ハロウィンパーティーをしよう!
※時系列は本編の中盤くらいです
異世界より召喚された勇者は、世界にさまざまな文化をもたらした。
複雑な香辛料を配合して作られた〝カレーライス〟
魔石を動力として動く〝魔石列車〟
異世界の勇者が夢中になるという〝すろーらいふ〟
などなど。
その中でも、妙な盛り上がりを見せる催しがある。
それは〝ハロウィン〟と呼ばれるもの。
詳しいいわれは勇者自身もわからないらしいが――ハロウィンというのは当日にさまざまな仮装をして、「お菓子をくれなければいたずらするぞ~!」と脅し、お菓子をいただくというものらしい。
私も王都にきたときに初めて、その催しを知った。
一年目はすでに終わったあとだったが、二年目はハロウィンをしたい。
一応、隊の休憩室などは申請すればパーティーを開くことを許されているのだ。
さっそく、事務局に走って許可を取る。お酒は飲まないという約束で、あっさり許可が下りた。
そんなわけで、第二部隊の面々を誘ってみる。
「ハロウィン? そういえば、したことはないわね」
ザラさんは乗り気だった。凝った仮装をしそうである。
「俺、子どものときにしたとき以来です。楽しそうですね!」
ウルガスも参加してくれるという。
「私は初めてだ。たまには、こういうことをしてみるのもいいだろう」
ベルリー副隊長は私と同じく初挑戦だという。参加してくれるとのことで楽しみだ。
ガルさんとスラちゃんも、快く参加してくれるという。
『エ、オ菓子ガ貰エルノ? アルブムチャンモ、参加スル!!』
アルブムは当然の参加だった。
アメリアも「仕方がないな~」みたいな反応で、参加を了承してくれた。
「リーゼロッテはどうします?」
「まあ、メルがどうしてもと言うのならば」
「どうしてもリーゼロッテに参加してほしいです」
「仕方がないわね」
最後はルードティンク隊長に参加の有無を聞いてみる。
「隊長はどうします?」
「隊の休憩室を使うのならば、隊長たる俺が監督をしないといけないからな」
「では、隊長も参加してくれるのですね?」
「しかたがないな」
「ありがとうございます!」
そんなわけで、一ヶ月後にハロウィンのパーティーをすることに決まった。
さあ、頑張るぞ! と気合いを入れていたのだが、ザラさんよりある提案を受けた。
「メルちゃん、パーティーの料理はレストランに頼みましょう。参加費は全員から集める形にして。仮装とお菓子の準備があるのに、パーティーの食事まで用意するのは大変よ」
「言われてみればそうですね」
「でしょう? 私が参加費を集めて、いい感じの料理を注文しておくから」
「じゃあ、よろしくお願いします」
ザラさんに任せていたら、安心だろう。深々と頭を下げ、お願いしておいた。
◇◇◇
一ヶ月の間に、仮装を用意しなければならない。
自分の分だけでなく、アルブムとアメリアの分が必要だ。
「アルブム、何かやりたい仮装はありますか?」
『ウーン、アルブムチャンハネエ、肉饅頭ノ仮装ヲスルヨオ』
そう言って、アルブムはきれいな丸になった。たしかに肉饅頭にしか見えないが、それでいいのか。
「アメリアはどうします」
『クエクエクエ』
アメリアは「わたあめで」なんて言って丸くなった。たしかに巨大なわたあめっぽい。
ハロウィンの仮装は、悪魔や魔物になって相手を脅かさないといけないのに、食べ物の仮装をするなんて。しかも、素材の味(?)を活かしている感じの仮装だ。
私に気を遣ってくれているのか。
しかし、せっかくのハロウィンパーティーなので、何か仮装をしてほしい。
『ソウイエバ、パンケーキノ娘ハ、ナンニ仮装スルノ?』
「私は赤ずきんの娘の仮装でもしようかなと」
『フーン、ヨクワカラナイケレド、イインジャナイ』
「また、適当なことを」
赤ずきんの娘というのは、異国より伝わった童話である。
お祖母ちゃん想いの娘が、母親が作った赤い頭巾を被り、白いパンを持ってお見舞いに行く。しかしながら、お祖母ちゃんの家でとんでもない事件が起きていた。巨大な狼に襲われていたのだ。
狼は孫娘のほうがおいしそうだと、舌なめずりをしていた。
お祖母ちゃんは孫娘を守るために、奮闘する。寝台の下に隠していた猟銃で狼を撃ち、見事に仕留めた。めでたし、めでたし。
みたいな話だったような。幼少期に聞いた話なので、記憶が正しいか怪しいものである。
『クエクエー!』
