表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

410/412

お花見に行こう!・後編

 爆睡するルードティンク隊長を温かい目で見守っているうちに、サクラ園に到着した。

 すでに、たくさんの馬車が停まっていて、駐車場は混雑している。

 ルードティンク隊長はガルさんに優しく起こされていた。

 サクラなんて興味がない、みたいなことを言っていたリーゼロッテだったが、いざ、到着すると瞳をキラキラ輝かせていた。


「サクラって、どんなお花なのかしら?」

「楽しみですよね」


 アメリアも到着し、下り立つ。

 アルブムはすぐに外に出て、深呼吸していた。

 馬車から降りると、目の前に薄紅色の花を咲かせる木々が迎えてくれた。


「うわ……!」


 言葉を失ってしまうくらい綺麗なサクラを前に、しばしその場から動けなくなってしまう。


「あれは見事だ」


 ルードティンク隊長でさえも、サクラを絶賛していた。

 ベルリー副隊長も頷きながら言葉を返す。


「あのように木に花がいっぱい咲いている様子は、初めて見た」


 たしかに、木に花だけが咲いているというのはかなり珍しい。

 アーモンドの木も春先には花を咲かせるが、それよりも花の密度が高い。


 ウルガスは口をぽかんと開きながら、感想を口にする。


「なんだか、夢の中にいるみたいですねえ」

「ええ、本当に」


 ザラさんが長い腕を伸ばす。何か落ちてきたのか、拳を握っていた。


「メルちゃん、見て。サクラの花びらよ」

「わあ、綺麗です!」


 サクラは一枚一枚花が散るようだ。花びら一枚でさえも、サクラは愛らしい。

 公園の中に進んでいくと、見渡す限りのサクラが広がっていた。

 貴族達は机と椅子を持ち込んで、サクラを楽しんでいるようだ。

 私達は湖のほとりにピクニックシートを広げ、しばし景色を楽しむ。

 ザラさんが紅茶を淹れてくれた。


「これ、サクラ茶って呼ばれている紅茶なの。薄紅色で、かわいいでしょう?」

「ええ、綺麗な色ですね」


 ザラさんはサクラ茶と、それに合わせる薄紅色のサクラクッキーを焼いてきてくれたようだ。


「サクラクッキーには、サクラパウダーを練り込んでいるの。試行錯誤して、サクラ茶と合うように作ったわ」

「ザラさん、最高です!」


 サクラ茶はほんのり甘くて香ばしい。サクラクッキーは塩がまぶしてあり、甘じょっぱくておいしい。サクラ茶とサクラクッキーの相性は抜群だった。


「ザラさん、もしかして、ルードティンク隊長が食べられるように、塩をまぶしたのですか?」

「ええ、そうよ」


 甘い物が苦手なルードティンク隊長はサクラクッキーを遠慮していたようだが、空気を読んで一枚食べていた。


「まあ、食べられなくもない」

「ふふ、ありがとう」


 ルードティンク隊長の最大の賛辞なのだろう。ザラさんは嬉しそうだった。


「甘い物を食ったら、しょっぱいものが食いたくなった。食事にするぞ!」


 そう言ってルードティンク隊長が取りだしたバスケットには、魚の串焼きが入っていた。


「昨晩、夜釣りで釣ったものだ」

「夜釣りに行っていたから、馬車で爆睡していたんですね!」

「ああ。夜明けまで釣っていたからな」


 続いて、ガルさんが布に包んで背負っていた物を広げる。

 それは、生ハムの原木だった。

 慣れた様子で生ハムをカットしてくれる。


「次は俺ですね!」


 ウルガスが紙袋から取り出したのは、チーズとオイル漬けにしたトマト、クラッカーである。


「ガルさんと話し合って、生ハムに合いそうな食材を用意しました!」


 そういう手もあったか、と思わず膝を打ってしまった。


「次は私だな」


 ベルリー副隊長が取りだしたのは、鶏の丸焼きだった。


「あら、アンナ。今日は激辛料理じゃないのね」

「あれは個人的に楽しむものだからな」


 ベルリー副隊長は私達がおいしく食べられる料理を選んでくれたらしい。優しさの塊である。


「わたくしは、昨晩から料理長にお願いしていた料理よ」


 リーゼロッテが合図を出すと、どこからともなく現れたメイドさん達が鍋を運んでくる。

 中に入っていたのは、具だくさんのトマトスープだった。


「サクラ園は少し肌寒いと聞いていたから、体が温まればと思いまして」


 寒がりなウルガスが感激していた。

 出すタイミングを逃し、私が最後になってしまった。


「えーっと、私はお弁当を作ってきました」


 バスケットの中身を見せると、皆「おお!」と言って喜んでくれた。


「さすがメルちゃんだわ。とってもおいしそう!」

「いただきましょう」

「はい!」


 食前の祈りを捧げ、いただきます。

 アメリアにも干した果物を与える。うれしそうに食べていた。

 私は自分の分よりも先に、アルブムの分を取り分けてあげる。


「アルブム、何を食べたいですか?」

『全部!!』


 嫌いな物はないようで何よりである。

 お皿の上は山盛りになった。アルブムは嬉しそうに受け取り、尻尾を振りながら食べていた。


 続いて私の分を――と思ったが、ザラさんが取り分けてくれたようだ。


「メルちゃん、どうぞ」

「わあ、ありがとうございます!」


 手際がいいザラさんは、二人分の料理を取り分けてくれたようだ。

 美しい盛り付けに、うっとりしてしまう。

 さっそくいただこう。

 ルードティンク隊長の魚の串焼きは、身がふっくらで、ほどよい塩加減なのが最高だ。

 ウルガスが用意したクラッカーにチーズとトマトを載せ、ガルさんが切ってくれた生ハムを添える。優雅な気分になりながらいただいた。

 ベルリー副隊長の鶏の丸焼きも、皮がパリッと焼かれていて、最高においしい。

 冷えた体はスープが温めてくれた。

 私とアルブムで作ったお弁当も好評だった。


「メルちゃん、このフリッター、とってもおいしいわ。あとでレシピを教えて」

「もちろんです」


 アルブムはうっとりした表情で生ハムの原木を見つめていたが、食べすぎたら太ると忠告しておく。


 サクラは綺麗だし、料理はおいしいし、最高の休日だった。

◇お知らせ◇

新連載『血塗れの吸血鬼一族(※誤解)の嫁き遅れ公女、残虐な串刺し公に嫁入りする』が始まりました!

ルーマニアをモデルにした、恋愛ファンタジーです。

お楽しみいただけら幸いです!

https://ncode.syosetu.com/n2148iq/


挿絵(By みてみん)

エノク第二部隊のはらぺこ遠征ごはん⑥も発売中です!

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