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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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ウルガスの深刻な悩み 前編

 ある日の午後、ウルガスが「話があるんです……!」と深刻な表情で訴えてきた。

 私だけでなく、ザラさんにも聞いてもらいたいらしい。

 あまりにも思い悩んでいるので、家に招くことにした。


「ジュン、何があったのかしらね」

「ええ、心配です」


 ちょっとでも元気になるよう、料理を振る舞うことにした。

 ウルガスといったら、肉料理だ。どんなに遠征任務が大変でも、お肉を食べさせておけばたちまち元気になっていた。

 ザラさんと一緒に、肉料理を作る。

 私は肉だんごの中にチーズを入れて揚げ、赤瓜ソースで煮込む料理を作ってみた。

 もうひと品は、肉だんご作りに余ったひき肉を、中身をくり抜いた玉葱に詰めて深皿に入れて蒸し、最後にコンソメスープを注ぐ。上からチーズを振りかけ、かまどで焼いた玉葱スープグラタンを完成させる。

 ザラさんは、丸ごとの鳥にごはんを詰めて焼く料理を作っているようだ。なんだか、おいしそうな匂いがする。


 台所の端に、アルブムとルーチェが揃って座っていた。

 いつもだったら、ルーチェは私の周囲をうろうろしているのに。いったい、どうしたのか。


『イイ子ニシテイタラ、ワケテモラエルンダヨオ』

『きゅう~~!!』


 何やら、アルブムがいろいろ吹き込んでいるようだ。

 厨房以外では、エスメラルダがいろいろ生活指導してくれている。

 眠るときは、アメリアとステラが寝かしつけてくれるし。

 ニクスも、たまに遊び相手になってくれる。

 アルブムはご覧の通りだし、

 うちの子達、面倒見が良すぎないか。

 正確に言えば、アルブムはうちの子ではないのだが。


 そうこうしているうちに、料理が完成する。

 手押し車に載せて、客間食堂へと料理を運んだ。

 その五分後に、ウルガスがやってくる。

 出迎えると、目の下にクマを作ったウルガスが、切なげに微笑んでいた。

 いったい、どうしたというのか。

 悩みは深刻に見える。


「あ――ウルガス、今日は、肉料理を作ったので、たくさん召し上がってくださいね」

「に、肉料理ですか!? 嬉しいです!!」


 やっぱり、ウルガスは肉料理で元気になるようだ。ホッとしつつ、客間食堂へと連れて行った。


 ウルガスは肉料理を前に、満面の笑みを浮かべていた。


「うわー、すっごくおいしそうですね。こんなご馳走、どうしたんですか?」

「あ、いや、たまには、ぱーっと豪華な食事を作るのもいいかなって。ね、ねえ、ザラさん?」

「ええ。腕が鳴ったわ。たくさん食べてちょうだい」

「ありがとうございます!!」


 肉だんごのワイン煮込みは、鍋ごと持ってきてしまった。一方で、ザラさんは鳥の丸焼きを美しく盛り付けている。

 丁寧に切り分けた野菜に、白鳥を模った森林檎も添えられている。

 ザラさんは丸焼きを丁寧に切り分け、配ってくれた。

 いい子にしているアルブムとルーチェの分も、もちろん忘れない。

 ザラさんが盛り付けた丸焼きの隣に、肉だんごを載せた。


「お、おおおお!!」


 ウルガスは頬を赤く染めながら、喜んでいる。


「さあ、召し上がれ」

「いただきます!!」


 まず、私が作った肉だんごを頬張っていた。一口で食べたが、中からチーズが出てきて驚いたのだろう。口元を押さえ、瞳をキラキラと輝かせていた。

 こんなに喜んでくれるのならば、作った甲斐があるというもの。


「アートさんの作った鳥の丸焼きも、皮がパリパリで、お肉は柔らかくジューシーで、中に詰まったごはんが、鳥の肉汁をこれでもかと吸い込んでいて、なんていうか、最高です」

「お口に合ったようで、何よりだわ」


 アルブムとルーチェは、無言でパクパク食べていた。言葉もなく食べ続けているというのは、おいしいという証拠だろう。


 玉葱スープグラタンも、ペロリと完食していた。

 ザラさんは、食後の甘味も作っていた。冬苺を使ったムースである。

 真ん中に甘酸っぱい苺ソースが挟んであって、飽きることなく食べてしまう。

 あまりのおいしさに、ウルガスと共に「お店の味~~」という、語彙力低めの感想を言い合った。 


 食後の薬草茶を飲んでまったりしているところに、本題へと移った。


「ウルガス、そういえば、話ってなんだったのですか?」

「そ、それは――」


 ウルガスは俯き、しばらく押し黙る。


「ジュン、なんでも言っていいのよ。喋ったら、気が楽になるときもあるし」

「アートさん。ありがとうございます。実は、これについて悩んでいて!」


 ウルガスが出したのは、一枚の紙切れだった。


「第七十二回、お見合いパーティー?」

「はい。これに、参加をしたいのですが知り合いの女性の同伴が条件でして」


 ザラさんはすぐさまウルガスに言葉を返す。


「ジュン、メルちゃんはダメよ!!」

「あ、いえ! 違うんです。あの、ものすごく申し上げにくいのですが、その、女装したアートさんに、同行してもらえたらな、と」

「わ、私!?」


 驚いた。まさかの、同伴者はザラさん、である。

 なんでも、ザラさんは好意を寄せてきた相手へのあしらい方を熟知しているから、ぜひとも同行を頼みたいと。


「こういうパーティーにお誘いするにあたって、リスリス衛生兵に聞いたほうがいいかなと思いまして」

「いや、その前に、ザラさんは男性なんだけれど?」

「アートさんなら、バレないと思いまして」


 それでいいのか、お見合いパーティー。

 ウルガスは小さな声で主張する。恋人が、ほしいと。


「でも、喋ったら、私が男だとバレるのでは?」

「そこは、リスリス衛生兵がアートさんに同行してもらって、喉が腫れていて喋られないので、通訳的な感じで繋いでもらうのはどうでしょうか?」

「そうね。メルちゃんと一緒だったら、まあ、いいかしら。メルちゃんはどう?」

「私も、ザラさんが一緒だったら、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます!!」


 ウルガスの悩みは、解決した。

 というか、そんなことで悩んでいたのか。

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