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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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食用○○○○の作り方

 人工スライムの作り方。

 その一、まず、精霊の加護がある湖から水を調達する。

 その二、次に、スライムの素となる魔石(※成分は企業秘密)と水を混ぜ、数日放置。

 その三、ゲル状になったら、拳大にカットしていき、魔法瓶(※特許取得済)に詰める。

 その四、魔法陣(※構成は企業秘密)の上で一週間ほど熟成させれば、人工スライムの完成となる。


「――というわけで、人工スライムは、魔法瓶の中に封印されている状態ですし、誰かが取り出さない限り暴れまわったりしないんだよ」

「加工の際は?」

「魔法瓶ごと茹でるので、そのまま死ぬな」

「ふうむ」


 人工スライム麺を作っていたおじさんから詳しい話を聞く。なかなか興味深い話だけれど、悪用されたら恐ろしい技術である。やっぱり、魔法研究局と魔物研究局はとんでもなく怪しい機関なのだ。

 それを踏まえれば、幻獣保護局は健全な集まりだと思ってしまう。彼らを突き動かすのは、幻獣への純粋な愛なのだから。

 いや、その愛もたまに暴走している時があるけれど。


 ちなみに、にかわの作り方は――

 その一、魔法瓶に封じていた人工スライムを、瓶から取り出さずにそのまま大鍋で茹でる。

 その二、魔石燃料の鉄板でジュウジュウと焼く。

 その三、カリカリになったスライムを天日干しにする。

 その四、加工しやすい大きさに切り、袋に詰めれば完成。


にかわはこんな感じで」

「もしかして、屋根に干しているのがそうですか?」

「ああ。一週間ほどああやって乾かすんだ」

「なるほど」


 スライムの入った瓶は固定されて設置されており、建物が揺れて倒れたということはありえないらしい。保管庫の出入り口もしっかり魔法で封じられている。管理者しか入ることはできないのだ。


「まあ、犯人はレート工場長だろうが」

「そちらの方は?」

「アレキサンダー・レート。魔物研究局の魔法使いだよ。現在行方不明で、指名手配中だ」

「はあ、それはそれは」


 魔物研究局の局員兼にかわ工場の工場長が今回の事件の容疑者らしい。なんでも、スライム愛が異常な御方だったとか。


「材料のスライムすべてに名前を付けていたんだ。いつか何かやらかしそうだなと思っていたが――」

「恐ろしい話ですね」


 リーゼロッテは話を聞きながら、全力で引いていた。

 スライムを幻獣に置き換えれば、幻獣保護局でもありそうな事件だったけれど、黙っておいた。


「あ、そうそう。このスライム麺と砂糖煮メルメラーダなんだが――」


 新製品のスライム麺と砂糖煮メルメラーダは、新しいスライム系食品として、独自に作っている物なんだとか。


「スライム麺は茹でたスライムに小麦粉を加えて練った物で、スライムの砂糖煮メルメラーダは人工スライムに果汁と砂糖を入れて煮込んだ物だ。食感を楽しめるよう、チアの種も混ぜてみたがどうだろう?」


 いや、プチプチ食感で美味しかったけれど。味も甘酸っぱくて美味しかった。さまざまな果汁を独自で配合した物らしい。麺も小麦麺よりツルツルしていて、食べやすかったけれども。


