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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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リスリス、ザラの実家へ行く! その六

 お茶とお菓子を楽しんだあと、ザラさんに急いで部屋に戻るよう促される。


「ザラさん、どうしたのですか?」

「見てからのお楽しみよ」


 部屋に戻ると、ザラさんは外を見て「間に合ったようね」と胸をなで下ろしている。

 いったい、何が始まるのか。


「あれ、なんか、海のほうに向かっていますね」


 窓の外の景色が、砂浜になっていた。

 海沿いを走るのかと思っていたが、違った。


「え、ええっ、う、嘘!?」


 魔石列車はぐんぐん砂浜を走り、そして、海の中へと入っていった。


「ええええ!? ザラさん、大変です! 魔石列車が、海に沈んでしまいます!」

「メルちゃん、大丈夫よ。魔石列車は、海の中も走るの」

「海を、走る!?」


 ザラさんにしがみつきつつ、窓の外の景色を覗き込む。

 だんだんと車体は海に浸食されていった。ついには、海水が窓の高さまで迫っている。

 そして――魔石列車は海の中に呑まれた。


 海水は車内に入ることなく、海の中をすいすい泳ぐように進んでいた。


「し、信じられないです。海の中を走るなんて」

「魔法文化の発達って、すごいわよね」


 海中はとても澄んでいて、魚が泳いでいた。

 アルブムが嬉しそうに叫んだ。


『アー、アレ、オイシイオ魚!』

「本当ですね」

『アッチニモイルヨ!』


 途中、魚の群れが通り過ぎる。銀色の体が、太陽の光に反射してキラキラ輝いていた。


「ザラさん、見てください、とっても綺麗です」

「ええ、そうね」


 海藻がゆらゆら揺れていたり、海底には貝があったり。海の中は、こうなっているのか。

 普段、海面を見るばかりだったので、実に興味深い。


「海の中って、ものすごく綺麗なんですね」

「そうね」


 ザラさんと寄り添い、うっとりしつつ眺めてしまった。


 明日の朝まで、海の中らしい。夜になると、また雰囲気が変わるのだとか。


「今のシーズンは、蛍魚っていう、夜になると発光する魚が見られるかもしれないわ」

「蛍魚ですか」

「鱗が、宝石みたいにキラキラ輝くらしいわ」

「それは、ぜひとも見てみたいですね」


 海の景色は十分堪能したので、二段式の寝台のどちらを使うか話し合う。


「ザラさんは一段目と二段目、どちらがいいですか?」

「メルちゃんが好きなほうを取っていいわよ」

「迷いますね」


 一階だと、ザラさんに眠っている姿を見られてしまう。

 二段目だと、寝ぼけて転げ落ちてしまいそうだ。


「う~~ん!」


 しかし、よくよく考えてみたら、別に寝姿を見られたからといって、ザラさんは私を嫌いにはならないだろう。

 安全面を考慮して、一段目に決めた。


「ふふ、ちょっとだけホッとしたわ。もし、私が一段目だったら、素顔を見たメルちゃんがビックリするかもしれないから」

「いや、ビックリなんてしないですよ」

「私のこの顔、化粧で作っているのよ? 化粧を落としたら、別人になるんだから」

「うーん、想像できないですね」


 長時間かけていたザラさんの化粧だったが、リーゼロッテが開発した時短化粧品のおかげで、ぐっと楽になったらしい。

 ザラさんを救うリーゼロッテの化粧品は、なんてすばらしい品なのか。


「いつか勇気ができたら、メルちゃんに素顔を見せるわね」

「わかりました」


 ザラさんの素顔についてはひとまずおいておき、夕食まで趣味の時間とする。


「メルちゃんは何をするの?」

「編み物です!」

「いいわね」


 以前、ザラさんからオシャレな編み方を教えてもらったものの、時間がないと完成させられないと思い、手を付けずにいたのだ。

 王都で買ってきた、絹羊の毛糸を使って、襟巻きを編む。


「ザラさんは何をするのですか?」

「私は、レース編みをしようと思って」

「いいですね」


 アルブムはいそいそと、何か取り出している。革袋に入った、木の実が出てきた。


『アルブムチャンハ、木ノ実ノ、殻ヲ、剥グヨオ』


 そんなわけで、各々作業を始める。

 魔石列車の乗車時間に、仕上げるつもりだ。

 実はこの襟巻き、完成したらザラさんに贈る予定なのだ。深い青の毛糸を掲げ、ザラさんと合わせてみる。やはり、ザラさんは海みたいに深い青が似合う。

 なんとか集中して、完成させたい。

 せっせ、せっせと編むこと三時間。


「メルちゃん、メルちゃん」

「ハッ!?」


 驚くほど、集中していたようだ。同時に、お腹がぐ~~っと鳴る。


「集中したら、お腹が、空いたみたいです」

「よかった。レストランを予約している時間になりそうだったから」


 ほどよいタイミングで、食事の時間となった。

 先ほど行ったリス妖精がいる喫茶店兼レストランに向かった。

 外はいつの間にか、暗くなっている。部屋に灯りが点されたのも気付かないほど、襟巻き作りに熱中していたようだ。


「王都で有名な料理人が、料理を提供してくれるのですって」

「期待が高まります」


 ザラさんはアルブムの分も追加で予約してくれたようだ。さすがである。


「どんな料理が出るんでしょうね~」

「楽しみね」


 すでに、何組かの乗客が食事を楽しんでいた。シャンデリアには灯りが灯され、いい雰囲気である。


 夜はキツネ妖精が給仕係を務めてくれるようだ。大きな尻尾は、とてもふかふかな見た目だ。


 ひと品目は前菜、貝柱のテリーヌ。旨味がぎゅぎゅっと閉じ込められていて、噛めば噛むほどおいしい。


 二品目は温かい前菜、長海老のクリームスープ。殻ごと煮込んでいるようで、濃厚で深みのあるスープを存分に味わった。


 三品目の魚料理は、白身魚のソテー。表面はカリカリに焼かれ、中はふっくら。非常に美味である。


 四品目も魚料理、海蟹のグラタン。チーズがとろとろで、蟹の旨味がクリームソースにとけこんでいた。


 どの料理も最高においしい。ザラさんも、笑顔で食べていた。アルブムも、お行儀よくしつつも、味わっているよう。

 魔石列車が海を走る時間なので、とっておきの魚介コースとなっているようだ。


「あ、メルちゃん見て、蛍魚よ!」

「わっ!」


 暗い海中で、淡く輝く魚が泳いでいた。群れが通りかかったので、星空を間近で見ているようだった。


 照明が落とされ、よりいっそう美しく見える。


「綺麗……!」

「本当に」


 思わず、熱いため息が出てしまう。こんな素敵な夕食の時間を過ごせるなんて。


「ねえ、メルちゃん」

「はい?」

「今から言うことに、驚かないでね」

「なんでしょうか?」


 薄暗いのでよく見えないが、ザラさんは今から何か重要な話をするらしい。

 背筋をピンと伸ばして、聞く姿勢を取る。


「メルちゃん。私と、けっこ――」

「おい、大人しくしやがれや!!」

「きゃーーーー!!!!」


 この場に相応しくない、乱暴者の声が聞こえた。

 すぐに、灯りがつく。

 静かだったレストランに、ナイフを持った男が乱入していた。

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