ザラのひとりごと
ザラのメルへの恋心について、リクエストをいただいたので書いてみました。
私は一年のほとんどが薄暗く、寒いという雪国から王都にやってきた。
なんで故郷を離れて、王都に行こうと思ったのかはよく覚えていない。
ただ、勇気を振り絞って両親に相談したことはよく覚えている。
両親は反対せず、やりたいことをやるようにと背中を押してくれた。
こうして故郷から旅立った私は、来る者こばまずという騎士隊エノクに入隊する。
雪国で魔物と戦っていた経験が、騎士隊でも活かされたというわけだ。
騎士隊にはさまざまな人がいた。
優しい人、いじわるな人、考えが読めない人、強引な人……。
王都に来たばかりの私は故郷の訛りが残っていて、ずいぶんとバカにされた。
雪国では外で喋るだけで喉を痛め、体の熱量を消費してしまう。そのため、男女問わず寡黙な人がほとんどだ。私も例に漏れずにそうだったのだが、王都ではその口数の少なさが災いして「暗い奴」なんて陰口を囁かれたりもした。
それが悔しくて、一生懸命勉強したし、たくさんの人と話すようにした。
このように過ごす中で、王都ではノリが軽く、お喋りが多ければ多いほど上手くやっていけるのだと理解する。
数年は陽気で楽しげな男を装い、騎士隊でなんとかやってきたものの、ある日限界が訪れた。
騎士隊での付き合いにすっかり疲れてしまった私は、退職届を提出しようとした。けれども当時の上司が受け取らずに、休職扱いにしたのだ。
まあいいと思って、私は騎士隊を去る。
なんとなく故郷に帰る気にもなれずに、私は王都で人気の食堂で働き始めた。
そこでも、基本的には騎士隊と同じ。周囲に合わせて生きてきた。
騎士隊に所属していたときみたいに、命をかけて戦うことはないので、気はいささか楽だった。
けれども、自分の中にある本当の自分がすり切ってなくなっていくように感じて、心の中で悲鳴をあげていたように思える。
さっさと王都に見切りを付けて、故郷に帰ればよかったというのはわかっていた。
わかっていたが、故郷でやりたいと思うことがないのも現実だった。
悩みが尽きない毎日を過ごす私の前に突然現れたのが、メルちゃんだった。
彼女は王都から遠く離れた集落からやってきたフォレ・エルフだった。
エルフというのは、物語の中でしか見たことがない。
芸術品のような美貌を持つ者が多いとされていたが、メルちゃんはどちらかと言えば可愛い系で、エルフらしいというよりは森に棲むリスやウサギみたいだった。
そんなメルちゃんへどのような態度に出ていいのかわからず、私は彼女に抱きついてしまった。
メルちゃんが困っているのがわかっていたのだが、王都にやってきて感覚が狂っていた私は、どうやって他人と接していいのかわからなくなっていたのだ。
ちなみに、あとからアンナにきつく怒られた。
それから何度も謝りたいと思っていたけれど、わざわざ騎士隊まで押しかけるのも迷惑だろうからと、何も行動に起こせなかったのだ。
そのあと奇しくもメルちゃんと再会できて、謝る機会があった。メルちゃんは失礼としか言えない挨拶をしてしまった私を、許してくれた。
なんでもメルちゃんは、抱擁を王都での挨拶だと思っていたらしい。その瞬間、彼女は私と同じ境遇にあったのだと気づいたのだった。
なんてことをしてしまったのかと、恥ずかしい気持ちがこみあげてくる。
私はかつての自分がされて嫌だった行為を、彼女に働いてしまったのだ。
何度謝っても、謝りきれない。
ただ、申し訳ないと思うだけではダメだろう。彼女のことは、私が守る。
そんな強い思いと共に、騎士隊に復帰した。それからというもの、メルちゃんをからかうような輩が現れたら絶対に許さなかったし、下心を持って近づく男がいれば徹底的に妨害していた。
それが功を奏したのか、メルちゃんは私に心を許してくれるようになった。
趣味も好きなものも彼女とはよく似ていて、一緒にいる時間はとても楽しかった。
そんなメルちゃんと、初めて編み物をした日――。
ただただ一言も喋らず、編み物をするだけの時間を、メルちゃんは「とても楽しかったです」と笑顔で言ってくれたのだ。その瞬間、メルちゃんの前では自分を偽らなくてもいいんだと気づいた。
それはどうしようもなく嬉しいことで、胸に熱い気持ちがこみあげてくる。
ごくごく自然に、メルちゃんへの恋心は私の中に生まれ育っていった。
きっとこの恋は一生胸に秘めていくだろうし、叶うわけなんかない。
なんて、思っている日もあった。
気がつけば私の恋心なんてメルちゃん以外にダダ漏れだったし、無意識に接近しまくっていた。
それからなんだかんだとあり、メルちゃんは今も隣にいる。
毎日毎日、これ以上幸せなことはないと思うばかりだった。
これからも、メルちゃんと過ごす平和な日々が続きますように。
そう願うばかりだった。




