リスリス、ザラの実家へ行く! その一
とある日の午後――ザラさんに話があるといって呼び出される。
いったいなんの話かと思っていたら、驚くべき提案を受けた。
「あのね、メルちゃん、私の実家に、来てほしいの」
「ザラさんのご実家に、ですか!?」
「ええ」
なんでも、これまでザラさんの実家がある雪の地方から王都との行き来に、陸路で一週間ほどかかっていた。
それが、十年間ほど開発していた魔石列車が開通したおかげで、三日で行けるようになったらしい。
「そうなんですね! でも、往復で六日、滞在を考えたら一週間以上もお休みすることになるのですが、大丈夫でしょうか?」
「今度、クロウが新人騎士の指導で、一ヶ月ほど遠征部隊を抜けるらしいの。その間だったら、お休みも取れると思うのだけれど」
「だったら、お願いしてみます。しかし、魔石列車ですかー。どんなものなのか、まったく想像もつきません」
「なんでも、山の上や、川、海の上まで走っちゃうものらしいわ。異国の、天才魔技工師が作ったみたいなの」
「世の中には、想像もつかないような天才がいるんですね」
「本当に」
ここで、ザラさんが二枚のチケットを取り出す。
「実は、チケットはすでに取っているのよ」
「そうだったのですね!
隊長、許してくれるでしょうか?」
「大丈夫よ、きっと」
そんなわけで、翌日、隊長に旅行の許可を取ることとなった。
「ルードティンク隊長、ちょっと、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ん、なんだ?」
「ザラさんの実家に誘われまして、十日ほど、お休みをいただきたいのですが」
「おー、行ってこいって、ザラの実家、馬車で一週間くらいかかる場所だろうが。十日じゃ行って、帰ってこれるわけがない」
「ザラさんが、魔石列車の乗車券を取ってくれたらしいです」
「は!? 魔石列車だと!?」
私がザラさんの実家に行く話よりも、魔石列車の話に食いつく。
「魔石列車の乗車券って、一年前に予約が始まって、死ぬほど長い行列に並んでも買えない人が多数いたような、超絶稀少なチケットを持っているだと!?」
「みたいです」
「信じられないな……」
「ザラさん、頑張って取ってくれたのですね」
「いや、信じられないのは、一年も前にリスリスを故郷に連れて行こうとしていたザラの行動力だよ」
隊長に指摘され、驚く。言われてみればそうだ。
「あいつ、リスリスに断られたら、どうするつもりだったんだよ」
「ザラさんのお誘いを、断るわけないじゃないですか」
「だったらお前、ウルガスが実家に来てくれって言ったら、行くのか?」
「それは……行かないですね」
隊長は私の返事を聞いて、「ケッ!」と吐き捨てる。
「まあ、なんだ。気を付けて行ってこい」
「はい! ありがとうございます」
ウキウキ気分で帰宅したものの、別の問題があることに気付いた。
「そういえば、うちの子達はどうなるの!?」
帰ってきたザラさんに、幻獣も一緒につれていけるのか聞いてみたが、表情を曇らせた。
「ごめんなさい。大型の幻獣は、連れていけないわ。収容する場所が、ないの。小型の幻獣ならば、どうにかできると思うけれど。最初に伝えておくべきだったわね」
「あ、いえ……」
「あの、乗車券は、返金対応もしているから、大丈夫!」
「え!?」
なんとザラさんは、私がみんなと一緒でなければ行かないと言った場合、超絶貴重な魔石列車の乗車券を返してしまうという。
「あの、ちょっと待ってください。みんなに、お留守番ができるか、聞いてみますので」
「いいの?」
「はい」
そんなわけで、みんなを集めて話をしてみた。
「えー、そんなわけで、ザラさんの実家に行くことになったのですが、その、大型幻獣は、魔石列車に乗れないようで……」
『クエクエクエ、クエー』
アメリアはあっけらかんと言う。自分達のことは気にしなくてもいいから、二人っきりで旅を楽しんでくればいいと。
ステラはコクコクと頷き、エスメラルダも行ってらっしゃいと尻尾を振っている。
ルーチェも、いい子にしているねー! と明るく返していた。
大型魔物ではないのに、留守番する気らしい。やはり、姉達と一緒のほうがいいのか。
ニクスだけは、『一緒につれていってねん』と主張していた。ザラさんの故郷のサラサラな雪を口に含んでみたいらしい。
サラサラな雪とは、なんなのか。非常に気になる。
何はともあれ、心配はいらないので、気を付けて行くようにアメリアに言われた。
「みんな……ありがとう!」
そんなわけで、ザラさんとの二人旅が決定した。
魔石列車での移動は、どんなものなのか。とっても楽しみだ。




