ルードティンク隊長の寝不足の理由
ルードティンク隊長が朝から大あくびをしていたので、どうしたのかと聞いたら思いがけない話を聞いてしまう。
「朝から鳥野郎が集まりやがって、ピーチクパーチクうるさいんだよ!」
「それは大変でしたね。でも、どうして鳥が大集合しているのですか?」
「あー、たぶん、庭に実っているサクランボ目当てなんだろうよ」
「ええ、そうなんですか!?」
なんでもルードティンク隊長の家の庭には、立派なサクランボの樹があるという。
毎年、ルードティンク隊長の家に住み込みで働いている庭師のトニーさんが収穫していたようだが、年齢を考慮し、脚立に登って行う仕事を禁じていたようだ。
そのため、今年は庭のサクランボが放置状態となり、鳥が集まってきたという事情があったようで……。
「業者を呼んでサクランボの樹を伐ろうとしたんだが、マリアが残念がって」
マリアさんはトニーさんの奥方である。なんでも毎年、サクランボパイを作るのを楽しみにしていたらしい。
「だったら私がルードティンク隊長の家に行って、サクランボを収穫しましょうか?」
「いいのか?」
「ええ! 報酬としてサクランボをいただきますが」
「それは構わないが」
そんな会話をしていたら、ザラさんがやってくる。
「あ、ザラさん! ルードティンク隊長の家でサクランボ狩りのアルバイトしませんか? 報酬はサクランボなんですが」
「あら、いいわね!」
「ザラ、本気か?」
「ええ、メルちゃん一人でやらせる気だったの?」
「いや、まあ、俺も少しは手伝うつもりだったが」
「手伝うですって? あなたの家のサクランボなのに」
「ああ、ああ、悪かったな! メインでやるのが俺で、手伝うのはリスリスとザラ、これでいいか?」
ザラさんは満足げに頷く。
そんなわけで、次の休日にザラさんとサクランボ狩りのアルバイトを行うことにした。
◇◇◇
休日――私はザラさんと落ち合い、ルードティンク隊長の家を目指す。
途中でマリアさんとトニーさんへのお土産として、紅茶の茶葉を買った。
「喜んでくれるといいのですが」
「きっと喜んでくれるわよ」
そんなこんなでルードティンク隊長の家に到着する。
出迎えてくれたマリアさん、トニーさんに紅茶の茶葉を渡したら、切らしかけているところだった、と喜んでもらえた。
お茶と焼き菓子のおもてなしを受けたあと、庭へと移動する。
そこには立派なサクランボの樹があった。
ルードティンク隊長はすでにサクランボ狩りを開始しているようで、腕に抱えているかごにはいくつか入っているようだった。
「ザラ、リスリス、早く手伝ってくれ! 俺にはこの、ちまちま小さな実をもぎる作業は我慢ならない!」
ルードティンク隊長の大きな手では、サクランボの実が採りにくいようだ。
「任せてちょうだい!」
「頑張りますので!」
収穫作業を開始する。
木の実をちまちま摘むのは得意だった。
脚立に登り、ぷちぷちと採っていく。
あっという間にかごいっぱいのサクランボが採れた。
「リスリス、すごいな」
「森にいたころは、毎日のように木の実を集めていましたので」
「さすがだ」
ザラさんも器用にサクランボを摘んでいた。
「おお、ザラも上手いな」
「私も森に木の実を採りにいっていたのよ。貴重な食料だったのよ」
「なるほど、そういうわけだったのか」
三人がかりで作業すること三時間――おおよそのサクランボは採ってしまった。
どっさりあるサクランボは、売れそうなくらいある。
「好きなだけ持ち帰れ」
「いいんですか?」
「ああ、うちにこんなあっても食べきれないからな!」
ただ私もたくさんは食べきれないので、一かごだけいただいた。
ふー、と一息吐いていたら、マリアさんかた声がかかる。
「サクランボパイが焼けましたよ~」
「わあ!」
新鮮なサクランボをシロップ煮にしたものを、パイにして焼いてくれたようだ。
焼きたてあつあつが切り分けられる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
ルードティンク隊長は甘い物が苦手なので、サクランボ酒でも作ってくれとお願いしていた。
「お酒はほどほどにしないと」
「まあ、そうだけど」
そんな会話を聞きつつ、サクランボパイをいただく。
バターの風味が利いているパイは、何層にも分かれていて、生地はサックサクだ。
そんなパイ生地の中に、甘酸っぱいサクランボの実がたっぷり入っていた。
「んんん~~~、幸せの味です!」
「本当に!」
かごいっぱいのサクランボを得ただけでなく、マリーさんの絶品パイをいただくことができた。
充実した一日だったと言えよう。
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