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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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最終決戦! その二十三

「シエル様、起きてください。『すろーらいふ』は、まだ終わっていないのでしょう?」


 大きな声で問いかけても、シエル様は反応しなかった。


『メルゥ……ダメなの。マスタ、いくら呼びかけても、反応しない』

「そ、そんな」


 コメルヴは諦めずに、ずっと語りかけていたらしい。


「そういえば、コメルヴ、アリタはどうしたのですか? もしかして、別れ別れになったのですか?」

『ううん、いるよ。一生懸命声をかけていたけれど、一時間くらいで外にでちゃった』


 なんでも、鼠妖精の畑に行き、農作業を手伝っているらしい。

 ここにいてもシエル様は目覚めないので、何か体を動かしていたほうがいいと言っていたらしい。

 なんというか、実にアリタらしい。


「ということは、アリタも鼠妖精の村にいると」

『うん』


 勇者召喚を経て、シエル様はこの村に降り立った。


「シエル様はすぐに、このような状態になったのですか?」

『ううん、違う。村長と話をしているうちに、ばったり倒れちゃったの』

「そうだったのですね」


 キイ……と、扉が開く音がした。振り返ったら、村長が立っていた。


『申し訳ありません。我々が、シエル様を召喚してしまったばかりに』

「えっと、召喚が原因で、倒れてしまったのでしょうか?」

『いえ……シエル様は降り立ったときから、調子が悪いと口にしておりました』


 毎日絶好調で最強なシエル様の、調子が悪い日があるなんて信じられない。

 王都からフォレ・エルフの森にやってくる間に、何かあったのだろうか。コメルヴに問いかける。


「あの、コメルヴ、シエル様は何か、呪いにかかるようなことはありましたか?」

『分からない』


 コメルヴは知らないと。では、リオンさんはどうだろうか。


「あの、リオンさん。シエル様が何か呪いにかかった、という話はご存じでしたか?」

「いや、そんな話は、聞いたことはない。お祖父様は、負けというものを知らないはずだ」

「で、ですよね……」


 原因は召喚でもなければ、ここに来るまでの道のりでもない。過去にも、シエル様は負け知らずだという。


 頭を抱え込んでいたら、リーゼロッテがぽつりと呟いた。


「この鎧が、呪いに関係しているのでは?」

「え!?」


 鎧が、呪われている!?

 再び、コメルヴに問いかけた。


「あの、コメルヴ。シエル様のこの鎧について、何か知っていることはありませんか?」

『コメルヴと出会ったときには、すでにこの鎧を着ていた。別に、呪われていたとか、そういう話は聞いたことがない』

「そ、そうですか」


 以前、コメルヴとの出会いは十年前だと話していた。それ以前のシエル様を知っているのは、リオンさんしかいない。


「あ、あの、リオンさん、シエル様はいつ、この鎧をまとい始めたか、覚えていますか?」

「いや……物心ついたときには、祖父はすでに全身鎧をまとっていた。素顔を見たのも、今日が初めてだ」

「な、なんとー!」


 シエル様の鎧姿はアイスコレッタ家の七不思議の一つとなっているようで、素顔を見たものはほとんどいないらしい。


「父も、見たことがないと言っていた気がする」

「そ、そうなのですね。貴重なご尊顔でしたか」


 なんとなく、手と手を合わせて拝んでしまった。


「呪いの鎧……。謎が深まりますね」

「ちょっと待って。メル、これ、鎧が呪われているわけではないわ」

「え!? どういうことですか?」

「この呪文、鎧に滲み出ているように刻まれているようなの」

「ということは、呪われているのは――」

「アイスコレッタ卿本体ね」


 シエル様を本体呼ばわりするとは……。いやいや、そんなことはさておき。

 まさか、シエル様自身が呪われていたなんて。


「はっきりとは言えないけれど、鎧が呪いを封じる効果があるんじゃない?」

「――あ!!」


 そういえばと思い出す。シエル様の冑を、森の中で拾ったような。


「私達、森で、シエル様の冑を拾ったじゃないですか!」

「ああ、そうだったな」

「冑を被せたら、シエル様の呪いを封じることができるのではないかと!」

「試そう!」


 シエル様の冑は確かニクスの中に、しまっていたはず。


「ニクス、シエル様の冑を、出してください!」

『了解だよん』


 ニクスはペッと吐き出すように、シエル様の冑を吐き出す。


「わっ、とっと!」


 高く天井に上がった冑を、なんとか受け取った。


「リーゼロッテ、この冑なんですけれど」

「裏に、呪文が刻まれているわね」

「あ、本当ですね」


 リーゼロッテはじっと、冑の裏を見つめる。


「ど、どうですか?」

「やっぱり、何かの大きな力を封じる呪文が刻まれているわ」

「被せてみよう」


 リオンさんが冑を受け取り、シエル様の頭に被せた。

 素顔が見えている時より、シエル様っぽくなる。


「お祖父様、起きてくれ!」

「シエル様ー!!」

「マスタ!!」


 どうか、目覚めてくれ。

 あとは、祈るほかない。


 ふっと、シエル様のお腹の上に魔法陣が浮かび上がる。

 キュルキュルと音を立て、発光していた。


「うわっ、眩しっ!」


 光が収まると、鎧の表面に刻まれていた呪文が、綺麗さっぱりなくなる。

 そして――。


「うう……ん」

「シエル様!!」


 もぞりと、シエル様が動いた。


「私は――……?」

『マスターーーー!!』


 シエル様は、すぐさま起き上がる。

 コメルヴは、ひしっと抱きついていた。


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