お花見に行こう!・後編
爆睡するルードティンク隊長を温かい目で見守っているうちに、サクラ園に到着した。
すでに、たくさんの馬車が停まっていて、駐車場は混雑している。
ルードティンク隊長はガルさんに優しく起こされていた。
サクラなんて興味がない、みたいなことを言っていたリーゼロッテだったが、いざ、到着すると瞳をキラキラ輝かせていた。
「サクラって、どんなお花なのかしら?」
「楽しみですよね」
アメリアも到着し、下り立つ。
アルブムはすぐに外に出て、深呼吸していた。
馬車から降りると、目の前に薄紅色の花を咲かせる木々が迎えてくれた。
「うわ……!」
言葉を失ってしまうくらい綺麗なサクラを前に、しばしその場から動けなくなってしまう。
「あれは見事だ」
ルードティンク隊長でさえも、サクラを絶賛していた。
ベルリー副隊長も頷きながら言葉を返す。
「あのように木に花がいっぱい咲いている様子は、初めて見た」
たしかに、木に花だけが咲いているというのはかなり珍しい。
アーモンドの木も春先には花を咲かせるが、それよりも花の密度が高い。
ウルガスは口をぽかんと開きながら、感想を口にする。
「なんだか、夢の中にいるみたいですねえ」
「ええ、本当に」
ザラさんが長い腕を伸ばす。何か落ちてきたのか、拳を握っていた。
「メルちゃん、見て。サクラの花びらよ」
「わあ、綺麗です!」
サクラは一枚一枚花が散るようだ。花びら一枚でさえも、サクラは愛らしい。
公園の中に進んでいくと、見渡す限りのサクラが広がっていた。
貴族達は机と椅子を持ち込んで、サクラを楽しんでいるようだ。
私達は湖のほとりにピクニックシートを広げ、しばし景色を楽しむ。
ザラさんが紅茶を淹れてくれた。
「これ、サクラ茶って呼ばれている紅茶なの。薄紅色で、かわいいでしょう?」
「ええ、綺麗な色ですね」
ザラさんはサクラ茶と、それに合わせる薄紅色のサクラクッキーを焼いてきてくれたようだ。
「サクラクッキーには、サクラパウダーを練り込んでいるの。試行錯誤して、サクラ茶と合うように作ったわ」
「ザラさん、最高です!」
サクラ茶はほんのり甘くて香ばしい。サクラクッキーは塩がまぶしてあり、甘じょっぱくておいしい。サクラ茶とサクラクッキーの相性は抜群だった。
「ザラさん、もしかして、ルードティンク隊長が食べられるように、塩をまぶしたのですか?」
「ええ、そうよ」
甘い物が苦手なルードティンク隊長はサクラクッキーを遠慮していたようだが、空気を読んで一枚食べていた。
「まあ、食べられなくもない」
「ふふ、ありがとう」
ルードティンク隊長の最大の賛辞なのだろう。ザラさんは嬉しそうだった。
「甘い物を食ったら、しょっぱいものが食いたくなった。食事にするぞ!」
そう言ってルードティンク隊長が取りだしたバスケットには、魚の串焼きが入っていた。
「昨晩、夜釣りで釣ったものだ」
「夜釣りに行っていたから、馬車で爆睡していたんですね!」
「ああ。夜明けまで釣っていたからな」
続いて、ガルさんが布に包んで背負っていた物を広げる。
それは、生ハムの原木だった。
慣れた様子で生ハムをカットしてくれる。
「次は俺ですね!」
ウルガスが紙袋から取り出したのは、チーズとオイル漬けにしたトマト、クラッカーである。
「ガルさんと話し合って、生ハムに合いそうな食材を用意しました!」
そういう手もあったか、と思わず膝を打ってしまった。
「次は私だな」
ベルリー副隊長が取りだしたのは、鶏の丸焼きだった。
「あら、アンナ。今日は激辛料理じゃないのね」
「あれは個人的に楽しむものだからな」
ベルリー副隊長は私達がおいしく食べられる料理を選んでくれたらしい。優しさの塊である。
「わたくしは、昨晩から料理長にお願いしていた料理よ」
リーゼロッテが合図を出すと、どこからともなく現れたメイドさん達が鍋を運んでくる。
中に入っていたのは、具だくさんのトマトスープだった。
「サクラ園は少し肌寒いと聞いていたから、体が温まればと思いまして」
寒がりなウルガスが感激していた。
出すタイミングを逃し、私が最後になってしまった。
「えーっと、私はお弁当を作ってきました」
バスケットの中身を見せると、皆「おお!」と言って喜んでくれた。
「さすがメルちゃんだわ。とってもおいしそう!」
「いただきましょう」
「はい!」
食前の祈りを捧げ、いただきます。
アメリアにも干した果物を与える。うれしそうに食べていた。
私は自分の分よりも先に、アルブムの分を取り分けてあげる。
「アルブム、何を食べたいですか?」
『全部!!』
嫌いな物はないようで何よりである。
お皿の上は山盛りになった。アルブムは嬉しそうに受け取り、尻尾を振りながら食べていた。
続いて私の分を――と思ったが、ザラさんが取り分けてくれたようだ。
「メルちゃん、どうぞ」
「わあ、ありがとうございます!」
手際がいいザラさんは、二人分の料理を取り分けてくれたようだ。
美しい盛り付けに、うっとりしてしまう。
さっそくいただこう。
ルードティンク隊長の魚の串焼きは、身がふっくらで、ほどよい塩加減なのが最高だ。
ウルガスが用意したクラッカーにチーズとトマトを載せ、ガルさんが切ってくれた生ハムを添える。優雅な気分になりながらいただいた。
ベルリー副隊長の鶏の丸焼きも、皮がパリッと焼かれていて、最高においしい。
冷えた体はスープが温めてくれた。
私とアルブムで作ったお弁当も好評だった。
「メルちゃん、このフリッター、とってもおいしいわ。あとでレシピを教えて」
「もちろんです」
アルブムはうっとりした表情で生ハムの原木を見つめていたが、食べすぎたら太ると忠告しておく。
サクラは綺麗だし、料理はおいしいし、最高の休日だった。