「こう、スライムが全面に押し出されている感じがあるので、原料を知っていれば微妙な気持ちになります」

「だったら、スライム風と名付けて売ろう」

「いやいや、それも十分スライムを連想しますから!」


 まあ、商品化は自由だ。この事件で許可が下りるかはわからないけれど。

 承認する工場長も行方不明だし、原料であるスライムは逃げ出してしまったし、果たしてどうなるのか。


 従業員のおじさんと別れ、事件の経緯を手帳に纏めていれば、工場長捜索班の班長より、工場内の見回りを命じられた。


「嫌だな~~。怖いな~~」

「大丈夫よ。内部にスライムは残っていないから」

「わかっていますが」


 アメリアをモフモフして、心を落ち着かせる。


『クエ~』

「はい、大丈夫です。頑張ります」


 鷹獅子グリフォンに応援される私。なんというへたれ。

 地味に、泥鯰ヴェルス戦が心的苦痛として響いているようだ。一応、騎士であるのに、情けない話だけれど。


「心配しないで。メルのことは私が守るから」


 金の杖を持ったリーゼロッテが、キリッとした表情で言ってくれる。頼もしい限りだ。


『クエクエ!』


 アメリアも守ってくれるらしい。嬉しくて、涙が出そうだ。


「行きましょう」

「はい」


 工場内は魔石電灯が灯っていて、明るく照らされていた。

 近年、魔石開発が著しく、王都での生活を豊かにしつつある。数年経てば、さらに発達するだろうと言われていた。


 工場内は縦に長く、スライムを煮る大釜がたくさん並んでいた。

 これはスライムの入った魔法瓶を煮るだけでなく、瓶の煮沸消毒にも使われているらしい。

 工場内は無人で、シンと静まり返った空間が、不気味だと思った。

 コツコツと、足音だけが工場内に響いている。


「なんか、嫌な雰囲気……ギャッ!」


 ポタリと、首筋に冷たい何かが落ちて来たのだ。

 それは、どろりとしていて、肌の上をぬるりと滑り――


「ひゃあ! これ、スラ……リーゼロッテ、取ってください!」

「え、何? スライムが落ちて来たの?」

「ですです! なな、なんか、小さい奴が、服の中に入り込んで」


 首筋に落ちて来たスライム(小)は首筋に着地し、肩のほうへ滑ると、するりと服の中へと入って行った。


「え、どこ?」

「ひゃあ、リーゼロッテの手、冷たい」

「悪かったわね!」


 服の中に手を入れたリーゼロッテの手先が冷たくて、びっくりする。冷え性らしい。

 スライム(小)は親指と人さし指を丸めたくらいの大きさだろう。背中をするすると伝い、お腹のほうへと回ってきた。


「ひやっ、あははははは! リ、リーゼロッテ、お腹、お腹のほうに、スラ! あは、あはははっ、くすぐった……!」

「今度は前なの!?」


 リーゼロッテが私の上着を捲れば、スライム(小)とのご対面となる。

 透明なスライムはぷるりと揺れ、私から離れた。大きく跳ね上がり、逃走しようとしている。


『クエ!!』


 ポ~ンと跳ね上がったスライムを、アメリアが跳躍してくちばしで受け止める。すぐにペッと吐き出し、足で踏みつけた。


『クエエエエエ!!』


 アメリアは全力で踏みつけているようだったが、スライム(小)は息絶えない。なかなか手ごわいようだ。


「アメリア、足を退かせて。わたくしが炎で焼き切るわ!」

「ダメですよ、リーゼロッテ。工場内は火気厳禁です」

「そんなこと、言っている場合ではないでしょう?」


 いやいや、もしも工場の設備を破壊してしまったら、大変な修理費が――などと思ったけれど、リーゼロッテの実家はお金持ちなので、問題ないかもしれない。


「ですが、工場内は魔石もたくさんありますし、魔法陣も至る所にあります。私は魔法に詳しくありませんが、もしも引火なんかしたら、私達の命も危ないです」

「ええ、そうね。浅慮だったわ」


 リーゼロッテはカッと頭に血が昇ったら視野が狭くなるのだ。注意したほうがいい。


『クエ~クエ~』


 スライム(小)と格闘しているアメリアが「こいつ、しぶといんですけれど~」と報告してくる。外でお湯をもらって、と対策を考えていたが、アメリアの足はブルブルと震え、限界がきているようだった。


「ああ、アメリア。すみません」


 何か、代わりに押し付けるものがあればと周囲を見渡せば、スライムを封じる魔法瓶を発見した。

 急いで手に取り、蓋を開ける。


「リーゼロッテ、その杖でスライム(小)を突いて、この魔法瓶に入れてください」

「わ、わかったわ」


 勝負は一度だけ。

 アメリアが足を退かした瞬間に、リーゼロッテがスライム(小)を突き、私が持つ魔法瓶に追いやる。作戦を皆にしっかりと伝えた。


「では、行きますよ!」

『クエ!』

「了解!」


 息を合わせて――作戦開始。

 アメリアが足を浮かせた。リーゼロッテは金の杖でスライムをザクっと刺して、瓶のほうへと押しやる。

 プルプルと震えながら、魔法瓶に入って行くスライム(小)。

 全部入ったら、急いで蓋を閉じた。封印の魔法陣だろうか。蓋に描かれた円がほのかに光った。


 スライム(小)捕獲は無事、完了となった。


 ひとますホッとしたところだったけれど、不審者を一名発見してしまう。


「スラちゃ~ん、俺のスラちゃ~ん」


 ふらふらと彷徨うようにして歩いているのは、白衣を着た四十代くらいのおじさんだ。

 こちらを一瞥もせずに、何かを探している。

 もはや、嫌な予感しかしない。


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