赤ずきんの娘の話を聞いたアメリアが、猟銃の名手であるお祖母ちゃんの仮装をしたいと言い始めた。
『ダッタラアルブムチャンハ、オ祖母チャンニ持ッテイク、白イパンノ仮装ニスル!』
白いパンの仮装とはいったい……。
まあ、本人が望むのならば自由にさせておこう。
『ハロウィンノ、オ菓子ハ、パンケーキヲ作ルノ?』
「いや、パンケーキは配りにくいので、クッキーとかケーキとか、配りやすいお菓子を考えています」
『ソウナンダー』
アルブムはガッカリしたように言う。一応、アルブム専用に、パンケーキを作る予定だ。
それから一ヶ月もの間、ハロウィンパーティーのことで頭がいっぱいだった。
それは私だけではなく、他の人も同様に。
今日は仮装をどうするか、休憩室で話題に上がった。
ウルガスは実家の母親に頼んだようだ。
「自作なんて、絶対に無理だと思いまして、母親にお金を出して依頼しました」
なんでも、ウルガスの母は裁縫が大の得意らしい。子ども時代の服は、すべて手作りだったのだという。
「ベルリー副隊長はどうしているんですか?」
「私は、着なくなった服を改造して、どうにかならないか格闘中だ。あまり、期待はするな」
そうは言っても、どんな恰好をしてくれるのか楽しみで仕方がない。
「リーゼロッテはどうしています?」
「侯爵家の針子に頼んでいるわ」
「さすが貴族」
とんでもなく気合いが入った仮装をしてきそうだ。
ガルさんはスラちゃんと一緒に、仕事が終わったらちまちま作っているらしい。スラちゃんの裁縫の腕は、相当なものなのだとか。
「隊長は、まさか手作りではないですよね?」
「んなわけないだろうが。俺はメリーナに頼んだ」
「そうだったのですね」
王子とか貴公子の仮装をしてきたらどうしよう。若干、心配になる。
「ザラさんは手作りですよね?」
「ええ。毎日、少しずつ作っているわ」
「わー、楽しみです」
いったいどんな仮装をするのだろうか。まったく想像できない。
こんな感じで、みんなで楽しみにしている。
◇◇◇
ハロウィン当日に配るお菓子は、少しだけ特別なものを作ろう。
まずは、アルブム用のプチパンケーキを焼いた。
焼き上がったパンケーキは、五枚くらい重ねて油紙に包んで、左右を絞る。リボンで結んだら、キャンディみたいに可愛くなった。
アルブムはこういう可愛さなんて気にしないだろうが、配る私がご機嫌になるのだ。
アルブム専用パンケーキが完成したら、本命のお菓子作りに取りかかる。
お菓子作りの師匠であるザラさんを、「むむむ!」と唸らせるお菓子を作りたい。そう思って、街のお洒落な製菓店を巡ってみた。
その結果、とてつもなく可愛いクッキーを発見したのだ。
それは、薄いクッキー生地をくるくる巻いて、薔薇の花みたいに仕立てたもの。
底にチョコレートをディップしてあって、食べるとサクサクした軽い触感とチョコレートの濃厚な味わいが楽しめる非常においしいお菓子だった。
これならば、ザラさんにも喜んでもらえるだろう。
ただ、そのままお店に売っていたものを真似して作ってもつまらない。
私はベリーペーストを使って生地を薄紅色にしたもので薔薇のクッキーを作ろうと思い立った。
まず、バターの塊を混ぜてなめらかにする。これだけのバターを入れるなんて、贅沢なお菓子だ。みんなに喜んでもらうために、奮発した。
なめらかになったバターに粉糖とベリーペースト、卵白を入れて、ムラなくかき混ぜる。
それに生クリームを加えて空気が入らないよう、切るように撹拌。
さらに、二種類の小麦粉を加え、ナッツ粉も追加する。ダマにならないよう、丁寧に混ぜた。この生地を、冷蔵庫で休ませる。
ぐっすり寝かせた生地を絞り袋に入れて、油を塗った鉄板に細長く絞っていく。
この生地を、温めた窯で十分ほど焼くのだ。
焼き上がってからが勝負である。
鉄板を取り出し、手袋を嵌めて生地をくるくる巻いていく。
「熱っ!! 熱すぎる!!」
素早く巻いていったら、可愛らしい薔薇の形となった。底にホワイトチョコレートをつけて、細長い棒を刺した。
棒をリボンでまとめたら、花束みたいになって可愛い。
我ながら、すばらしいお菓子が仕上がったように思える。
きっと、みんな喜んでくれるだろう。
と、甘い物が苦手なルードティンク隊長の顔が思い浮かんだ。
仕方がないと思い、余った食材でベーコンのミートパイを作ってみた。お気に召してくれるといいのだが。
準備は万全!
