お花見に行こう!・前編
雪が解け、豊かな緑が芽吹き、草木は美しい花を咲かせる。
今年も春が訪れた。
何をするというわけではないが、どうしてか春はわくわくする。
なんて話をしていたら、ザラさんが思いがけない提案をした。
「だったら、今年は第二部隊のみんなでお花見にいかない?」
「お花見、ですか?」
「ええ、そうよ」
なんでもそれは、異世界の勇者よりもたらされた春の風物詩だという。
「王都の郊外に、〝サクラ園〟と呼ばれる場所があるの。そこにはサクラっていう、異世界の勇者が品種改良で作った美しいお花があるのよ」
「へー、そうなんですね!」
薄紅色の美しい花を咲かせるサクラは、王侯貴族に愛されているらしい。
「異世界の勇者はサクラは皆のものだって主張してくれたらしいの。そのおかげで、サクラ園は誰でも無償で楽しむことができるのよ」
「さすが、勇者様ですね」
「そうなのよ」
ただ、お花見というのは暮らしに余裕がある人々の娯楽だという。
そのため一般に浸透しておらず、今も王族や貴族が愛する花、と呼ばれているのだろう。
「サクラ園は王都からどのくらい離れているのですか?」
「馬車で一時間くらいかしら? 往復する馬車は出ていないから、クロウかリーゼロッテにお願いして、馬車を手配してもらいましょう」
サクラが有名にならない理由を察する。
普通の人達は馬車を借りてまで、サクラを見に行かないのだろう。
せっかく無料開放されているのに、もったいないと思ってしまう。
「当日は各々、好きな物を持ち寄ってお花見をしましょう」
「いいですね!」
そんなわけで、皆でサクラ園へ行くこととなった。
◇◇◇
お花見当日、私は台所に立ち、お弁当作りを始める。
『パンケーキノ娘ェ、何ヲ、作ッテイルノ!?』
食いしん坊アルブムが、早朝にもかかわらずやってくる。
「今日のお花見に持っていくお弁当ですよ」
『ヤッター! アルブムチャンモ、手伝ウ!』
アルブムも賢くなったもので、お手伝いをすれば味見ができると気づいてしまったのだ。
けっこう役に立つので、手を貸してもらおう。
「じゃあアルブム、小麦粉と牛乳を持ってきてくれますか?」
『ワカッター!』
その間に、白身魚を切り分け、塩コショウで下味を付ける。
『コレデイイ?』
「ええ」
『次は?』
「ボウルを二個、持ってきてください」
『ハーイ』
まずは卵を白身と黄身に分け、白身に塩をパラパラと加えて固くなるまで泡立てる。
別のボウルに小麦粉と黄身、牛乳を入れて混ぜたものに、泡立てた白身を入れて合わせる。
この生地に魚を潜らせて揚げたら、魚のフリッターの完成だ。
「アルブム、一個だけ味見してもいいですよ」
『イイノ? アリガトウ!』
揚げたてあつあつのフリッターを、アルブムは頬張る。
『ハフ! ハフハフハフ!』
熱いから冷ましてから食べるように、と言う前にアルブムは口に入れてしまった。
涙目になっていたものの、おいしかったのか、瞳がキラキラ輝く。
『衣がサクサク、フワフワ! 魚モ、オイシーーー!!』
お口に合ったようで何よりである。
ただ、お弁当作りは終わりではない。
「アルブム、まだまだ作りますよ!」
『ガンバル!』
他に、ウインナーオムレツや肉団子、ニンジンラペ、サンドイッチなどを作ってバスケットに詰め込んだ。
時間になったので、アメリアの背に乗って出かける。
アメリアはバスケットを運んでくれるらしい。鞍に乗せ、固定しておく。
アルブムも革袋に詰めて、鞍に吊しておいた。
集合場所である馬車乗り場には、リーゼロッテ以外の面々が待っていた。
「お待たせしましたー!」
遅れたかと思いきや、大丈夫だとベルリー副隊長が言ってくれた。
「リスリス衛生兵、時間通りだ」
「よかったです」
ガルさんの肩にいたスラちゃんが、朝の挨拶をしてくれる。
おめかしなのか、リボンを乗せているのが可愛かった。
皆、それぞれ食べ物を持ち込んだようで、バスケットやら紙袋やらを持ってきている。
何を持ってきたのか、楽しみである。
五分と経たずに、馬車がやってきた。リーゼロッテが手配してくれた馬車である。
馬車に乗り込み、目的地を目指す。アメリアは馬車の上を飛んで、ついてきてくれるようだ。
「リーゼロッテはサクラ園にいったことがあるのですか?」
「いいえ、ないわ。貴族の集まりには、わたくしやお父様は興味がないから」
なんでも毎年、サクラ園では大規模なお花見が開催されているらしい。
幻獣大好き親子は、それらの催しには行かず、幻獣の赤ちゃんを愛でていたようだ。
「春は出産のシーズンですもんね」
「ええ、そうなのよ」
三日前にも、愛らしいユニコーンの仔が生まれたらしい。
「お父様ったら、ユニコーン舎の前で寝泊まりしているのよ」
「さ、さすが、幻獣保護局の局長です」
なんというか、いつもいつでも行動がブレない。
皆で楽しく会話していたのだが、ルードティンク隊長は爆睡していた。
「普段、馬車の中で眠らないのに珍しいですね」
今日は休日で、遠征任務ではないので、眠っているのだろう。
そんなルードティンク隊長を見て、ウルガスがぽつりと零す。
「なんだか、お休みの日のお父さんみたいです」
ウルガスの言葉に、噴きだしそうになる。
笑ったら起きてしまうので、なんとか堪えた。
(後半に続く!)




