表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

387/412

悩み事があるならば、スラちゃんに任せなさい! その三

 朝――ガルが昨日あった研修の報告書を提出する。

 受け取るルードティンク隊長は、上の空な様子で受け取っていた。

 ガルの肩に腰掛けていたスラちゃんは、ピンとくる。

 あれは、悩みを抱える者の表情だと。あの様子だと、数日間は悩んでいるだろう。相談に、乗ってあげなければ。

 スラちゃんはガルの肩をポンポンと叩き、手のひらへ飛び乗る。

 身振り手振りでルードティンク隊長の様子がおかしいと説明し、相談に乗ってあげるという旨を説明した。

 ガルはコクリと頷き、スラちゃんをルードティンク隊長の執務机にそっと置いた。

 それにも気づかないほど、ルードティンク隊長は何か思い悩み、ぼんやりしていたのだ。

 ガルが退室したあと、スラちゃんはルードティンク隊長の手の甲をペタペタと叩く。


「どわーーー!!」


 見事な驚きっぷりであった。スラちゃんは「ごめんごめん」と、手を振って謝る。


「なんだ、スラ。どうしたんだ?」


 どうしたと問いかけたいのは、ルードティンク隊長のほうである。そんなことを、身振り手振りで伝えた。


「あ、俺か。俺は別に何も――なくはないな」


 スラちゃんは「そうだろう、そうだろう」とコクコクと頷く。

 ルードティンク隊長は明らかに、何かに悩んでいた。

 どれ、スラちゃんに話してみなさいと、胸をどん! と打つ。


「いや、まあ、大した悩みではないのだが――」


 ルードティンク隊長はぽつり、ぽつりと話し始めた。


「明日がメリーナの誕生日なんだが――」


 メリーナというのは、ルードティンク隊長の妻である。最近結婚し、新婚ほやほやなのだ。


「何がほしいか聞いたら、今の時季に川で釣れる、大鮭メガ・サモンを食いたいって言うんだ」


 あまりにもおいしいことから、釣った人がそのまま食べてしまうらしい。そのため、市場にはほとんど出ないと。鮮魚店にここ毎日通っていたようだが、大鮭は一度もあがらなかったようだ。


「休みの度に釣りに行っていたんだが、都合よく釣れるわけもなく――」


 乱獲を防ぐために、釣りが許可された場所も限られているらしい。だから余計に、釣れないという。


 ついに、メリーナの誕生日を迎える。

 ちょうど明日は休みなので、釣りに行くようだが、まったく釣れる気はしないと。

 記念すべき二十歳の誕生日なので、大鮭を釣ってあげたかった。けれど、こればかりはどうしようもない。

 大鮭を釣れなかったと言えば、ガッカリするだろうな。そんなことを考えていたら、無限にため息が零れてしまうらしい。


 スラちゃんは挙手し、明日の釣りに同行するという。


「同行して、どうするんだよ」


 ちょうど、執務室にほうきが立て掛けてあった。スラちゃんは飛び移り、先端に巻きつく。

 そして、細長くだらりと伸びた。床に転がっていた花瓶を拾い上げ、ルードティンク隊長に手渡す。


「もしかして、釣り糸になって、大鮭を捕まえると言いたいのか?」


 スラちゃんは、親指をぐっとするような仕草を取った。


「いいのか?」


 スラちゃんはコクコク頷く。

 そんなわけで、スラちゃんは明日、ルードティンク隊長の釣りに同行することとなった。


 ◇◇◇


 釣りはルードティンク隊長、ガル、スラちゃんの三名で出かけた。

 ガルも、メリーナの誕生日のために、一肌脱いでくれるらしい。

 馬で目的地の川まで向かい、休むことなく準備に取りかかった。

 スラちゃんはガルの槍に巻きつく。


「これを、竿みたいに使えばいいんだな?」


 ルードティンク隊長の質問に、ガルとスラちゃんは同時に親指をぐっとする仕草を取った。


 さっそく、釣りを開始する。

 ルードティンク隊長は、槍を振った。スラちゃんは遠くに飛ばされ、川の中へと飛び込む。


 水中は、たくさんの魚が泳いでいた。

 スラちゃんは川の色と同化し、姿が見えないようにする。


 大鮭は――見つからない。

 多くの漁師が狙う、極上の魚だ。どこを探しても見つからないが、諦めるわけにはいかない。


 ルードティンク隊長は、一時間ほどでスラちゃんを川から引き上げた。

 まだ頑張れるのにと訴えても、疲れるからと言って聞かない。


 しかたがないので、しばし休む。

 その間に、ガルが釣った川魚を焚き火で炙って食べる。

 脂がのっていて、おいしかったらしい。


 おいしい川魚を食べたあとで、釣りを再開させる。

 スラちゃんは思いっきり川へ飛び込み、深い場所へと潜り込んだ。

 すると、黄金色に輝く魚を発見した。

 間違いない。大鮭である。

 スラちゃんはスイスイ泳ぐ大鮭に追いつくため、自身の体を伸ばしていった。

 ついに追いつき、大鮭の体にぐるぐるに巻きつく。

 体を縮めようとしたが、大鮭は最後の力を振り絞って抵抗した。


 さすが、伝説の魚と言えばいいのか。

 スラちゃんは渾身の力で引くが、びくともしない。

 どうすればいいのかと考えていたら、体がぐいっと引かれる。

 大鮭ごと、地上へ引き上げられた。


「おりゃああああ!!」


 ルードティンク隊長が、スラと大鮭を地上へと誘ってくれた。


「うわっ、大鮭じゃないか!」


 体長一メトルほどの、大物である。

 見事、スラちゃんの助力を得て、ルードティンク隊長は大鮭を釣り上げた。

 帰りは足取り軽く、家路に就く。


 大鮭を持ち帰ったルードティンク隊長を見て、メリーナは瞳が零れそうなほど驚いていた。


「ありがとう、うれしい!」


 メリーナはそう言って、ルードティンク隊長が差し出した大鮭を抱きしめる。

 それを見たルードティンク隊長は、「おいおい、生臭くなるだろが」と空気が読めない発言をしていた。

 メリーナが怒ったのは、言うまでもない。


 そんなわけで、ルードティンク隊長の悩みは、解決したのだった。

 後日、メリーナから感謝状が届く。

 できる妻だと、手紙を読みながら思うスラちゃんであった。

はらぺこ遠征ごはん最新話公開されました。

倉庫のダメダメ食材復活編です!

挿絵(By みてみん)

https://comicpash.jp/enoku/

現在無料公開中です。よろしくおねがいいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