最終決戦! その十八
メルヴと名乗った生き物は、ジッと私を見つめていた。
警戒をしている様子はない。
魔物みたいな邪悪な気配もなかった。
喋るということは、妖精か精霊の類いだろう。
シエル様と行動を共にしているコメルヴにそっくりだが……?
コメルヴは世界樹から生まれたという話を聞いたことがある。
「コメルヴ……世界樹……あっ!!」
思い出した。そういえば、以前、シエル様が世界樹の危険を察知し、様子を見に行ったことがあったような……!
世界樹というのは月光から降り注ぐ魔力を吸収する、魔力の貯蔵庫と言えばいいのか。
一説では、世界樹自体が魔力を生み出しているとも言われているが、詳しい研究結果は出ていない。
世界に魔力が充満しすぎたら、人体に悪影響を及ぼす。そのため、世界樹はなくてはならないものなのだ。
事件のさいに、大きなメルヴの話を聞いたことがあった。たしか、メルヴは世界樹の友達と言っていたような。
一瞬だけ、メルヴの姿も見た記憶があるような、ないような。
ずいぶん前の話なので、よく覚えていない。
詳しい話を聞いてみなくては。
しゃがみ込んで、視線を同じにする。すると、メルヴはゆっくりこちらへ近づいてきたが――突然バタリと倒れる。
「わ、わーー!!」
「おい、リスリス、どうした!?」
隊長が凶悪な顔で問いかけてくる。
「メ、メルヴが倒れました!」
「なんだ、メルヴとは!?」
「コメルヴにそっくりな生き物です」
「またお前は、変な生き物を見つけたのか?」
「変な生き物って」
なんとなく、アルブムを見てしまう。両手にキノコが刺さった串を持ち、交互に食べていた。
うん……あれは私の人生の中でも代表的な、変な生き物だ。
アメリアとステラが近づき、メルヴを覗き込んでいた。
アメリアが翼を使い、うつ伏せに倒れていたメルヴをひっくり返す。
『クエクエ?』
『クウ……』
この子、カサカサだよ、と言っている。
警戒心が強いアメリアとステラが平気そうにしているので、大丈夫だろう。
近づいてメルヴの様子を見てみたら、表面はしおしおでしなびているように見えた。
「メルヴ、大丈夫ですか?」
『ワカラナイ……蔓ガ、切レチャッタカラ』
「蔓?」
メルヴの頭の上から蔓が伸びているが、途中で切れていた。
「わっ、どうしましょう!? リヒテンベルガー侯爵に回復魔法を――」
『回復魔法デハ、戻ラナイノ』
「べ、別の方法は、何かご存じですか?」
『砂糖水カ、蜂蜜水ガアッタラ、元ニ、戻ルカモ……?』
メルヴは息も切れ切れの様子で、今にも力尽きてしまいそうだ。
助けてあげたいけれど、残念ながら砂糖も蜂蜜も、水ですら持っていない。
「どっ、どうすればー!?」
『クエクエ、クエ』
『クウクウ、クウ』
アメリアとステラは、果物を搾って与えたらいいと言ってくれる。先ほどアルブムが発見した、果汁が豊富な果物をあげよう。
果物の皮を剝き、細かく刻んだものをハンカチに包んで、さらに布を被せてナイフの柄でどんどん叩く。
果汁を多く含んだハンカチを、メルヴの口元で絞った。
口に果汁が落ちると、ムニャムニャと動いた。問題なさそうなので、どんどん飲ませる。
『クエクエ!?』
『クウッ!!』
メルヴのしおしおだった体に、張りが出てくる。瞳にも、光が宿った。
すべて飲みきったら、むくりと起き上がる。
『アリガトウ。オイシカッタヨ』
「いえいえ」
とりあえず、自己紹介する。
「私はメル・リスリスと申します」
『メルヴハ、メルヴダヨ』
「メルヴはどうして、ここに?」
『メルヴモ、ワカラナイノ』
「気がついたら、ここにいたと?」
『ソウ』
私達同様、不思議な力でここの森に誘われたのだろうか。
「メルヴは、世界樹と、この蔓で繋がっていたのですか?」
『ソウダヨ』
「もしかして、切れたままだと、大変なことになります?」
『タブン。ア、デモネ、果汁飲ンダラ、スゴク、元気ニナッタヨ』
「そ、そうですか……」
メルヴの住み処は『大森林』である。
シエル様ならば、転移魔法で連れて帰れるはずだ。
とりあえず、行動を共にするしかない。
メルヴの体力を温存させるために、持ち上げる。
アルブムが羨ましそうな表情で私を見上げていたが、不思議生物を二体も持ち上げる腕力は私にはなかった。そのため、見ない振りを決め込む。
「えーっと、すみません。隊長、メルヴも同行します」
隊長は返事をせずに、はーとため息を返していた。




