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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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山猫の赤ちゃんの行方

 ザラさんの実家から無事帰宅し、幻獣達の出迎えを受けた。


 まず、私に飛びついてきたのは、竜のルーチェ。


『きゅうううん!』

「た、ただいま」


 熱烈歓迎である。

 しばらく会わない間に、大きくなっているような気がする。さすが、幻獣だ。

 そのあとは、山猫のブランシュとノワールが走ってきて、じゃれつこうとしたが、すかさずザラさんが止める。


「メルちゃんに全力で絡んだら、ダメ!」

『にゃうー!』

『にゃうにゃう!』


 代わりに、ザラさんにじゃれついていた。

 大きな山猫二頭が体当たりをするようにじゃれついても、びくともしないザラさんがすごい。


 アメリアとステラは、遠慮気味に覗き込んでいた。駆け寄って、ぎゅーっと抱きしめる。

 アメリアは羽毛がすべすべで、ステラは毛並みがもっふもふである。

 端のほうで、窺うようにこちらを見つめていたエスメラルダも、しっかり捕獲して抱きしめる。


「エスメラルダ、いい子にしていましたか?」

『きゅっふ!!』


 言われなくとも、完璧に過ごしていたらしい。ルーチェの子守で忙しくしていたようだ。


『きゅ!?』


 エスメラルダはハッとなり、私の腕から飛び降りる。そのあと、訝しげな視線をニクスに向けていた。


「あ、そうだ。山猫の赤ちゃんを連れ帰ったことを、報告していませんでしたね」


 ニクスから、山猫の赤ちゃんを取り出す。

 アルブムに抱きついた姿で、発掘された。


 エスメラルダは警戒し、どこかへ逃げてしまった。

 アメリアとステラは、不思議そうに山猫の赤ちゃんを覗き込んでいる。


「ザラさん、ひとまず、幻獣保護局に連れて行きますか?」

「そうね」


 そんなわけで帰ってきたばかりだが、馬車を手配して幻獣保護局の本部へと出かけた。

 ルーチェもついていくというので、右腕に竜、左腕に山猫の赤ちゃんとアルブム、という状態となった。

 重たいので、アルブムは離そうとしたが、山猫の赤ちゃんがみゃあみゃあ鳴き始める。 

「どうやら、すっかりアルブムを母親だと思い込んでいますね」

「お乳を飲むときも、アルブムのお腹をぷにぷに押しているものね」

『アルブムチャン、オ母サンジャ、ナイノニ』


 そんなことを言いながらも、アルブムは山猫の赤ちゃんをしっかり面倒を見ている。

 案外、母性本能が強いのか。アルブムはオスだけれど。


 幻獣保護局に到着すると、入館申請用紙を書くことなく中に入れた。

 局員に銀の山猫を発見した旨を報告すると、目が零れそうなほど驚いていた。


「これは、大発見ですよ!!」

「は、はあ」


 すぐに、侯爵様に報告に行ってくれるという。

 ちなみに、リーゼロッテは不在らしい。化粧品の事業で、忙しいのだろう。


「侯爵様、いきなり押しかけて、怒らないですよね?」

「大丈夫よ、心配いらないわ。きっと、血相を変えて飛んでくるはず」


 ザラさんの予言通り、侯爵様は走って応接間にやってきた。 勢いよく扉を広げ、怖い顔でこちらを見ながら問いかける。


「親とはぐれた、銀色の山猫の赤子を、保護したと聞いた」

「は、はい」


 アルブムごと、侯爵様に見せる。


「これは!!」


 目を見開いた侯爵様のお顔がとんでもなく怖い。けれど、耐えるしかなかった。


「銀の山猫の発見は、世界で初めてかもしれない。大変、貴重な山猫だ!!」


 もっと近くで見たいだろう。アルブムごと差し出したが、信じがたいものを目前にした目で私を見た。


「あの、触っても、大丈夫ですよ。この子、人見知りしないんです」


 警戒心はほぼない。ただ、アルブムから離れないのが難点であるが。


「なぜ、アルブムと共にいるのだ?」

「体が冷えていたので、アルブムで温めていたんです。そうしたら、この通り」

「なるほど……」


 侯爵様はアルブムごと山猫の赤ちゃんを受け取った。

 すると、眉間の皺がなくなり、そっと目を細めた。


「侯爵様が、笑っている!?」

「本当だわ」


 慈愛に満ちた女神のごとく、侯爵様が微笑んでいたのだ。あんな優しい顔ができるなんて、知らなかった。


 きっと、今が幸せの絶頂だろう。


「安心しろ。この山猫は、幻獣保護局で手厚く保護する」

「よろしくお願いします」


 侯爵様がアルブムと山猫の赤ちゃんを離そうとしたら、激しくみゃあみゃあ鳴き始めた。


「な、なんだ、これは!? 本当に、アルブムを母だと思っているのか!?」

「で、ですね」


 再びアルブムとくっつけると、途端に大人しくなる。


「ふむ。仕方がない。アルブムも一緒に、ケージに入れておくしかないな」

『エエ、アルブムチャン、閉ジコメラレルノ、嫌ダヨオ!』

「ならば、契約をすれば、離れても平気になるだろう」

『エ、アルブムチャンガ、幻獣ト、契約?』

「そうだ」


 思いがけない展開となる。

 そういえば、アメリアも契約するまではベタベタしていたような。

 アルブムも同じように、山猫の赤ちゃんと契約すれば、大人しくなるだろう。


「しかし、妖精と幻獣の契約って、アリなんですか?」

「さあな。前例がないから、わからん。しかし――」

「しかし?」

「私はアルブムと契約している。アルブムが山猫の赤子と契約すれば、私と契約している状態も同じ」


 めちゃくちゃ、下心のある作戦だったようだ。

 アルブムはケージに入りたくない思いから、山猫の赤ちゃんとの契約を了承した。


『ンー、ジャアネエ、名前ハ、パンケーキ!!』

『みゃう!!』


 アルブムのもっちりお腹に、契約印が浮かび上がる。

 世にも稀少な銀山猫の赤ちゃんの名前は、『パンケーキ』と命名された。


 名前は、それでいいのか。

 いいのか。


 そして、侯爵様はとても幸せそうだった。

はらぺこ遠征ごはん最新話公開されました。

ついに、ザラが登場です!

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