ハロウィンパーティーへ挑んだ。
私の仮装は赤ずきんの娘。
アメリアは赤ずきんの娘のお祖母ちゃん。ボンネット帽を被り、眼鏡をかけている。背中に猟銃の模型を背負っているのがポイントだ。
アルブムは白パンの着ぐるみを着て、私が持つ籠の中に入っていた。
一応、騎士舎に到着するまで、全身を覆う外套をまとう。アメリアにも、マントを装着させた。白パンの着ぐるみを着たアルブムは、問題ないだろう。
街中には、私達と同じように仮装をした人々が練り歩いている。楽しそうな雰囲気だ。
途中でシーツお化けの仮装をした小さな子どもに、「お菓子をくれないといじわるするぞ~~」と言われたので、薔薇クッキーを差し出す。すると、キラキラ輝く瞳で受け取ってくれた。
母親らしき女性もいて、お返しのキャンディをいただく。
なんというか、いい催しだ。
第二部隊の騎士舎の出入り口に、カボチャのランタンが置かれていた。
「うわー、可愛い!」
きっと、器用なガルさんとスラちゃんが作ったのだろう。きれいに中身がくり抜かれており、目と鼻、口は表面に彫られていた。
この辺で外套を脱いでもいいだろう。
そんなことをしていたら、背後より声をかけられる。
「あら、その後ろ姿は、メルちゃん?」
振り返った先にいたのは、狼男の恰好に扮したザラさんがいた。
リアルな狼の耳に、黒革のジャケットとズボン、それから、ふさふさの尻尾が揺れていた。
「うわーー! ザラさん、カッコイイです! 狼男は予想外でした!」
「あら、そう? なんだか、メルちゃんと合わせて仮装したみたいになったわね」
「あ、本当ですね!」
私達はまるで、赤ずきんの娘の仮装を合わせてきたようだった。
「よく似合っている。可愛いわ」
「えっと、嬉しいです」
「アメリアも、すてきよ」
『クエ~~』
「ザラさん、見てください。アルブムは白パンの仮装なんです」
「よくできているわね」
「力作です」
ザラさんは胸に手を当てて、「何か言うことがあるわよね?」と聞いてくる。
今まで白パンになりきり、寝そべっていたアルブムががばりと起き上がっていった。
『オ菓子ヲクレナケレバ、イタズラスルゾ~!!』
「はいはい」
ザラさんは腰に巻き付けたポーチから、お菓子を取り出した。
「はい、どうぞ」
『ワーイ!』
アルブムはもらった包みをすぐに開封する。
中からでてきたのは、ネズミを模った一口大のシュークリームだった。
「うわ、可愛い!」
「メルちゃんも、お決まりの言葉をどうぞ」
どうやら、「お菓子をくれないといたずらするぞ!」と言わないと、もらえないようだ。
恥ずかしいが、ザラさん特製のお菓子は食べたい。
腹を括って、言ってみた。
「お、お菓子をくれなければ、いたずらしますっ!」
顔が熱い。思っていた以上に、恥ずかしい台詞だった。
ザラさんは口元に手を当てたまま、動こうとしない。
「あの、ザラさん。私、何か間違っていましたか?」
「いえ、このままお菓子を渡さないで、いたずらしてほしいと思ってしまったの」
「いたずらとか、考えていませんから!」
「あら、そうだったの?」
「ザラさん、お菓子ください」
手を差し出すと、ザラさんはアルブムとは違うお菓子の包みを手渡してくれた。
開いてみたら、ハートの形をしたチョコレートケーキだった。
「うわ、可愛い! ありがとうございます。食べるのがとっても楽しみです」
「喜んでくれて、嬉しいわ」
せっかくなので、ここでザラさんにお菓子をあげよう。同じように、お決まりの言葉を求めてみる。
「お菓子をくれないと、いたずらするわよ――なんて、どうかしら?」
「かっこよくて、ドキドキしました」
突然の低い声とか、反則だろう。胸を押さえて、息を整える。
「……メルちゃん、このままだと、いたずらすることになるんだけれど」
「あ、あー! すみません! 動悸がすごくて。はい、お菓子です」
「まあ、薔薇のクッキーかしら? 花束みたいになっていて、きれいね!」
「ありがとうございます」
「ひとつ、食べてみてもいい?」
「ええ。お口に合えばいいのですが」
