秋といったらキノコ狩り!
やっとのことで迎えた休日――私は朝からアルブムに叩き起こされる。
『パンケーキノ娘ェ! 今日、キノコ狩リニ行コウヨ』
「ううん……。アルブム、今、何時……?」
懐中時計で時間を確認すると、朝方の五時だった。あまりにも早すぎる。
「アルブム、九時くらいになったらまた声をかけてください」
『ダメーーー! 早ク行カナイト、ナクナッチャウカモ!』
「森のキノコがすべてなくなるわけないでしょう?」
『デモ、アルブムチャン、オ気ニ入リノヤツ、トッテモオイシイカラ!』
アルブムがここまで言うということは、よほどおいしいキノコなのだろう。
「それって伝説のキノコ、〝チョウゼツ・ウマイ・タケ〟じゃないですよね?」
『ウーン、ワカンナイ! デモ、オイシイノ!』
おそらく大人しく待っておくということはできないのだろう。
仕方がない。そう思って起き上がり、お弁当作りを行う。
「おいしいお弁当を作るので、いい子にしていてくださいね」
『ハーーーイ!』
そんなわけで、寝ぼけ眼の状態でお弁当作りを行った。
出発は七時。
付き合ってくれるのはアメリア、そして昨晩からお泊まりにきていたリーゼロッテである。
「キノコ狩りってこんな早朝から行くものなの?」
「アルブムがいてもたってもいられないみたいで」
眠たかったらいてもいい、と言ったのだが、リーゼロッテはアメリアが行くと言ったので同行してくれるようだ。
キノコ狩りには必須の魔物避けも携帯した状態ででかける。途中まではアメリアに乗って向かったのだった。
見渡す限りの木、木、木――森。
そんなわけで森にやってきたわけである。アルブムは初めて踏み入る森のようだが、キノコの香りをさっそく感じ取っているらしい。
『コッチダー』
「あ、アルブム! 走らないで!」
「お待ちなさい」
『クエエエエ!』
アルブムがこの状態になったら、言うことなんぞ聞かないだろう。
そう思っていたのにピタッと立ち止まって『ハーーイ』と返事をする。
「アルブム、あなた、言うことを聞けるようになっているのですね」
『〝キョウ・チョウ・セイ〟、大事ッテ、山賊カラ、習ッタ』
まさかルードティンク隊長がアルブムのことを躾けてくれたなんて。
ただ、協調性についてアルブムに真面目に話しているルードティンク隊長を想像すると笑える。
「一緒にゆっくり進みましょうね」
『ワカッタ』
そんなこんなで歩くこと二時間、途中で昼食を挟みつつ、やっとのことでキノコがある場所に到着した。
『ワーイ! アッター!』
喜ぶアルブムを前に、私達は呆然とする。
目の前にレインボーなキノコがたくさん生えていたから。
「メル、これって」
『クエエエエ』
「ええ、そうです。毒キノコです」
正式名称は〝メッチャドク・アブナイタケ〟だったか。
わかりやすいくらい派手なので、祖父から「これは毒キノコだ」と聞いて「やっぱり」と思ったのを今でも覚えている。
アルブムはさっそく毒キノコを引っこ抜き、おいしそうに頬張っていた。
「ねえ、アルブム、それ、毒キノコよ!?」
『アルブムチャン、毎年食ベテイルケド?』
「おそらく、人間にとっては毒キノコなのでしょうね」
「そういうわけ」
せっかくここまでやってきたのに、アルブムの大好物はまさかの毒キノコだった。
『ソーイエバ、アルブムチャン以外、食ベテナカッタカモ』
この毒を無効化できる生き物はアルブムしかいなかったようだ。
なんて食べ物に対して都合のいい生き物……。などと思っていたら、リーゼロッテが何やら魔法で調べている。
「リーゼロッテ、何かわかったのですか?」
「メル、これ、高級薬の材料になるキノコみたい! 薬局に持っていけば、ひとつ金貨一枚で買い取ってくれるそうよ」
「な、なんですってーーーー!?」
毒キノコで高級薬が作れるなんて。
「ちなみにどんなお薬を?」
「若返りと発毛ですって」
「わあ、高値で取り引きされそう」
すぐさま手袋をつけ、口元に布を当てて毒キノコを採っていく。
アルブムが食べるスピードもなかなかだったので、負けじと頑張った。
「ふー、けっこうたくさん採れましたね」
『オ腹イッパーイ』
アルブムも満足したようで、何よりである。
帰りはリーゼロッテが転移の魔法札を使って街まで送ってくれた。
毒キノコはすぐさま換金し、私達はそれで得たお金でパンケーキを食べたり、夕食をいただいたりと豪遊できた。
『パンケーキノ娘ェ! マタ、来年モ、イコウネエ』
「ええ、まあ、気が向いたら」
二時間かけて森を歩くことを考えると、若干めんどくさいな、と思ってしまう。
けれども一年後の私はお金に目が眩んで、アルブムと毒キノコを探しにいってそうだな、と思う夜だった。
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お知らせその②
新連載がスタートしました!
『噂の悪女と魂が入れ替わりました! ただし、私の本体は死んでいるようです』
あらすじ
田舎育ちのご令嬢、噂の悪女と魂が入れ替わる!?
平々凡々な貴族令嬢ルルは、事件に巻き込まれて悪女ツィツェリエルと体が入れ替わってしまった。
ツィツェリエルは悪人一族と名高いヴェイマル侯爵家の娘で、非道な行いを繰り返す悪い女だ、と噂の貴族令嬢だったのだ。
それだけでも大変で不可解な出来事なのに、新聞にはルルが血を流して死んでいた、という報道がなされる。ルルを殺したのは誰? なぜ悪女ツィツェリエルと体が入れ替わったのか?
ルルは謎を解明するため、屋敷にいたでっかい猫ちゃん(※精霊)と一緒に調査します!
連載ページ
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