ベルリー副隊長の独り言
ある日、人事部から思いがけない仕事が舞い込んでくる。
それは、新しい女性騎士への研修であった。
彼女らは新設された、女性ばかりの騎士隊に配属される。
研修とは名ばかりで、相談に乗ったり、騎士隊でどう立ち回ったりすればいいか教えてやってほしいと言われた。
私はすぐに、その仕事はリスリス衛生兵のほうが適任なのではと思った。
そんなわけで、リスリス衛生兵に仕事を任せに行った。
「え、私が新人騎士への研修をするのですか!?」
「ああ」
「いや、無理ですよ! 私なんて、入隊五年目の、ぺらっぺらの騎士ですし!」
「そんなことはない。よく頑張っている。本当に」
リスリス衛生兵が第二部隊にやってきた日のことは、昨日のことのように覚えている。
彼女がやってくる前の第二部隊は、正直ギスギスしていた。
ルードティンク隊長は毎日不機嫌だったし、ガルは今以上に寡黙だった。ウルガスは萎縮して、周囲の空気を読んでばかりだった気がする。
私自身も、どうふるまっていいのかわからず、空回りしていたように思えた。
そんな状況の第二部隊にやってきたリスリス衛生兵は、曇天に太陽が差し込んだような存在だった。
明るく元気で、第二部隊の空気をあっという間に変えた。
最初こそ、遠慮しているような態度だったように思える。
一生懸命任務について行こうという姿勢は、とても健気だった。
そんな彼女が変わったのは、ルードティンク隊長の失礼な発言がきっかけだったのだろう。
本来ならば副隊長である私が指摘すべきだったのだが、普段から騎士隊で上品でない言葉に毒されていて、それがおかしな物言いだと気づいていなかったのだ。
リスリス衛生兵は毅然とした態度でルードティンク隊長に言い返し、きっちり謝罪させていた。
それからというもの、互いに遠慮せずに、いろいろ言えるようになった気がする。
理解が深まったからか、戦闘でも息が合うようになった。
リスリス衛生兵は戦う私達をすごいと言うが、結果を残せたのは紛れもなく、支えてくれる彼女のおかげだろう。
何度か伝えているが、リスリス衛生兵は自らのすごさにまったく気づいていない。
今日も、研修を任せたら「とんでもない!」と言って辞退しようとしている。
私よりも彼女のほうが、騎士隊で上手くやっていくためのコツを知っているだろう。
新しく騎士となる女性達の不安を、取り除いてやることもできる。
リスリス衛生兵以上の適任者はいないのだ。
昼休み、ザラがやってきたので一緒に説得した。
すると、引き受けてくれるという。
「おふたりがそこまで言うのならば、頑張ります!」
ホッと胸をなで下ろしたのは言うまでもない。
私も、リスリス衛生兵のように柔軟で、寛大で、明るい人間になりたい。
人生、まだまだ修業が必要だと、思った日の話であった。




