リスリス、ザラの実家へ行く! その二
『クエクエ、クエー!』
アメリアが叫ぶ。ザラさんのご家族へのお土産を、忘れている、と。
「わー! 大変な物を忘れていました」
ステラが袋を咥えて、持ってきてくれた。
「ステラ、ありがとうございます」
よしよしと撫でてあげると、ステラは目を細めつつ尻尾を振る。
完璧な荷造りをしていたと思っていたのに、抜けがあったようだ。
アメリアがニクスの中に頭を突っ込み、荷物の確認をしてくれる。
『クエ、クエクエ、クエ!』
アメリアの指示を聞いたステラが走る。持ってきてくれたのは、リボンやペンダントが入った箱だった。
「あ、これも必要でしたね! アメリア、ありがとうございます」
『クエ~~……』
アメリアは心配そうに私を見つめる。そして、「小さくなってついて行って、面倒を見たいけれど……」などと言ってくれた。
小さなアメリアを世話したのは私だったが、今では完璧に立場が逆転していた。たまに、アメリアを「お母さん」と呼んでしまうときもあるくらいだ。
エスメラルダが優雅にやってきて、出発前にブラッシングをさせてあげると上から目線で言ってきた。
素直に、「ブラッシングして」と言えばいいものを。まあ、こういうツンツンしているところが、可愛いのだけれど。
ルーチェもやってきたが、瓶詰めの砂糖煮込みを食べてもいいか聞きにきただけだった。
重たかったからか、ころころと転がして持ってきた。
「ルーチェ、私はこれから十日間ほどザラさんの実家に行って留守をしますが、良い子にしているのですよ」
何度も伝えたが、念のためもう一度言っておく。
ルーチェは瓶詰めをぎゅっと抱きしめながら、ぐっと親指を立てて見せた。
そんな仕草、誰から教えてもらったのやら……。
そうこうしていたら、ザラさんがやってくる。
「メルちゃん、大丈夫? もうそろそろ、出発の時間だけれど」
「あ、はい!」
我が家で働いている使用人兼、幻獣保護局の局員に、みんなを頼むとお願いしておいた。
アメリア達とは、ここでお別れである。
「では、行ってきますねー!」
『クエクエー!』
見送りを受けつつ、出発となった。
魔石列車の出発駅は、王都の郊外にある。旧エヴァハルト邸から、馬車で二十分くらいか。立派な駅舎が見えた。
「わー、あんなものを、作っていたのですね」
「驚きよね」
この辺りは、遠征任務で通りかからなかったので、駅舎が建設されているなんて知らなかった。
駅には、大勢の人達がひしめきあっている。
「わっ、すごい!」
「乗車しないけれど、魔石列車や駅舎を見たいって層が押しかけているみたい」
「そうなんですね」
はぐれないように、ザラさんは手を繋いでくれた。
なんだか照れてしまったが、それも最初だけだった。
人込みの中でもみくちゃにされる。
せっかく綺麗に結んだ髪も、火熨斗を当てて伸ばしたシャツも、ぐしゃぐしゃだ。
駅員さんに乗車券を見せて進んだ先には、驚くほど人が少なかった。ようやくホッと胸をなで下ろす。
「やだ、メルちゃん、大丈夫!?」
「な、なんとか」
最後らへんは、ほぼザラさんにしがみつくような形で歩いていたと思う。
あそこで気後れしていたら、人並みにのみ込まれていただろう。
恐るべし、人の好奇心。
「メルちゃん、あれが、魔石列車よ」
ザラさんが指差した先にあったのは、見たことがないくらいの細長く巨大な物体。あまりの大きさに、驚いてしまう。
「あれが、魔石列車!?」
「ええ、そうよ」
なんと言えばいいものか。
なんせ、初めて見る物である。どう言葉で表していいものか、わからない。
「私達の部屋は、こっちよ」
「へ、部屋、ですか?」
「ええ。三日もかかるから、寝泊まりしなければいけないでしょう? 寝台列車って言うんですって」
「魔石列車の中に、寝台があるのですね」
「ええ」
魔石列車の車両には番号が書かれていて、一つ一つ出入り口がついている。
「これが、私達が三日間過ごす部屋ね」
乗車券にある魔法陣を扉にかざすと、自動で開いた。
「メルちゃん、どうぞ」
「私が先で、いいのですか?」
「ええ、もちろん」
お言葉に甘えて、魔石列車の中へと足を踏み入れる。
「わ……わあ!」
内部は思っていた以上に広い。
二段に重なった寝台に、テーブルに椅子、茶器が置かれた円卓に、食器が入ったちょっとした棚もある。
「ザラさん、すごいです! 見てください」
「あら、素敵なお部屋ね」
テーブルには、魔石列車の内部を案内する冊子があった。
「共同風呂に、レストラン、売店まであるんですね!」
「ええ。ここで生活するのに必要な施設は、一通りあるみたい」
なんとなく、椅子の上で寝泊まりするものだと想像していた。
まさか、こんな宿屋みたいな素敵なお部屋で過ごせるなんて。
「もう、動くみたいね」
「ドキドキします!」
窓の外の景色が、動き始める。
駅舎を通り過ぎ、だんだんと森が見えてきた。
「綺麗……!」
「本当に」
と、景色に見とれていたのは、ほんのちょっとだった。
「あ、ザラさん。お茶菓子がありますよ。これ、食べていいんですよね?」
「もちろん」
『ヤッター!!』
謎の叫びと共にニクスから飛び出してきたのは――。
「アルブム!?」




