リスリス、ザラの実家へ行く! その四
魔石列車の扉は、基本的にどこでも魔法陣に乗車券をかざすと開くらしい。
「えっと、ここですね」
魔法陣に乗車券を重ね合わせると、扉がシュパッと自動で開いた。
「おお!」
アルブムは勝手に動き回らないよう、ニクスに詰めて部屋の外に出る。
「わっ、廊下も案外広いのですね!」
大人四人くらい、余裕で並んで通れそうな広さだ。おそらく、第二遠征部隊の騎士舎より広い。
私達の部屋の真向かいにも、もう一つ部屋がある。車内はかなりの大きさなのだろう。
何両かの客席を抜け、最初にたどり着いたのは魔石列車の売店車両だ。さまざまなお店がある。
通路側にガラスケースが見えるようになっており、中に商品が並んでいる。対面するように鎮座している店員さんにアレコレと注文する仕組みらしい。魔石列車の中にある、市場みたいなものか。
店員は人ではなく――。
『イラッシャーイ!』
『焼キタテパン、オイシイヨ!』
『防寒服ハ、イカガー?』
妖精族が店番をしていた。リスにクマ、ウサギと、二足歩行をする愛らしい妖精さん達である。
「ここは、いったい!?」
「国で保護していた妖精族に、働く場所を与えたみたい」
「そうだったのですね」
幻獣保護局のような、妖精を保護する施設が他国にもあり、国の要請を受けて働く場を提供しているらしい。
「妖精保護管理局ですか。いったい、どんな集団なんでしょうか?」
「どうでしょうね? まあ、うちの幻獣保護局よりは、穏便な活動をしていると思うわ」
アメリアを連れ帰ったときの、幻獣保護局の手荒なお迎えを思い出してしまった。
今ではリヒテンベルガー家の親子とは深い付き合いをしていて、なくてはならない存在である。
取り返しがつかないような事態になっても、その後の対応次第で関係は修復できるのだなと、しみじみ感じていた。
それはそうと、売っている食べ物がどれもこれもおいしそうだ。
アルブムは遠慮気味にニクスの隙間から顔を覗かせ、目を輝かせている。
「お菓子に、パン、服に雑貨、なんでも売っているのですね!」
「魔石列車に乗って、遠征に行きたかったわ」
「本当に」
今のところ、騎士隊の任務で魔石列車を使う予定はないらしい。あくまでも、一般客を優先的に乗せる乗り物なのだとか。
「でも、路線が拡大したり、魔石列車の数が増えてきたりしたら、騎士隊での運用も始まるかもしれないわね」
「商人も、品物の運搬に使えたら、便利でしょうね」
「そうね」
魔石列車が開発された国では、馬車はまったく走っておらず、代わりに魔石を使った乗り物が多く行き交っているらしい。いったいどんな街並みなのか、想像できない。
「かの国の魔法文化は、うちの国より百五十年は進んでいると聞いたわ」
「そんなに進んでいるのですね」
「ええ。生活を豊かにする魔技巧品が、普及しているらしいの」
「へえ、そうなんですねー」
私達の身近な便利用品だと、着火用や灯り用の魔石があるくらいだ。あとは、魔石保冷庫くらいか。
それ以外にも、自動洗濯機や、乾燥機、掃除機など、生活を豊かにする魔技巧品が多く出回っているらしい。
それらがあまり輸入してこないのは、国内の生産だけでいっぱいいっぱいだからだそうな。
魔石列車は、外交官が何年もかけて交渉し、勝ち得た物らしい。すばらしい品を造ってくれて、ありがとうとお伝えしたい。
売店車両を通り過ぎた先は、喫茶車両だった。車両の両端にテーブルと椅子が置かれており、飲食できるようになっている。
まだ出発したばかりだからか、あまり客はいない。
エプロンドレスをまとったリスの妖精が、よちよち歩いてやってくる。
『いらっしゃいませ。こちらの喫茶をご利用でしょうか?』
「ええ」
『三名様ですね』
さりげなく、アルブムが自分もいると主張していたようだ。逆にニクスは、目を閉じて気配を消している。アルブムとニクス、対照的すぎて笑ってしまった。
席につくと、メニューとお水が渡される。
メニューを開くと、たくさんのお菓子とお茶が書かれていた。
「あー、どうしましょう。迷いますね」
「三日間あるから、毎日通いましょう」
「そうですね!」
私はひとまず、冬苺パフェと、薬草茶にした。ザラさんは焼きたてスコーンセットと紅茶を頼む。アルブムは特大プリンパフェとクリームソーダを頼む。
『それでは、しばしお待ちを』
リス妖精はペコリと会釈し、踵を返す。くるっと巻いたふわふわの尻尾を、ゆらゆら揺らしながら、調理場に注文を伝えに行った。
「アルブム、特大プリンパフェって、一人で食べられるのですか?」
メニューには、三、四名用と書かれていたのだ。まさかこれに挑戦するとは、思いもしなかった。
『大丈夫ダヨオ』
まあ、アルブムが食べ物を残すなんてことは一度もなかった。きっと大丈夫なのだろう。
「そういえば、アルブムはニクスから、粉雪の話を聞いたのですか?」
『ウウン、違ウヨ』
アルブムはザラさんを指差す。
「ザラさんとアルブムの組み合わせって、なんか新鮮ですね」
『酒ノ供ヲ、シテイルンダヨ』
「ザラさん、本当ですか?」
「ええ、まあ。たまにね」
驚いたことに、週に一度くらいの頻度で、ザラさんはアルブムと酒盛りしていたようだ。
「いったい、何を話していたのですか?」
「それは――」




