鳥に思いを馳せる任務
物語の序盤らへんの、遠征任務エピソードです。
今日も今日とて、第二部隊は遠征任務を命じられる。
今回は山に行き、密猟者を捕まる、という任務だった。
なんでもこの山では、絶滅寸前の〝ヤキトリ〟という名の鳥が生息しているらしい。
ヤキトリは肉が信じがたいほどやわらかく、ジューシー、臭みなどないことから、ジビエとして人気を博していたという。
貴族の間でも流行ったことから、乱獲が繰り返され、絶滅寸前にまでなっているようだ。
国が捕獲を禁止しているのに、捕まえて高価で売り払う不届き者がいたという。
先頭を歩くルードティンク隊長が、ぶつくさ文句を言う。
「ったくよー、夜間にこっそり忍び込んで密猟するなんて、迷惑な奴め! おかげで、久しぶりの夜任務をするはめになった」
ルードティンク隊長に、ザラさんが注意する。
「クロウ、しーー!!」
「しーって、ガキに注意するんじゃないんだから」
「あなたなんて、子どもみたいなものよ」
「なんだと!?」
ルードティンク隊長は三十代半ばくらいの見た目をしているが、実際は二十歳の年若い青年である。ぜんぜん見えないが、実はザラさんのほうが年上なのだ。
「ちょっとはガルを見習いなさいよ」
「あいつはいつも寡黙だろうが」
話を振られたガルさんの耳が、ピンと立つ。
急に自分の話題になったので、驚いたのだろう。
「隊長、あまり喋ると、密猟者に気づかれてしまうかもしれません」
「まあ、そうだな」
ベルリー副隊長は、一発でルードティンク隊長を黙らせる。さすが、付き合いが長いだけあった。
私の隣を歩いていたウルガスが、ひそひそ声で話しかけてきた。
「リスリス衛生兵、夜の山って、暗くて怖くないですか?」
「そうですか?」
早朝の森は山よりも暗い。一方で、山は森よりも高い位置にあるからか、月明かりに照らされていて、そこまで怖くないと感じてしまう。
「もしかしたら、ウルガスよりも夜目が効くのかもしれません」
「う、羨ましいです」
気配を消し、歩くこと一時間。
よく、密猟者達が用地として利用している場所に到着する。
ここで密猟者達を待ち伏せし、拘束するというわけだ。
静かな森の中で、ルードティンク隊長の「腹減った」という呟きが聞こえた。
「このままでは、腹が鳴ってしまうかもしれん」
山に入る前に、きちんと夕食を食べてきたのだが。
仕方がないと思い、非常食として持ち歩いていたサラミをルードティンク隊長に手渡す。
「おお、いいもん持っているじゃないか」
もぐもぐと食べたあと、ルードティンク隊長は「酒が飲みたくなってきた」と呟く。
ザラさんが暗闇の中から猛烈に睨んだので、ルードティンク隊長はそれ以上何も言わなかった。
息をひそめること一時間ほど。ガルさんが反応を示す。喋り声が聞こえたらしい。
私も耳を澄ませてみたところ、足音が聞こえた。
確実に、ここに近付く者達がいるようだ。
「今日も大猟だったな」
「ここ、本当にヤキトリの穴場だよなあ」
楽しげな会話が聞こえる。
確実に、ヤキトリの密猟者なのだろう。
ルードティンク隊長が目配せする。
まずは、ルードティンク隊長が先陣を切って出て行き、そのあとにガルさん、ベルリー副隊長、ザラさんがあとに続く。
私とウルガスは、ここで待機である。いつもの作戦だ。
ルードティンク隊長が無言で指折り数え、飛び出して行った。
「ごらぁ、覚悟しろ!!」
「ひいいいい!!」
「山賊だー!!」
なんというか、同情してしまう。
夜、暗い中で、見ず知らずの大男が飛び出してきたら、確実に山賊だと思うだろう。
しかしながら、安心してほしい。
ルードティンク隊長は立派な騎士様なのだ。
「ヤキトリ、ヤキトリはすべてお渡ししますから!」
「どうかお助けを!」
密猟者達は抵抗することなく、捕獲された。
なんと彼らは余所の国からやってきた人達で、仕事がないので、ヤキトリを獲って貴族達に売っていたらしい。
芋ずる式にヤキトリを購入していた貴族達も、拘束されたという。
連行は現地の騎士達に任せ、私達には帰還命令が下った。
意外と早く終わったので、宿に一泊して帰る。
「その前に、鳥料理食いに行くぞ!!」
ヤキトリ任務の話を聞いてからというもの、鳥料理が食べたくて仕方がなかったのだ。
山に入る前は肉料理の匂いが服に染み付いたら、任務に支障が出るとのことで、食べられなかったのである。
他の隊員達も、鳥料理が食べたくなっていたのだろう。
揃って食堂に向かう。
「おかみ、鳥の丸焼きを六つくれ!」
「あいよ!」
ひとりにひとつ丸焼き?
思わず、ウルガスと顔を見合わせる。
私達〝そこまで食べない組〟は、全部食べきれるのか不安になってしまった。
「メルちゃん、ジュン、大丈夫よ。もしも食べきれなかったら、私とガルで食べるから」
「ザラさん!」
「さすが、アートさんです。一生ついていきます!」
そんなわけで、生まれて初めて、鳥の丸焼きをひとりで食べる。
どん! と鳥の丸焼きが六つも運ばれ、テーブルに並べられた。
なんというか、壮観である。
まずは、手羽先からナイフを入れてみた。
肉汁がジュワーッと溢れていく。
手羽先は手で掴んで、そのままかぶりつく。
皮はパリパリに焼かれていて、表面には香辛料がたっぷり振ってあり、しょっぱさがちょうどいい。
これぞ、食べたかった鳥肉料理だ! という感じだった。
どんどん食べ進んでいく。
ルードティンク隊長はそのままかじりつく、という豪快な食べ方だった。そんなんだから、山賊と間違われるのだ。
ベルリー副隊長はナイフを使って少しずつ肉を削ぎ、丁寧に食べている。
ガルさんは器用にちぎって、パクパクおいしそうに食べ進めていた。
ザラさんは部位ごとに切り分け、美しい所作で召し上がっている。
ウルガスはどういうふうに食べたらいいのかわからないのか、ナイフを泳がせていた。
私は丸焼きを切り分けるのは慣れているので、食べやすい部分からとんどん攻略していく。
三分の一ほど食べたら、お腹いっぱいになってしまった。
ウルガスも同様に、満腹になってしまう。
残りはザラさんとガルさんが食べてくれた。
お腹が満たされると、だんだん眠くなってくる。
「今日の夢に、ヤキトリが出てきそうだわ」
「ですねえ」
ザラさんの言葉に、深々と頷いてしまった。
鳥の丸焼き以上においしい鳥肉なんて、想像できない。
一生ヤキトリが口に入る機械なんてないだろう。
とにかく、任務が無事、遂行できてよかったと思った日の話である。




