最終決戦! その二十
メルヴの案内で、『普通ではない村』を目指す。
いったい、どんな村なのか。ドキドキが止まらない。
「リスリス衛生兵、どうしましょう。俺、ビビリなので、腰を抜かさないか心配です」
「大丈夫ですよ。ウルガスは、ルードティンク隊長で慣れているでしょう?」
「ルードティンク隊長も単独ならば大丈夫なんですが、十人も二十人もいたら、ああ、恐ろしくてガクブルしてしまいます!」
「確かに、ルードティンク隊長が十人も二十人もいたら、恐ろしいですね」
「おい、ウルガス、リスリス、何喋っているんだ」
「ひえええええ!」
「ひやああああ!」
ルードティンク隊長がすごみ顔で振り返ったので、ウルガスとふたり悲鳴をあげてしまった。
『ウーン』
メルヴは案内しながら、首を傾げていた。心なしか、頭から生えた葉っぱがしおしおになっているような気がする。
「メルヴ、どうかしたのですか? 村までの道のりが、わからなくなったのですか?」
『ウウン、ソウジャナイノ。ナンダカ、懐カシイ気持チガ、コミアゲテキテ……』
そういえば、記憶がこんがらがっていると言っていたような。
転移されたさいに、混乱が生じているのかもしれない。
「懐かしいってことは、メルヴはもしかしたら、その村に住んでいたのかもしれないですね」
『ソウ、ナノカナ?』
「ええ。懐かしいという気持ちは、とても大事で、温かなものを思い出したときに感じるものです。ただ、記憶を思い出しただけでは、懐かしいなんて、思わないんですよ」
『ソッカ。コノ懐カシイハ、大事ナ、気持チナンダ』
メルヴの中にあるモヤモヤが少し晴れたからか、しおしおだった葉っぱはツヤツヤになってピンと上を向く。
「どんな村か、楽しみですね」
『ウン!』
メルヴが懐かしさを感じる村ならば、きっと、怖い生き物がいる村ではないだろう。
もしかしたら、村人の誰かがメルヴを知っているかもしれない。
「というか、メルヴの村だったりして」
シエル様の相棒であるコメルヴは、世界樹から生まれたと話していた。
同じように、世界樹から生まれたメルヴの派生生物が住んでいる村である可能性がある。
「メルヴがたくさんの村、可愛いかもしれないですね」
『ソウカナ?』
「そうですよ」
私とメルヴの会話を聞いていたウルガスが、感心したふうに言う。
「リスリス衛生兵はすごいですね。世界樹の大精霊とも、心通わすことができるなんて」
「ただ、世間話をしていただけですが」
「普通、大精霊とは世間話なんてできないんですよ」
話をすることによって、メルヴのモヤモヤが解消されたならば、私の世間話の才能も大したものだろう。
「リスリス衛生兵がさっき話していた、懐かしいって感情の話。俺も感じることがあったら、大事にしたいと思います」
「そうですね」
ウルガスとそんなことを話しているうちに、森を抜けた。
「――わっ!」
驚いた。ついさっきまで鬱蒼とした森に囲まれていたのに、開けた草原に出てきたから。
『ココハ――』
メルヴはハッとなったかと思えば、テポテポと走り始めた。
「あっ、メルヴー!」
まあ、走るとはいっても、そこまで速いわけではないけれど。
何か思い出したのだろうか。
みんなでメルヴのあとを追いかける。すると、そこには村があった。
メルヴはダーッと、さらに走り去ってしまう。村の中に入る前に、ルードティンク隊長を見た。
「ここは、なんの村だ!?」
その問いに、答えられる者はいない。
なんていうか、メルヴが言っていた通り、普通の村ではなかった。
家の高さは、ルードティンク隊長の腰くらいしかない。とても、小さな藁葺き屋根の家が並んでいる。
「ここは、本当にメルヴの村、なんでしょうか?」
小さな家に、小さな井戸、小さなパン屋の看板に、小さな服がかかった洗濯物の竿……。
「小さな服!?」
メルヴは服を着ていない。ということは、ここはメルヴの村ではないだろう。
小さな生き物が棲む村だ。
その小さな生き物がいったい何なのかが問題であるが。
ルードティンク隊長は腕を組んだまま、指示を出そうとしない。
どうやって交流を図ったらいいのか、わからないからだろう。
じっと小さな家を眺めていたら、扉がキイと音を鳴らして開いた。
そこから出てきたのは――茶色い毛並みの、二足歩行のネズミだった。
ワンピースに、白いエプロンをかけている。円らな目に、ピンと伸びた爪、ツヤツヤの鼻先。
なんとも可愛らしい、ネズミさんである。
目と目が合い、ピクンと体を震わせていた。
『チュ、チュウ!?』
「ち、ちゅう……?」
なんとなく、同じような鳴き声を返してしまった。
『あ、あなた方は――』
喋った! エプロン姿のネズミが、可愛らしい声を発した。
遠くから、わー!! という歓声が聞こえた。同時に、誰かが走ってやってくる。
『おい、ミーナ! 大精霊様が、やってきたぞ、ってうわー!!』
登場したのは、男性物のシャツにズボンを合わせた、ネズミさん。
私達を見て、腰を抜かすほど驚いていた。
「あの、すみません。私達、怪しい者ではありません」
そう言っても、円らな瞳は驚愕の色に染まっていた。
「彼らは、鼠妖精だ」
そう呟いたのは、リオンさんである。




