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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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リスリス、ザラの実家へ行く! その十八

 お爺さん、お婆さんと別れ、出発する。


「おおい、これを持って行け」


 手を振って別れたばかりなのに、お爺さんが外に飛び出てくる。何やら両手に包みを抱えていた。


「木イチゴのジュースと、乾燥キノコ、レインディアの干し肉に塩漬け肉、それから、昨日婆さんが作った焼き菓子だ」

「まあ、こんなにいただいても、いいのですか?」


 ザラさんは目を丸くしながら、包みを受け取る。


「なぁに、結婚祝いだよ。遠慮するな」

「ありがとうございます」


 幸せになれと言って、送り出してくれた。なんて、優しい人達なのか。

 ありがたく受け取り、森小屋を発った。


 レインディアは十分休憩を取ったからか、元気いっぱいだ。

 お爺さんから、餌と水ももらっていたらしい。足取りは軽やかだ。


「雪も止んで、よかったですね」

「そうね」


 この辺りの気候は、変わりやすいらしい。いくら晴れていても、五分後には猛吹雪というのも珍しくないようだ。


 ザラさんはフォレ・エルフの森と、故郷の環境が似ていると話していたが、この地のほうが断然過酷だろう。

 フォレ・エルフの森の雪なんて、こことは比べものにもならない。


「びっくりするでしょう? 雪と木々しかなくて」

「雪や木々があって、この土地で強く生きる人達がいて、独自の文化がある、すばらしい場所ですよ」

「メルちゃん、ありがとう」


 その後、ザラさんはボソボソと、消え入りそうな声で言った。


「排他的な場所だから、もしかしたら、メルちゃんを見てびっくりする人もいるかもしれないけれど……。ごめんなさい。これも、事前に説明しておくべきだったわ」

「いえ、大丈夫ですよ。ここみたいに、雪深く過酷な土地では、生活を守るのが第一ですし、余所の人に対して、警戒心を抱くのは普通のことかと」


 国や組織に頼らず、自給自足の中で暮らしている人達が信じているのは、家族や仲間達だ。そんな状況の中、密猟者みたいに信じられない犯罪を行う奴らもいる。厳しい目になってしまうのも、無理はない。


「まあそれも、一部の人達だけで、ほとんどの人達は、歓迎してくれると思うわ」


 ここ最近の話であるが、周辺地域で観光業が始まってからは村も変わりつつあるらしい。

 ザラさんもその変化は見ていないようで、家族からの手紙からもたらされた情報のようだ。


「まあ、変わったと言っても、外を歩いているだけで睨まれることがなくなった程度だと思うけれど」


 そんな話をしているうちに、ザラさんの生まれた村にたどり着く。

 村の入り口には、立派な門ができていた。


「あら、いつの間にか、あんなものができたのね」

「なんか、看板がありますね。えっと……“ようこそ、山猫の故郷へ!”と、書いてあるみたいです」

「なんですって!? 山猫の故郷だなんて、初めて聞いたわ」


 門を潜り、村の中へと入る。すると、いきなり山猫を模した像があった。


「こんなの、今までなかったのに!」


 土産屋もあり、中には山猫のぬいぐるみや絵はがき、カップなどが置かれていた。

 村のいたる場所に、“山猫発見箇所”みたいな立て看板もある。


「いったい、何が起きているというの?」


 閉鎖的な村だったのに、いきなり観光地になっていたようだ。

 山猫の看板や飾りなどで賑やかに演出しているわりには、人の気配がない。

 雪国あるあるらしいが、見慣れない光景に戦々恐々としてしまう。


 昔からあるらしい宿屋に通りかかると、ようやく人を発見した。

 ザラさんはソリを停め、外に出て話を聞く。

 私は、ソリの中で待っておくように言われた。


「ちょっとおじさん、ここ、どうしたの!?」

「ん、ララちゃんか? 久々の帰省だなあ」

「私は末のザラよ」

「お!? ああ、王都さ行って、騎士になったっていう。いやはや、立派になったなあ!」

「その話はいいから、ここがどうしてこんなふうになっているか、教えてほしいの」

「こんな?」

「まるで、観光地みたいになっているでしょう?」

「ああ、そのことかー。魔石列車ができて、人の出入りが多くなるって聞いたから、観光でも始めようって、新しい村長さんが言ったんだよお」

「そうだったのね」


 どうやら、村長が代替わりしたので、村の雰囲気も変わっているらしい。


「いやー、山猫しかいねえから、観光事業なんてしようがないって言っていたんだが、逆に山猫を売りにすればいいって、村長さんがいったもんでな。余所には、山猫がいないんだなあ」

「まあ、そうね」

「事業を本格的に始めるのは、雪が解けてからなんだよお。今は、準備段階なんだ」

「この状態で、まだ準備段階なのね……」

「みんな、家で一生懸命、山猫を模した商品を作っているって、忙しくしているんだよお」


 だいたい事情は把握できたのだろう。ザラさんは宿屋の主人に、深々と頭を下げていた。


「メルちゃん、ごめんなさい。行きましょう」

「ええ」


 ついに、ザラさんの実家にたどり着く。

 二階建ての、木造の家である。ここでザラさんが育ったのだと思うと、なんだかドキドキしてしまった。

 今は、ザラさんのご両親だけが住んでいるらしい。お姉さんは皆嫁いで行ったので、たまに里帰りをする程度なのだとか。


 その情報も、先ほどのお爺さんとお婆さんから聞いたようだ。


「以前までは、姉夫婦も住んでいたんだけれど、独立したのでしょうね。こまめに連絡を取っていないから、こうなるのよね」

「ザラさん、ここ最近忙しくしていましたからね」


 山猫の赤ちゃんを胸に抱き、外に出る。


「うわっ!!」


 キンと冷たい冷気を、この身をもって体感した。

 今までの中で、もっとも寒い。

 先に、レインディアを小屋に連れて行き、水や餌を与えた。

 レインディアは往復の代金を支払っているようで、私達が滞在する間もいるらしい。

 小屋の中は温かく、じわりと汗を掻いてしまう。

 他に、三頭のレインディアがいて、私達に不思議そうな視線を向けていた。

 再び外にでると、極寒の世界である。


「寒いわよね。早く中へ入りましょう」

「そうですね」


 ザラさんは扉を開き、「ただいま!」と声をかけた。

 すると、奥の方から返事が聞こえた。

 

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