ウルガスとミルのデート~アルブムを添えて~
ウルガス青年は地面に座り込み、青空を見上げため息をつく。
悩みが尽きないお年頃なのだ。
そんなウルガスの脇を、アルブムが通りかかった。
ウルガスはメルが舎弟のように可愛がっている男である。何か困っているように見えたので、声をかけてやることにした。
『ドウシタノ?』
「アルブムチャンさん……いえ、ちょっと、個人的なことで、悩んでいまして」
やはり、困っているようだ。アルブムはウルガスの隣に座り、悩みを聞いてあげることにした。
『アルブムチャンサンニ、話シテゴランヨ』
「アルブムチャンさん!!」
ウルガスの悩みとは、若者特有のものだった。
「実は、ミルさん――あ、リスリス衛生兵の妹さんなんですけれど、そのミルさんと、今度、デ……デートに、行くことに、なりまして」
『アー、パンケーキノ妹ネ! ヘー、ソッカ。ヨカッタジャン!』
「あ、はい。ありがとうございます」
ミル・リスリス、十五歳。メルの妹で、魔法の才能溢れる魔法騎士である。
現在、第三特殊任務小隊という、少数精鋭部隊に所属している。いわば、エリート騎士なのだ。
この前お見合いパーティーで偶然出会い、勇気を振り絞って遊びに行く約束を取り付けたのだという。
酒を飲んでいたので、気分も大きくなり、勢い余って、という感じだったらしい。
一応、ミルの保護者であるメルにも、了解を取っている。家族公認デートなのだ。
「誘って了承してもらったあとは、大いに喜んでいたのですが、日にちが近くなるにつれて、不安になりまして」
『ドウシテ?』
ウルガスはひときわ深刻な表情になり、アルブムに訴える。
「俺、女性とデートに、行ったことがないんです!! それで、どこに連れて行ったらいいのか、ちんぷんかんぷんで!!」
『アー、ソウ。ソウイウ、悩ミネ』
「ちなみに、リスリス衛生兵とアートさんは、どこにデートに行っているのでしょうか?」
『アノ二人ハネエ――』
手芸店を数軒巡り、骨董市を隅から隅まで見て回って、市場で食材を買う。そして、帰って一緒に料理をする、というのがだいたいの流れである。
「なるほど。リスリス衛生兵とアートさんのデートは、あまり、参考にならないですね」
『ソウダネ。デモ、ヒントハアルヨ』
「ヒント、ですか?」
『二人ガ、好キナコト!』
ウルガスとミルにも、共通している好きなことがあるのではないか。アルブムはウルガスに指摘した。
「あ、あります! 俺もミルさんも、食べるのが、好きです!」
『ダッタラ、市場ノ屋台通リニデモ、食ベ歩キニ、行ケバイイジャン』
「そうでした!」
そんなわけで、ウルガスのデート問題は、アルブムの助言で解決した。
「あの、よろしかったらなんですが、アルブムチャンさん、一緒に、デートに来てくれませんか?」
『エエ、デートダカラ、アルブムチャン、行ッタラ、ダメジャン』
「ミルさんも、アルブムチャンさんがいたら、安心するかもしれませんし」
遠慮をしていたものの、「一緒においしいものを食べましょうよ」と言われたら、アルブムは頷いていた。
◇◇◇
デート当日を迎える。
ウルガスは詰め襟のセーターに黒い革ズボン、ブーツを合わせ、上から裾の長いジャケットを羽織った姿で現れる。これらは、ザラのコーディネートらしい。いつもより、垢抜けて見える。
アルブムは襟巻きの振りをして、ウルガスの首に巻きついていた。
集合時間十分前に、騎士隊の門の前にたどり着く。
場所が悪かったようで、知り合いの騎士にさんざんからかわれてしまった。
時間ぴったりにミルがやってくると、騎士達の目の色が変わる。
途端に、「羨ましい!」、「ウルガスのくせに!」という視線を向けていた。
今日のミルは、特別可愛かった。
清楚かつ上品な、シフォン生地のワンピースに、フェルトのコートを合わせていた。
髪型は、三つ編みをクラウン状に巻いた、愛らしいものである。
周囲の関係ない人には目もくれず、満面の笑みを浮かべて声をかけた。
「ジュン君、お待たせ! 待った?」
「いいえ、ぜんぜん」
「よかった。さ、行こう!」
「あ、はい!」
ウルガスは何も考えずに手を差し出してしまった。それを、ミルはぎゅっと握る。
そんな二人の様子を、アルブムは見守っていた。
「あれ、アルブムちゃんもいたんだ!」
『アーウン、チョット、ソコデ、会ッテ、ネ』
「そっか! おいしいもの、たくさん食べようね!」
ミルも、メル同様いい人である。
食べることが好きな人に、悪い人はいない。アルブムはそう確信していた。
市場の屋台通りに到着すると、さっそくミルは屋台の料理に食いついた。
「ジュン君、見て、熟成肉の串焼きだって! 絶対おいしいやつ!」
「食べましょう」
さっそく、熟成肉を三本注文する。頼んでから、焼いていくスタイルのようだ。
「焼き加減はどうする?」
『アルブムチャンハネエ、赤身ガチョコット、残ル程度デ!』
「私も!」
ウルガスはお腹が弱いので、しっかり焼いてくれるように頼んだ。
ソースに付け、炭火で焼かれる。
おいしそうな匂いが、漂う煙に乗って運ばれてきた。
「おまたせ!」
『ワーイ!!』
アルブムはウルガスの肩の上で、熟成串焼き肉を食べる。アツアツの肉を、頬張った。
驚くほど、肉質は柔らかい。加えて、肉汁がジュワッとあふれてきた。ソースはスパイシーで、肉汁と混ざり合って極上の味わいとなる。
脂身は甘く、いつまでも口の中で噛んでいたいほどだった。
「わー、これ、おいしい! 幸せ!」
「はい!」
アルブムだけでなく、ウルガスやミルも楽しそうに食べていた。
そのあとも、スープに肉団子、肉饅頭と食べ歩きを続ける。
二人の雰囲気は、いい感じだ。
『アー、ソノ、アルブムチャンハ、オ腹、イッパイニナッタカラ、帰ルネ!』
「もう、いいのですか?」
『ウン、アリガトウ』
あとは若い二人の世界を楽しんでほしい。そう思いながら、アルブムはウルガスの肩から降りる。
ミルは最後に、アルブムに声をかけた。
「アルブムちゃん、また、一緒に食べ歩きに行こうね!」
その言葉に、なんだか瞳がウルウルしてしまう。
人の優しさに触れ、アルブムの心は温かくなったのだった。




