思い出は写真とともに
気持ちがいいくらい晴れた朝――ガルさんが淹れてくれた紅茶を、ザラさん以外のメンバーで飲む。
その味は、お店レベルだ。
おいしい紅茶をさんざん飲んでいたリーゼロッテでさえ、絶賛していた。
「紅茶に合う茶菓子を作ってくればよかったです」
なんて悔しがっていたら、ルードティンク隊長から「ここは喫茶店じゃないんだよ」と言われてしまう。
「それにしても、ザラは遅いな」
ベルリー副隊長がぽつりと呟くと、扉が勢いよく開かれる。ザラさんが上機嫌な様子でやってきた。
「じゃーん! みんな、見て。私が新人騎士時代の写真帳を発見したの!」
写真帳とはいったい? と首を傾げる。
「あら、メルちゃんは写真を知らないのね」
「はい、初耳です」
写真というのは、魔石を動力源に動く記録媒体らしい。
「写真機っていうのを使って、景色や人物を記録したものを、写真に印刷できる魔技巧品よ。一瞬でできる、精緻な肖像画みたいなものって言えばわかりやすいかしら」
「な、なるほど~!」
当時の騎士隊エノクでは、写真機で隊員達の記録を付けていたらしい。
「数年で、廃止になってしまったのよねえ」
「扱いが難しかったのですか?」
「いいえ。操作はとっても簡単よ」
なぜ廃止になったのか。それは驚くべきことだった。
「メルちゃん、見て。これが写真なの」
「す、すごい! こんなにきれいに撮れるのですね!」
写真というものを初めて見たのだが、信じられないくらい写実的だ。
「本人をそのまま枠の中に閉じ込めたのかと思うくらい精巧に写るんですね」
「そうなの。だから、写真に写ったら魂まで抜かれているのではないか、って騒ぎになったのよねえ」
「その気持ち、わかる気がします」
写真を撮ると魂を抜かれるという噂が広がった結果、記録をまともに取れないだろうと判断され、廃止となったらしい。
「この写真帳は私が仕事を休むとき、同僚が餞別としてくれたのよ。まあ、不気味だったから、押しつけたんだと思うけれど」
入隊して一、二年のザラさんを見せてもらった。
「わーー、美人! 今もザラさんはおきれいですが、このときは儚さもあったのですね」
「そうなのよねえ。鍛えたら、儚さなんて消えてなくなってしまったわ」
「今のザラさんもすてきですよ」
「あら、そう?」
写真帳にはザラさんだけでなく、入隊したてのルードティンク隊長も写っていると言う。
自分は無関係だと思って傍観していたルードティンク隊長が、慌てた様子で抗議する。
「おい、ザラ、止めろ!」
ウルガスは若かりしころのルードティンク隊長が気になるようで、前のめりで写真帳を覗き込む。
「十代のルードティンク隊長はどんな感じなんですか? 荒れていたのか、それともかっこつけて制服を着崩していたのか――」
ガルさんがルードティンク隊長を取り押さえている間に、みんなで確認する。
写真に写っていたのは、線が細く真面目そうな好青年だった。
「これが若かりし頃のクロウよ」
「えーーーーーー!!!!」
ウルガスと一緒に声をあげてしまう。
この貴族然とした好青年が、数年で山賊になるなんて信じられない。
思わず、素直な感想を口にしてしまった。
「ルードティンク隊長はその昔、貴族だったのですね」
「今も貴族だよ!!」
ルードティンク隊長の突っ込みに、みんなで笑ってしまったのは言うまでもない。