ザラさんはひとつだけ取り出して、ぱくりと食べる。
「まあ、おいしい! これ、クッキーではなくてラングドシャなのね」
「そうなんです」
「バターの香りがゆたかに広がったあと、ベリーの酸味をほのかに感じて、ホワイトチョコレートが味わいを優しくしてくれる。すばらしいわ、メルちゃん」
どうやらお気に召していただけたみたいだ。ホッと胸をなで下ろす。
「他の人はどんな仮装をしているんでしょう?」
「まったく想像できないわね」
ドキドキしながら、騎士舎の中へと入る。
「あー、リスリス衛生兵とアートさんだ!」
頭はカボチャ、体はシーツの外套を纏い、手に角灯を持った姿で現れる。
「あれは、カボチャおばけですね!」
「そうです! お菓子をくれないと、いじわるをしますよ~!」
言わずもがな、中身はウルガスである。
ザラさんと一緒に、作ってきたお菓子を手渡した。
「わー! ありがとうございます。嬉しいです。カボチャ頭を被っているので、どんなお菓子かは見えないのですが」
カボチャ頭は針金と厚紙で作っているらしい。休日に、せっせと作ったのだとか。
シーツの外套だけ、母君の手作りらしい。
カボチャ頭の工作は自分でしなさいと言われたのだとか。
「あまり、近くで見ないでくださいね。実はヨレヨレなんです」
「上手にできていますよ」
「ええ。なんだか可愛いわ」
「ありがとうございます」
ウルガスは買ってきたというカボチャのカップケーキをくれた。とってもおいしそうだ。
「他の人の仮装、見ました?」
「見ました、見ました。すごいですよ」
何がすごいのか、気になってしまう。休憩室へと向かっていたら、廊下を何かがズンズンと歩いてきた。
「え、何あれ……!?」
「爬虫類系の、何かしら?」
ズンズン、ズンズンと存在感たっぷりにやってきたのは、本物にしか見えない二足歩行のトカゲだった。
中の人は、だいたい想像できる。
「えーっと、リーゼロッテ、ですか?」
「これは、竜よ!!」
「リーゼロッテだ」
どうやら竜の仮装をしたらしい。よくよく見たら、背中から翼が生えている。
自慢するように、胸を張っていた。
着ぐるみの中で、リーゼロッテが同じ動きをしているのだと思うと、ちょっと面白い。
「今日一日、この姿で幻獣の布教をしていたの」
「心が強い」
幻獣保護局で、ハロウィンに乗じて催しをしていたらしい。
相変わらず、幻獣への愛がとてつもない。
休憩室には吸血鬼の恰好をしたガルさんと、赤くなってグラスに入ったスラちゃんの姿があった。スラちゃんは、血のワインの仮装らしい。
外のカボチャを褒めると、ふたりとも照れくさそうにしていた。
ワイワイと話している中で、ベルリー副隊長がやってきた。
猫耳と尻尾をつけた黒衣を纏っていた。
「ベルリー副隊長、それは、魔女の使い魔の仮装ですね」
「よくわかったな」
「わかりますとも」
魔女はいなかったようだと、肩を竦めている。
まだ、隊長が来ていない。もしかしたら、隊長が魔女である可能性も否めないのだ。
最後の最後で、隊長がやってくる。いったい、どんな仮装をしているのやら……。
「おい、全員揃っているな」
いつも通りの隊長だったが、恰好はいつも通りではない。
袖を豪快に破った上着に、腰には猪豚の毛皮を巻き、だぼっとしたズボンをはいている。 手には木を彫って作った、三日月みたいに湾曲した剣を持っていた。
私とウルガスは、同時に叫んだ。
「山賊の仮装だ~~~~!!」
まさかの仮装に、大盛り上がりである。
メリーナさんってば、ドンピシャな仮装を作ってくれた。
「ギャアギャアうるさいな!! いいから持っているもんを出せよ」
「い、命ばかりは~~!!」
「おい、ウルガス! ハロウィンは命を盗る催しじゃないだろうが!」
「そうでした!!」
ひとしきり笑ったあとで、ザラさんが注文してくれたごちそうが届いた。
鶏の丸焼きに、ミートパイ、野菜スープに、魚のグラタン、カボチャのパイに、山盛りマシュマロ。
どれもおいしくって、最高だった。
こんな感じで、ハロウィンは盛り上がる。
また来年もしようと、みんなで約束したのだった。




