ヤキトリピクニック!前編
本日は晴天。
ミルと一緒に、庭いじりを行う。
竜の子のルーチェを背中に背負い、作業をしていた。
「お姉ちゃん、なんか、土を触っていると癒やされるよね~」
「わかる~」
フォレ・エルフの習性なのだろうか。
実家の庭でも、家庭菜園として野菜を数種類育てていた。
そういえば、ミルはよく野菜のお世話を手伝ってくれたような気がする。
「お腹空いたとき、家庭菜園の野菜を囓っていたんだよね」
「嘘……! あれ、ミルの仕業だったんだ。てっきり、野生動物の仕業とばかり!」
「えへへ」
「動物にしては、毎回きれいに食べるなとは思っていたけれど」
「ごめんなさい。なるべく、虫食いしていたり、割れていたりするものを食べるようにしていたんだけれど」
「育ち盛りの食欲ってすごい……!」
そんなことを話していたら、アルブムがやってくる。
『何、何~? 食ベ物ノ、話?』
「かつての私が盗み食いをしていた話だよ」
『アー、ソウナンダ』
食べ物が関係ないと知るやいなや、アルブムはしょんぼりと肩を落とす。
しかし、これで終わってはアルブムではない。
『ネエ、パンケーキノ娘~、今日ノ、オヤツハ、何~?』
安定安心のアルブムであった。
花壇の雑草をプチプチ抜いていると、大きな影が近づく。
アリタに跨がったシエル様だ。私達の前で停まり、話しかけてくる。
「あ、シエル様、アリタ、コメルヴも、お帰りなさい」
「ふむ、ただいま戻った」
アリタは明るく『ただいま~!』と言い、コメルヴはサッと片手を挙げて応じる。
「突然だがリスリスよ、コロムク鳥を食べたことはあるか?」
「コロムク鳥ですか? 初めて知りました」
「えー、お姉ちゃん、コロムク鳥知らないのー!? 王都の美食家の間で話題になっている、超、超稀少な鳥なんだよ!」
名前の通り、コロコロムクムクした鳥で、皮から肉から、驚くほどおいしいのだという。
シエル様は食べたことがないらしく、非常に興味があるようだ。
「中でも、砂糖と大豆ソースのタレを塗って作った『ヤキトリ』という料理は、絶品らしい」
「ヤキトリ、ですか」
「ああ。勇者が好んだ、異世界料理らしい。そのヤキトリは、コロムク鳥で作るのがもっともおいしいという」
「そうなのですね」
なんでも、コロムク鳥は今が旬らしい。
「よかったら、次の休日に、コロムク鳥狩りに行かぬか?」
「あ、いいですね!」
「私も行きた~い!」
『アルブムチャンモ!』
「では、共に行こうぞ」
そんなわけで、シエル様とコロムク鳥狩りに出かけることとなった。
◇◇◇
コロムク鳥狩り当日――屋敷の前に集合となる。
竜の子も連れて行くからか、珍しくエスメラルダが同行すると言ってきた。
エスメラルダが行くというので、心配してアメリアやステラも同行するという。
なんだろうか、この姉妹愛は……!
でも、なんだかわかる気がする。私もミルが心配で、森に薬草摘みに行くと言った日は同行することも多かった。
そんなミルも、今やすっかり一人前である。私よりも、しっかりしているだろう。
遠くから、誰かが走ってきた。
「あ、ウルガス君だ!」
「すみませ~ん、遅くなりました」
走ってやってきたのは、ウルガスである。第二部隊の皆も誘ったのだが、予定が空いていたのはウルガスだけだったのだ。
「やっぱり、狩猟といったらウルガス君だよね。なんか、安心する~」
ミルがそんなことを言うと、ウルガスは満更でもない様子だった。
「あ、アイスコレッタ卿はまだなんですね」
「はい。もうすぐ来るはずですよ」
ウルガスとそんな話をしていたら、シエル様が現れた。
アリタは実家に帰っているので、今回はシエル様だけである。アリタがいないからか、コメルヴは少しだけ寂しそうだった。
「待たせたな」
「いえ、たった今、全員揃ったところです」
「そうか」
なんとシエル様は、私達が仕事をしている間に、コロムク鳥の生息している場所まで下見に行ったようだ。けれど、発見には至らなかったらしい。
「今日も、いるかどうか」
「ピクニックだと思って、楽しみましょうよ」
なんとなく、鳥を食べる口になっているので、ニクスの中に鳥肉を忍ばせてある。これで、ヤキトリを作ってもいいだろう。
「では、行くぞ!」
「は~い!」
シエル様が下見をしてくれたので、移動は転移魔法で一瞬だ。
魔法陣が浮かび上がると、背中に背負っているルーチェがジタバタと動き始める。
『キュイ~~!』
高濃度の魔力の流れに、興奮しているのか。
『キュイ、キュイ!』
「むっ、しまっ――」
シエル様の声を最後に、転移魔法が発動する。
光に包まれ、降り立った先は、とんでもない場所だった。
鬱蒼とした山の斜面に、着地する。
私はミルを抱きしめた状態で、倒れ込んだ。
周囲にいるのは、ウルガスとエスメラルダ。背中には、ルーチェの温もりを感じる。
シエル様や、アメリア、ステラの姿はない。
代わりに、見知らぬ男達がいた。
「ああん、なんだ、お前らは?」
欠片も友好的ではなく、敵意剥き出しの声色だった。
私達を睨みつけるのは、顔に傷がある者、眼帯を付けた者、裸に毛皮の服を纏った者など。
彼らは、善良な者ではないだろう。なんていうか、こう、私達を値踏みするような視線を向けていた。
そんな状況で、私の隣にいたウルガスが叫んだ。
「ほ、本物の、山賊だー!!」
なんだ、本物の山賊とは。
普段、偽物の山賊が近くにいるみたいではないか。




