最終決戦! その二十七
やっとのことで、邪龍討伐へ向かう。
幻獣組は鼠妖精の村に置いてきた。アメリアやステラは、心配してついてくると言った。けれど、幻獣は邪龍の魔力の影響を受けやすいとリーゼロッテやリヒテンベルガー侯爵が話していたので、連れていかない判断を下したのだ。
エスメラルダは、行ってらっしゃいと見送ってくれた。アメリアは拗ね、ステラは傍で励ましているのだろう。
帰ってきてから、ご機嫌取りをしなくては。
メルヴも、お留守番組である。世界樹と繋がっていないからか、少々ぐったりしているように見えたからだ。
出発してすぐに、連れて来なくてよかったと確信する。
皆の空気が、重かった。お葬式に向かうときでも、こんなに重たくないだろう。
襟巻きにしているアルブムに、声をかけた。
「アルブム、なんだか空気がよくないので、歌でも歌って明るくしてください」
『エ~、アルブムチャンノ歌ハ~、“ヒラメキ”ダカラ~、突然、言ワレテモ~』
なんか、芸術家みたいな発言をしている。
「何か即興で、思いつかないのですか?」
『無理~』
「おい、リスリス、暢気にしゃべってるんじゃないぞ」
「あ、はい……」
ルードティンク隊長に、注意されてしまった。
鼠妖精の村から一時間歩いた先にある森に、到着した。
鬱蒼としていて、空気が嫌な感じに震えているような。まだ中に入っていないというのに、若干の息苦しさも感じていた。
隣を歩くミルは、平然としている。ランスもだ。同じ、フォレ・エルフとは思えない。
おそらく、私は彼らと違って繊細なのだろう。そう、思うことにした。
森に入る前に、シエル様が私達を振り返り、問いかけた。
「ここから先、邪龍がいる森となっている。魔物も、その辺にいるものと違い、強力だろう。少しでも、具合が悪い者は、戻ったほうがよい」
シエル様は皆の顔をひとりひとり見る。
私も、見てくれた。大丈夫ですと頷くと、頷き返してくれた。肩に乗っているコメルヴが、「頑張れよ~」と言わんばかりに、手を振ってくれる。
シエル様を先頭に、一行は進んでいく。私は最初から、アリタに騎乗させてもらっていた。
「アリタ、重たくないですか?」
『リスリスちゃんくらいだったら、ぜんぜん平気だよ』
アリタ、いい奴……。そんなことを、しみじみ思ってしまう。
『家を造る時は、リスリスちゃんより大きな岩を抱えて歩くときもあるし』
「そ、そうなのですね」
細身の体だが、力持ちのようだ。
一歩、一歩と進み始める。
大人数の一行となっているため、先頭を歩くシエル様の背中は遠い。
けれど、ものすごい気迫が伝わってくる。
魔物もそれを感じているのだろうか。何かいる気配は感じるが、襲いかかってこない。
途中で、休憩を取ることにする。まだ、先は長いらしい。
小腹も減ったので、張り切って料理を作らせていただく。
鍋や食材、調味料は鼠妖精がわけてくれた。ありがたく、調理させていただく。
シエル様に食べさせてくれと、鳥を一羽まるごといただいていたのだ。
それに、下味を付けたキノコや豆の水煮、玉葱、人参などの野菜を詰め込んで、鍋で煮込む。しっかり味付けをして、ぐつぐつ煮込んだら、『丸鳥スープ』は仕上がる。けれどまだ、食べられる状態ではない。
これは一度中の鳥をナイフで削いでから、お皿に取り分けるのだ。
「メルちゃん、手伝いましょうか?」
「ザラさん。ありがとうございます」
ザラさんは器用に、鳥肉を切り分けてくれる。裂いた鳥の背中から、じっくり煮込まれてくたくたになった野菜がでてくる。これらも、スープのアクセントとなるのだ。さらに、味が深まることだろう。
鼠妖精の村で作られているパンは、とっても小さくて可愛い。一人十個は食べるだろうからと、大量に分けてくれた。おかげで、ニクスの中はパンでいっぱいだった。
「メルちゃん、こんなものかしら」
「はい! ありがとうございます」
鳥を解体すると、スープの色合いはさらに白濁する。おいしさが深まった証拠だ。
「みなさーん! 食事の準備ができましたよー!」
大きな鍋を、皆で取り囲む。
まずは、シエル様がスープを飲んだ。
「ふむ、おいしい。なんだか、ホッとする味わいだ」
先ほどまで厳しい声色だったが、いつもの優しいシエル様の声になってホッとした。
皆の空気も、柔らかくなったような気がする。
「不思議ね。メルちゃんのスープを飲んでいたら、気持ちがとっても落ち着くの」
「よかったです」
ザラさんも、張り詰めていた表情が、和らいだ。きっと、いいことなのだろう。
極度の緊張は、集中の足を引っ張るだろうから。
「さすが、メルちゃんの遠征ごはんだわ。私達はいつも、助けられていたの」
「ザラさん……」
見つめ合っていたら、隊長が「ごっほん!」と咳払いする。
「いちゃつくのは、任務が終わってからにしろ」
「い、いちゃついていません!」
妹やランスもいるのに、隊長は何を言っているのか。
脱力したまま、再び出発となる。




