リスリス、ザラの実家へ行く! その五
ザラさんとアルブムは、いったい何を話しているのか。非常に気になる。
「えーっと、なんだったかしら? ここ最近忙しくて、あんまりお話しできていないわよねえ?」
『旅行ニイクカラ、仕事ヲ、頑張ッテイタンダヨネエ』
「ええ、まあ……」
なんと、ザラさんは王都にやってきてから、一度も帰省していないらしい。
「何年帰っていないのですか?」
「従騎士になったのは十二歳のときだから、もうかれこれ十年になるかしら?」
「十年も!? そんなお久しぶりな帰省に、私がついて行ってもよかったのですか?」
『パンケーキノ娘ガイルカラ、帰ルンダ――モガッ!!』
「アルブム!! これ、あげるわ!!」
ザラさんがアルブムの口に、チョコレートを詰め込んでいた。とてもおいしいものだったようで、尻尾を振りながら食べている。
「実家って、何かきっかけがないと、帰らないでしょう? 今回は、魔石列車が実家のある村の手前の村に駅ができたっていうから」
「あ、近くに別の村があるのですね」
「近くというか、雪鹿が引くソリに乗って、三時間くらい、かしら」
雪鹿というのは、ザラさんの生まれ故郷の森に生息する生き物らしい。家畜化にも成功していて、食料としても重宝しているようだ。
「全身真っ白い鹿なの」
「わあ、楽しみです」
「冬のシーズンは、雪鹿のソリに乗らないと、移動できないのよ」
ここで、アルブムやニクスから聞いていた粉雪がでてくるのだ。
「私達の故郷に降る雪は、驚くほどサラサラしていて、粉みたいに細かい雪なの。王都周辺に積もる雪と違って、握っても固まらないくらいなのよ」
「握っても固まらない雪とかあるんですね」
「ええ」
雪が深い場所に足を踏み入れると、底なし沼のように沈んでしまうらしい。
「雪鹿は、粉雪の上でも沈まないのよ。蹄と、足に生えている毛が、雪を弾いてくれるの」
「なるほど」
アルブムが雪原に飛び出していかないよう、しっかり捕まえておかなくては。
「アルブムに、故郷の話を聞かせていたなんて、意外ですね」
普段から、ザラさんはあまり自分について語らない。アルブムの白い毛並みを見ていると、故郷を思い出してつい喋ってしまうのか。
「ザラさんとアルブムが仲良しだったとは、知りませんでした」
『違ウヨオ。アルブムチャンニ話シテ、パンケーキノ娘ニ、故郷ニクルヨウ、説得シテクレッテ頼――モググ!!』
「ちょっと待って!!」
ザラさんはアルブムの口に、クッキーを詰め込んでいた。おいしかったからか、アルブムは目を星のようにキラキラ輝かせる。
「故郷の話以外には、どんなお話を?」
『ヒタスラ、パンケーキノ娘ガ、カワイイ、カワイイッテ話ヲ、聞カサレ――ムヒョ!』
「わーーーー!!」
ザラさんはアルブムの口に、飴を押し込んでいた。おいしかったのだろう。アルブムは頬を押さえ、足をバタバタ動かしていた。
というか、ザラさんのオシャレな服のポケットから、どんどんアルブムの好きなおやつが出てくるのが手品みたいだ。
ザラさんの七不思議の一つだろう。
「っていうか、アルブムの交友関係、もしかしたら私より広いかもしれませんね」
知らないお姉さんやお兄さんから、食べ物を貰っているんじゃないか。問い詰めると、アルブムは首を横に振って否定した。
『アルブムチャン、リヒテンベルガー侯爵家デ働ク人ト、パンケーキノ娘ト仲ガイイ、愉快ナ仲間以外カラ、食ベ物ハ、貰ッテナインダヨ』
「そうなんですね」
意外と、慎重派らしい。
そんな話をしているうちに、注文していた品が運ばれてくる。
リス妖精が、手押し車を押してやってきた。
『お待たせいたしました。冬苺パフェと、スコーンセット、特大プリンパフェです』
次々と、おいしそうな甘味がテーブルに置かれる。
私の冬苺パフェは、冬苺が芸術的だと思えるくらい美しく積み上げられていた。ザラさんのスコーンセットは、紅茶味、チョコレート味、プレーン、冬苺味と、さまざまな味があるようだ。アルブムの特大プリンパフェは、大きすぎて背後に立つアルブムの姿が見えない。
「アルブム、本当に、食べきれますか?」
『余裕~~!』
「だったら、いいのですが」
ザラさんが、スコーンを一つ分けてくれた。アルブムにも、渡している。
「いいのですか?」
「ええ。私は一つ食べたら、十分だから」
「ザラさん……!」
『アリガトウネエ』
アルブムはお礼と言って、ザラさんのスコーンにプリンを掬って載せていた。
「あ、私の冬苺パフェもどうぞ」
アルブムが載せたプリンの横に、冬苺と生クリームを添える。
「あら、豪華なスコーンになったわ。ふたりとも、ありがとう」
「いえいえ」
『マダ食ベタカッタラ、アゲルヨ』
私も、アルブム考案のスコーンのパフェ載せを作って頬張る。
「んんん! おいしい!」
『プリンモ、オイシイヨオ』
アルブムはそう言って、私のスコーンにプリンを載せてくれる。お返しに、私も冬苺のパフェを載せてあげた。
プリンスコーンも、当然おいしい。
「ああ、どれもおいしくって、幸せです!」
「本当に」
大満足の、お茶会となった。




