ベルリー副隊長の悩み事
珍しく、ベルリー副隊長から「相談がある」という話を持ちかけられる。
後日、我が家へ訪問してきたのだった。
仕事帰りだったようで、制服姿でやってくる。
夕食も一緒にどうかと誘ったので、久しぶりに腕を振るった。
魚料理が好きなベルリー副隊長のために、いくつか作ってみた。
辛めな味付けが好みだと聞いていたので、普段は作らないメニューが並んでいる。
魚介と豆の唐辛子スープ、白身魚のフリッター、ピリ辛ソース和え、揚げパン、口直しのアイスクリームに、デザートは森林檎のパイ。
ザラさんも手伝ってくれたので、味は保証できる。
「おいしそうだ」
「たくさん召し上がってくださいね」
ベルリー副隊長は嬉しそうにスープを飲み、笑顔で「おいしい」と言ってくれた。
「久しぶりだな、リスリス衛生兵の料理は。本当に、ホッと落ち着くような味わいだ」
「お口に合ったようで幸いです」
揚げパンには何も入っていないのだが、ナイフで割ってフリッターを入れるとおいしい。その食べ方を伝授すると、ベルリー副隊長は感心しきっていた。
「やはり、リスリス衛生兵の着想は素晴らしいな」
「いえいえ」
相談も、それに絡めたものらしい。
「実は、騎士隊のバザーの出店を任されてしまって……」
お菓子やパンなど、限られた予算で作った品を出品しなければならないらしい。
考えても考えても、いい着想が浮かばなかったようだ。
「バザーは子どもたちの楽しみとして開催されるもので、子どもたちが好むような、安価でできる品を大量に用意しなければならない。そうなると、お手上げ状態となってしまったのだ」
「なるほど。そうだったのですね」
一応、ベルリー副隊長も企画を出したらしい。けれども、ルードティンク隊長が却下したようだ。
ここでザラさんが質問を投げかける。
「アンナ、いったい何を提出したの?」
「揚げた芋だ」
「あら、いいじゃない。子どもたちも大好きだし」
「しかし、試作品がよくなかったらしくて」
見た目はほぼほぼ丸焦げなのに、中身は火が通っていなかったらしい。
「それは、子どもたちに食べさせられないわね」
「ああ」
何か簡単で、子どもたちが好むような料理はないのか。もちろん、ベルリー副隊長が作れるもので。
「忙しいところ、面倒な問題を持ち込んでしまい、申し訳ない」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
バザーとか、お祭りの屋台とか、考えるだけでもワクワクしてしまう。
子どもが好きそうな食べ物についての着想は、すぐに浮かんだ。
「マシュマロクッキーとかどうですか?」
「マシュマロクッキー、か? 何やら難しそうに思えるのだが」
「驚くほど簡単ですよ。今から作りますか?」
「いいのか?」
「ええ」
ベルリー副隊長の腕を引き、厨房へと誘う。
「マシュマロクッキー作り、ベルリー副隊長も手伝ってくださいね」
「ああ。私に作れたらいいのだが……」
手を洗い、エプロンを装着して、マシュマロクッキー作りに挑む。
まずは買い置きしていたマシュマロを取り出す。
「このマシュマロを、半分に切ります」
「了解した」
カットしたマシュマロを鉄板にどんどん並べていき、温めておいた窯で十五分ほど焼いていく。
「こうして加熱すると、マシュマロがぷっくりと膨らみます」
これに、炒ったナッツ類を載せていく。
「これを、さらに三十分から四十分ほど焼いていきます」
一回目とは異なり、二回目はじっくり加熱する。
「完成です!」
完成したものを食べてみる。甘くて、口溶けは軽くて、おいしい。
ベルリー副隊長は驚いた表情でこちらを見た。
「驚いた。マシュマロがこのように、サクサクとした食感になるのだな」
「少しメレンゲに似ていますよね」
これができたきっかけは、アルブムが焼きマシュマロを大量に食べたいと訴え、窯で一気に焼いたら失敗した、という報告からだった。
表面はサクッ、中はとろーりとした焼きマシュマロとしてなら失敗だが、お手軽なお菓子としてだったら大成功だろう。
そんな考えから生まれたものである。
「これならば、私も作れそうだ。リスリス衛生兵、心から感謝する」
「いえいえ」
ベルリー副隊長はすっかり安堵した表情で帰っていった。
◇◇◇
後日――感謝の手紙が届く。マシュマロクッキーはバザーで大人気となり、あっという間に完売したそうだ。
後日、遠征のおやつとしても作って持って行き、隊員たちにも好評だったらしい。
ベルリー副隊長の悩みが解決できてよかったと、心から思った日の話である。




