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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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とにかく水を飲め!

メルが衛生兵だったときのお話です。

 もっとも辛い任務――それは真夏の遠征ではないだろうか。

 ただその場に立っているだけで滝のような汗を掻き、うだるような暑さに体が悲鳴をあげる。

 私は非戦闘員の衛生兵なのでまだマシだが、戦闘員である第二部隊の面々は大変だ。


「もー、最悪!」


 いつも涼しい表情でいるザラさんも、夏の暑さにやられているらしい。


「こうも暑いと、化粧が崩れてしまうわ!」

「見た目ではぜんぜんわかりませんよ」

「あらそう?」


 なんでも、夏は特別な方法で化粧を施しているらしい。


「最初に白粉を塗って、そのあと水を含ませた海綿で肌をぽんぽん叩きながら塗っていくの。仕上げにパウダーをブラシで丁寧に広げたら、暑さに強い顔面になるのよ」

「ザラさん、さすがです」


 そこまで対策をしていても、化粧は暑さに負けて溶けていくらしい。

 汗をだらだら掻いていると言っていたようだが、ぜんぜんそういうふうには見えなかった。こういう場で涼しげな様子でいられるザラさんを、羨ましくなってしまった。


 第二部隊の中でもっとも汗っかきなのはウルガスだろう。

 戦闘後は、顔を真っ赤にしながら、暑そうにしている。


「ウルガス、戦闘後は水分を必ず取ってくださいね。喉が渇いていなくても、飲むのですよ」

「了解しましたー」


 水分はただその場に立っているだけでも失われていく。なんでもただ息をしただけでも、体内の水分は奪われていくらしい。

 ただでさえ水分が必要なのに、戦闘で汗を掻いてしまったら、瞬く間に体内の水分が欠乏してしまうだろう。


「ルードティンク隊長は、うん! きちんと水分を取っていますね」

「当たり前だろうが」


 第二部隊でもっとも体が大きく、戦闘では体を動かすルードティンク隊長であるが、毎回しっかり水をごくごく飲んでいた。

 小まめな水分補給なんて面倒だ! なんて発言をしそうな雰囲気をしているものの、その辺はしっかりしているようだ。


 リーゼロッテは最初、携帯している水を飲めなかった。

 普段から紅茶や白湯ばかり飲んでいたため、持ち歩いている水に抵抗があったようだ。

 水は革袋に入れているので、若干革臭いのも飲めない原因のひとつだろう。

 しかしながら、今は以前よりも飲めるようになった。


「メル! わたくしはしっかり水分補給しているわ!」

「リーゼロッテ、偉いです!」


 革袋に入れた水を飲んだリーゼロッテは、涙目だった。きっと我慢しながら飲んでいるのだろう。

 本来ならば遠征なんてしなくていい身分なのに、リーゼロッテは幻獣のため、国民の平和のため、騎士として頑張っている。

 拍手をして、その勇気を労った。


 ベルリー副隊長はさすがと言うべきか。水分補給の頻度や量など完璧だった。

 あまり汗を掻かないタイプらしく、過去に倒れたことがあったらしい。それ以降、気を付けているようだ。


「リスリス衛生兵も、しっかり水を飲むように」

「はい! ありがとうございます」


 第二部隊の中での例外といえば、ガルさんだろう。

 獣人なので、人と同じように汗腺があるわけではない。

 舌を出して呼吸で体温を調節しているのだという。

 ただ、手のひらと足の裏には人と同じように汗腺があるため、汗を掻くようだ。


「ガルさん、辛かったら言ってくださいね!」


 ガルさんは大丈夫だと言いながら、スラちゃんを見せてくれた。

 触れてみると、ひんやり冷たい。


「え、すごい!! スラちゃん、冷たくなれるんですね」


 スラちゃんはにゅっと触手を伸ばし、ぐっと親指を立てるポーズを作った。

 ガルさんはスラちゃんが冷やしてくれるので、他の隊員よりも辛くないようだ。


 私は暑がりなほうなので、羨ましくなってしまう。

 やはり、一人につき、いちスラちゃんが必要だ。彼女みたいに有能なスライムはそうそういないだろうが。


 アメリアは暑さに強いようで、私達がバテていたら、翼で風を起こしてくれる。


「うう、アメリア、ありがとうございます」

『クエ~~』


 一方で、アルブムは暑さが苦手なようだ。


『アルブムチャンヲ、湖二、放シテ、クダサイ……』

「いいが、そのまま置いていくぞ」

『ソ、ソンナーー!!』


 アルブムはルードティンク隊長の背中に張り付き、置いていかないでくれと訴えていた。


 休憩時間に、薄荷草を使ったドリンクを作る。

 作り方は簡単だ。茶葉と一緒にその辺で摘んだ薄荷草と砂糖を混ぜて淹れるだけ。

 飲みやすいように、スラちゃんにドリンクを冷やしてもらった。


 ウルガスは瞳を輝かせながら飲んでいる。


「リスリス衛生兵、これ、飲みやすくておいしいです」

「よかった。たくさん飲んでくださいね」


 薄荷草には体温を下げる効果があり、香りは気分を爽快にしてくれる。

 暑い日にぴったりな飲み物なのだ。


 ザラさんも気に入ってくれたようで、絶賛してくれた。


「薄荷草って、こんなにいい匂いがするのね。気分がスッキリするわ」

「薄荷草の匂い、私、大好きなんです」

「私も大好きになったわ」


 ザラさんと微笑み合いながら、ドリンクを飲み干す。

 リーゼロッテはほっこりした表情を見せていた。


「生き返った気分だわ」

「お口に合ったようで何よりです」


 他の人達もおいしいと言ってくれた。ホッと胸をなで下ろす。

 暑い日はしっかり水分補給しよう。

 みんなで声をかけあって、気を付けるようにしたのだった。

本日より、新連載が始まります。

『引きこもりな弟の代わりに男装して魔法学校へ行ったけれど、犬猿の仲かつライバルである男の婚約者に選ばれてしまった……!』という作品です。

https://ncode.syosetu.com/n0301hr/

弟の代わりに男装して通う魔法学校のライバルが、まさかの婚約者に!?

休日は貴族令嬢、平日は魔法学校の生徒という一人二役ラブファンタジーです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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