リスリス、ザラの実家へ行く! その八
魔石列車には風呂車両があり、細長~い浴槽がある。床は大理石で、驚くほどツヤツヤだ。本日は真珠風呂といって、白いお風呂だった。体を洗ってから浸かると、肌がツルツルピカピカになったような気がする。
髪の毛も、真珠湯で洗ったら、サラサラになる。
大満足で部屋に戻った。まだ、ザラさんは戻ってきていないだろうなと思っていたが――。
「メルちゃん、お帰りなさい」
「ただいま戻りました――って、ザラさん、早かったですね」
「ええ」
途端に、ザラさんは目を伏せ、悲しそうな表情となる。
「どうかしたのですか?」
「お風呂の湯が、ちょっと独特でね」
「真珠湯がですか?」
「真珠湯!? 女性用のお風呂は、真珠湯だったの?」
「え、ええ。男性用は、違ったのですか?」
「真っ赤な、火山風呂だったの」
「火山風呂!?」
なんでも、南にある国にある火山で採掘される岩石を、砕いて加工し、湯に溶かしたものだったらしい。
「少し浸かっただけで、体が温まってしまって。十分と浸かっていられなかったわ。私、長風呂だから、困るのよね」
「な、なるほど」
ここで、部屋の端で眠っていたアルブムが飛び起きる。
『ア、アルブムチャンモ、オ風呂ニ、イキタカッタ!!』
どうして起こさなかったのかと言われたが、幸せそうに眠っていたので、なんだか可哀想に思ってしまったのだ。
「でも、アルブムは妖精族だから、お風呂は必要ないですよ」
『デモー、雰囲気ヲ、味ワイタカッタ、ッテイウカー。イイ湯ダナ~、ッテイウノヲ、ヤリタカッタノ!』
「だったら、ここでお湯を沸かしましょうか?」
『エ、イイノ?』
ニクスの中に入れていた桶を出す。アルブムを洗うときに使っていたものだ。
「お湯は、そこにあるポットで沸かせるのですよね?」
「ええ」
魔法大国の大発明、魔石ポットでお湯を沸かす。
ポットの中に水を注ぎ、蓋にあるくぼみに魔石を設置するだけらしい。魔石の呪文をさすったら、一瞬でお湯が沸くと。なんて便利な品なのか。
これは魔石列車限定品らしく、一般販売はしていないらしい。
水とお湯、半々で入れたら、いい感じだろう。
「アルブム、いい湯加減ですよ」
『ウ~~ン』
「なんですか、うーんって」
『イヤ、アルブムチャンモ、真珠湯ヤ、火山湯ミタイナノニ、入リタイナッテ』
「いきなり言われましても」
何かお湯に入れられるものはあるのか。探ってみると、先ほど強盗にぶつけた唐辛子粉が出てきた。
「アルブム、唐辛子湯とかどうですか?」
『アルブムチャン鍋、トカニ、ナリソウダカラ、イヤ』
アルブムの可食部位は少ないだろう――と、思ったが、意外とお肉がありそうだ。
『アルブムチャンハー、オイシクナイノデッ!』
「いやいや、謙遜しないでください」
いろいろ探してみたが、塩コショウ、バター、薬草ニンニクなど、アルブムをおいしくいただくような物しか出てこない。
『ア、アレ、イイカモ!』
アルブムが発見したのは、茶器セットの中にある紅茶だった。
「ああ、なるほど、紅茶湯ですか。いいかもしれないですね」
『デショー?』
そんなわけで、アルブムは茶こしに紅茶の茶葉を入れて、湯に浸していた。
「あら、いい香りね」
「人間がこれをしようと思ったら、大量の茶葉が必要になりますよね」
「ええ。羨ましい限りだわ」
紅茶のいい香りが漂う。アルブムはそっと、足先から浸かっていた。
『アー、イイオ湯ダネエ』
アルブムが浸かっている様子を見ていると、ザラさんが作ってくれた猪豚の紅茶煮を思い出す。
紅茶の茶葉を使うことによって、肉質がやわらかくなるのだ。
アルブムには、言わないほうがいいだろう。
『フー、体モ、温マッタシ、アガロウカナ』
「アルブム、肩まで浸かったほうがいいですよ」
『大丈夫ー』
半身浴でいいらしい。
絨毯が濡れないように、桶の近くにタオルを広げてあげた。
湯から上がったアルブムを見て、驚愕する。
「わっ、アルブム!」
『エ、ナニ?』
「下半身が、紅茶色に染まっていますよ」
『ナ、ナンダッテー!?』
アルブム自慢の白い毛が、見事に染まっていた。
『エーコレ、落トセルノオ!?』
「さ、さあ?」
助けを求めるように、ザラさんを見る。
「えーっと、紅茶のしみ抜きの方法しか知らないのだけれど」
「教えてください」
「頑固なシミは、漂白系の薬品を使うわ」
『薬品ハ、ヤダー!』
もう一つの落とし方は、食器用の洗剤で洗うというもの。
厨房に行ったら、アライグマ妖精が快く分けてくれた。
ついでに、水場を借りてアルブムを洗う。
「アルブム、いきますよ」
『モシカシテ、水洗イ?』
「ええ」
まず、水で溶いた台所洗剤を、アルブムに揉み込むように馴染ませる。
『ンギャー、冷タイ!!』
「我慢してください」
だんだんと、紅茶の色が抜けていく。ある程度落ちたら、水ですすぐ。これを三回くらい繰り返したら、アルブムは元通り真っ白になった。
『アー、ヨカッタ』
「ザラさんのおかげで、茶色と白の妖精にならなくて済みましたね」
『感謝ダヨオ』
アルブムのおかげで、慌ただしい夜となった。




