最終決戦! その二十六
祝! シエル様大復活!
やった~~!! と、喜んでいられるひとときも一瞬である。
問題は、欠片も解決していない。一刻も早く、邪龍を倒さなければならないだろう。
シエル様は、事情を話し始める。
鼠妖精が平和に暮らす森に、邪龍が降り立ったらしい。
どうやら、先生の結界から逃れ、外敵がいないであろうこの地を選んだのだとか。
現在、鼠妖精達に直接の被害はないらしい。しかし、森の汚染が始まっているという。
このまま邪龍が居続ければ、この地は木々は枯れ、土は作物を育てず、空は濁ることが予想されるようだ。
一刻も早く、倒さなければならないだろう。
この平和な鼠妖精の村が、フォレ・エルフが召喚した邪龍のせいで滅ぶなど、あってはならないことだ。
邪龍討伐に行く前に、シエル様は話しておきたいことがあるという。
シエル様は、拳を握る。
今までにないくらい、ピンと張り詰めた空気を漂わせていた。
「皆、私を邪龍殺しの大英雄と呼んでいるが、実際のところ、私ひとりで倒したのではない。仲間達がいた。よって今回も、邪龍を倒すため、一致団結して、戦うことになるだろう」
皆、神妙な面持ちで頷いている。
「まず、注意しなければならないのは、邪龍の血である。とんでもない猛毒で、一滴付着しただけでも、悶え苦しんだ挙げ句、死することになるだろう」
あまりの恐ろしさに、膝に座っていたアルブムをぎゅっと抱きしめる。アルブムも恐ろしかったのだろう。ガタガタと震えているようだった。
「邪龍に接近するのは、私ひとりでいい。近接攻撃を行う者は、気を逸らすのに力を貸して欲しい。遠隔攻撃を行う者は、全力で攻撃を頼む」
きっと、シエル様と仲間達でも、苦戦したのだろう。話を聞かずとも、当時の悲惨な様子がなんとなくではあるものの伝わってくる。
「リスリスは、邪龍に狙われる可能性がある。それゆえ、アリタと一緒にいるとよい。邪龍も、アリタの脚力には勝てぬだろう」
「は、はい」
事前にアリタは了承していたのだろう。任せてと言わんばかりに、私に手を振ってくれた。
「事前に言っておくが、邪龍を倒したのは、私が二十を過ぎたばかりの頃。つまり、全盛期だったというわけだ。それから何十年と経った。正直、当時と同じように戦えるとは、思っていない」
それもそうだろう。シエル様が強いとはいえ、もう七十過ぎのおじいちゃんだ。
そんな御方に、邪龍討伐を頼むなんて、酷い話だろう。
しかし、シエル様以外、頼れる人がいないというのも現実である。
「もうひとつ、問題がある。私自身の体についてだ」
そういえば、邪龍の呪いがあると言っていたような。それを封じるのが、いつもまとっている鎧であると。
「実は、私の半身は、邪龍に食われてしまったのだ」
衝撃の告白に、皆、言葉を失っている。お孫さんであるリオンさんですら、知らなかったようだ。
「お祖父様、では、その半身は、魔道具か何かなのでしょうか?」
「いいや、違う。この半身は、私の魔法の師匠であり、錬金術師だった者が、禁忌の魔法を使って再生させたものなのだ」
「そ、そう、だったのですね」
現在のシエル様は、以前邪龍と戦ったときとは、異なる体である。
戦闘能力は、大きく劣っていると言う。
「加齢に、呪いに加え、造られた体……。大英雄とは、とても思えない存在だろう」
「そんなことないです。私達にとって、シエル様は、大英雄なんです!」
大英雄と呼ばれる存在は、強さだけでなく、心優しく、勇気ある者を呼ぶ。
シエル様はいつだって、私達を助け、優しく正しい道に導いてくれた。シエル様以上に、大英雄と呼ばれるに相応しい人はいないだろう。
そう訴えると、シエル様のピンと張り詰めた空気は、少しだけ和らいだ気がした。
「ありがとう、リスリス」
「いえ……」
シエル様は立ち上がり、水晶剣を引き抜く。そして、暗雲垂れ込める森の上空を指し示した。
「皆の者、邪龍討伐に出発するぞ!!」
シエル様のかけ声に、皆、頷いた。




