それで良いのか?

 いや、良くないだろう。


「いい。許す」


 え、良いの? 殴る? 店主、殴る?


「ああ、殴ってやれ。責任は全部俺が取る」

「店主……私も、殴る」

「その調子だ」


 と、いうわけで隊長より殴って良いという許可が出た。よって、店主に制裁を与えに行くことになる。


 ◇◇◇


 川鼈スッポンの効果か、皆顔色も良くなったし、気力なども回復したようだ。

 その分、荒ぶっている。元気になり過ぎてしまった。


 森から馬に乗り、村に辿り着く。

 ボロボロの服装の隊長を見て、村の男性が「ヒッ!」と声を上げる。


「おい、お前」

「お、おお、お許しを、私には妻子と老いた両親が!!」

「村長のもとへ連れて行け」

「はい?」


 どうやら、きちんと許可を得てからガサ入れするらしい。礼儀正しい山賊だと思った。さすがだ。


 村長の家で雑貨屋の話を聞く。

 アメリアは入れなかったので、ガルさんと外で待機している。スラちゃんは私の肩に跳び乗った。大人の話に興味があるお年ごろらしい。

 隊長は無精ひげを生やし、身なりが悪かったので騎士にはとても見えなかったが、村長さんは信じてくれた。良い人で良かった。

 隊長は雑貨屋について話を聞く。


「その、わしらも、雑貨屋にはほとほと困っておって……」


 雑貨屋がやってきたのは三年前らしい。それまで平和な村だったが、ガラの悪い人が出入りするようになっていたとか。


「雑貨屋で売っている物はどれも値段が高く、村人がやって来ても、雑な接客しかせんかった。どうにかならんのかと、何度も話にいったが、取り付く島もなく」

「なるほどな」


 今まで村に雑貨屋はなく、必要な物があれば出入りの商人に頼んでいたらしい。注文から一週間から十日も掛かるので、不便だった。初めこそ雑貨屋ができたことを喜んでいたが、今は困った存在になっていると話す。


