リスリス、ザラの実家へ行く! その三
いつの間に、ニクスの中に飛び込んでいたのか。まったく気付かなかった。
「アルブム、どうしてついてきたのですか?」
『ソレハネエ』
背中に背負っていた唐草模様の包みを開く。中にはガラスの器と、アルブムにあげた樹液のシロップの瓶が入っていた。
『雪国ノ粉雪ニ、蜜ヲカケテ、食ベテミタクテ!』
「それだけのために、ついてくるなんて……」
安定安心の、アルブムである。
「ものすごく寒いところなんですよ。大丈夫ですか?」
アルブムは短毛で、寒さに強くはないだろう。
「帰ると音をあげても、帰れませんからね!」
『大丈夫ー! アルブムチャン、コレデモ、冬ハ、雪ノ中デ、過ゴシテキタカラ』
「たしかに、白い毛皮の生き物は、寒い地域に棲んでいることが多いですが」
アルブムを抱き上げ、ザラさんに見せる。
「ザラさん、こんな生き物、故郷にいましたか?」
「妖精ではないけれど、いたような気がするわ」
「そうなのですね」
まあ、いい。ついて来てしまったからには仕方がない。
それよりも、問題がある。
「ザラさん、アルブムの乗車賃を、払いにいかなければいけませんよね?」
「大丈夫よ。魔石列車の扉を通過できて、かつ契約している精霊、妖精の連れ込み料は無料なの」
「契約……」
アルブムの契約者は、王都にいるリヒテンベルガー侯爵だ。私ではない。
「アルブムの契約者は侯爵様なのですが、この場合、無料の対象になっているのか、いないのか……」
「そういえば、そうだったわね。アルブムはいつもメルちゃんといるものだから、つい契約しているものだと思っていたわ」
「どうしましょう」
「確認してくるわね」
「お願いします」
ザラさんを待つ間、アルブムと正座して待つ。十分ほどで、ザラさんは戻ってきた。
「メルちゃん、アルブムも、どうしたの?」
「反省のポーズです」
『勝手ニツイテキテ、ゴメンナシャイ……』
「大丈夫よ。特別乗車許可が取れたから」
アルブムに、首から提げられるような入れ物に入った乗車券が渡された。
『アルブムチャン、ココニ、イテモイイノ?』
「ええ、いいわよ」
『ヤッター!』
アルブムは乗車券を掲げるように持ち、小躍りしていた。
「ザラさん、どういう裏技を使ったのですか?」
「騎士隊の身分証を出して、アルブムがリヒテンベルガー侯爵と契約している妖精であることを伝えたの。アルブムは騎士隊に登録している妖精でしょう? それで、アルブムの身分が証明されたので、特別に許可を出してくれたみたい」
「そうだったのですね!」
「きちんと、メルちゃんがアルブムを登録していたから、許可がおりたわ」
「毎年登録の更新をするのが面倒だと思っていましたが、役に立つ日がくるとは思いませんでした。しかし、どうして魔石列車に騎士隊の名簿があるのですか?」
「それは――ごめんなさい」
「へ?」
ザラさんは、申し訳なさそうに話し始める。
「実は、魔石列車の中で事件が起きたときに、対処の手伝いをするように任されているの。だから、乗車券が取れたのよ」
「そうだったのですね」
「もちろん、私だけのお仕事だから、メルちゃんは気にしなくてもいいわ」
魔石列車には一両につき一名、私服の騎士が乗っているようだ。
「たしかに、傷害事件が起きたときに、一般人だけだとどうにもできないですよね」
「ええ。重大な事件が起きた場合に、他にも騎士が乗車していないか、調べられる機能がついた、魔法仕掛けの名簿らしいわ」
「な、なるほど!」
一応、常駐の騎士もいる。用心には用心を重ねているようだ。
「ごめんなさいね。旅行気分が薄れてしまうと思って、もう少ししてから言おうと思っていたのだけれど」
「いえ、大丈夫です」
アルブムが乗っていても問題ないとのことで、ホッとした。
「メルちゃん、魔石列車の車内、すごかったわ。探検に行きましょう」
「そうですね」
「レストランは、昼間は喫茶店になっていて、お茶とお菓子が楽しめるらしいのよ」
「わー、楽しみです!」
車内は寒くないようなので、外套は脱いでおく。
『ア、アノー』
「なんですか、アルブム?」
『アルブムチャンモー、オ茶ヲー、ゴ一緒シテモ、イイデショウカ?』
「もちろんですよ」
『ヤッター! デハナクテ、アリガトウ、ゴザイマスー』
なんだ、その、丁寧な言葉遣いは。勝手に乗車したことへの反省を、見せているのだろうか。
まあ、いい。何はともあれ、車内の探検が始まった。