「なぜ、騎士隊に相談しなかった?」

「いえ、こんな辺境まで、騎士様がいらっしゃるとは思えず……」

「騎士はどこにでも行く。それが、俺達遠征部隊の仕事だ」

「はい……」


 悔しいけれど、ちょっと隊長がカッコイイと思ってしまった。


「話は把握したな?」

「もちろん」


 ベルリー副隊長が良い返事をする。

 ウルガスが「毒矢はダメですよね?」とか物騒な質問をする。


「痺れ矢くらいならいいだろう」

「了解です!」


 痺れ矢ならいいんか~い。

 思わず心の中で突っ込む。


「隊長、わたくしの魔法は?」

「攻撃魔法は誰か一人倒れたら許可する。ただし、小規模のものにしろ」

「了解」


 リーゼロッテもやる気だ。

 スラちゃんは手をシュッシュと動かし、戦う気でいたが、隊長に瓶の中にいろと言われていた。しょんぼりしていたが――


「お前の手を煩わすまでもない」


 そんなことを真面目な顔で言っていた。スラちゃんはその言葉を聞いて、納得したようだ。


 ここで、作戦が言い渡される。

 私とザラさんが雑貨屋に行き、商売認可証の提示を命じる。きっと持っていないだろうから、それを理由に検挙するらしい。


「まあ、基本穏便にな」


 そんなことを言っていたが、怖い顔なので説得力が皆無だった。


 今日はもう遅いので、一泊することになる。

 昨日と同じ宿で休むことになった。


 ◇◇◇


 翌日。お昼前に作戦開始となる。

 魔法瓶入りのスラちゃんを首から下げた私とザラさんは再度、あの埃臭い雑貨屋に向かった。

 各隊員、配置に付く。準備が整ったら、潜入。


「――は?」

「だから、商売認可証を出してくださいって言っているんですよ」


 隊長の予想通り、無許可でやっているようで、許可証を出そうとしない。違法だと指摘すれば、村長の許可は得ているとか言い出した。


「一度、王都の商会局に行って審査を受けてください」

「だから、村長の許可は得ていると言っただろう!」

「村長は何度か、あなたに改善を求めに行ったと言っていたけれど、要望は聞いていないようで、出て行って欲しいと言っていたわ」

「うるせえ、カマ野郎!!」


 暴言を吐かれたザラさんが、手にしていた武器を軽く動かす。すると、肩を揺らしてビビる店主。


「許可証はひとまずいいとして。そこにある袋の中の植物、違法薬物よね?」

「これは――紅茶だ!」

「嘘」

「嘘じゃない。証拠はどこにある」

「じゃあ、私が全部買い取るから、中の草を燃やした煙を、一気に吸い込んでくれる?」

「それは――そ、そんな金、どこにあるんだよ」


 ザラさんは腰にぶら下げていた金貨の入った革袋を机の上に叩き付けるように置いた。


「マジか」

「マジか」


 私も店主につられて言ってしまう。きっと、隊長の所持金だろう。


「さあ、証明して見せて」

「クッ……」


 お金は欲しいけれど、葉っぱの煙を吸って証明はできない。そんなことが見え見えだった。


「ねえ、早く」

「クソ!!」


 店主は金貨の入った革袋を掴み、叫んだ。


「おい、出て来い! 騎士が来た、殺せ!」


 ドタドタと足音が聞こえる。ふむ、どうやら、二階に仲間がいたようだ。

 ザラさんと私は雑貨屋から走って脱出する。


「オイ!!」

「待てコラ!!」


 強面の男達があとを追って来る。

 外に出て対峙。ザラさんの武器の能力を最大限に発揮するのは、屋外のほうがいいのだ。


 人数は全部で十人ほど。

 なるほど。これだけ仲間がいるので、騎士が来ても大丈夫だと判断したのだろう。

 しかし、私達は二人組ではない。


「お頭、相手は二名でっせ」

「おう」


 お頭と呼ばれた大柄の男が雑貨屋から出て来たが――お頭が店の外に足を踏み出した瞬間、隊長が屋根から飛び降りてきて、下敷きにしていた。


「ぐえっ!!」

「お頭ーー!」

「うわあああ!!」


 それが、戦闘合図だった。

 隊長に続いて、ガルさんも屋根から飛び降りて来る。襲いかかって来る賊を槍でなぎ倒した。


 ザラさんのほうにはベルリー副隊長とウルガス、リーゼロッテが。

 ウルガスは矢を放ち、賊の武器に当てて次々と手から落としていく。相変わらず、凄い腕前だ。

 ベルリー副隊長は双剣を使わず、近接戦闘術で賊を倒していく。

 リーゼロッテは光の球を作りだし、目くらましをしていた。


 私はアメリアの背に乗って、上空に飛び上がった。


「ぎゃあ!」

『クエ~~』


 アメリアは嬉しそうだったけれど、鞍なしで乗るのは心もとない――というか滑り落ちそうで怖い!!


 風を切って進めば、店の裏口から怪しい影が。雑貨屋の店主だ。


「こら~、待て~!」

『クエクエクエ~~!』


 アメリアは大跳躍する。そして、店主へ体当たりした。


「ぎゃあ!」


 ゴロゴロと転がり、木に衝突して止まる店主。


「大人しくお縄についてください!」

『クエ!』


 懐からナイフを取り出し、こちらへ突き出してきたので、魔棒グラで応戦する。


『クエッ!』

「うわっ!」


 アメリアが急に接近したので、体の均衡を崩す店主。


「隙あり!!」

「うわあ!!」


 とどめとばかりに、力いっぱい脳天に魔棒グラを振り下ろした。雑貨屋の店主は気を失う。これ幸いと、手足を縛って拘束した。


 以上で、雑貨屋一味はお縄となった。

 身柄は騎士隊の駐屯所がある街へ引き渡すことに。


 これにて解決。

 空が青くて気持ちが良い!

 勝利に酔いしれていた。


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